[魔法使いと御者の間に、特別な関係などはない。
御者にとっては、たまたま遠い街の酒場で飲みあった相手が唐突に、これから魔物を殺害しに行く魔法使いだと告白してきただけのこと。
そして、魔法使いへの恐れより魔物への憤りが僅かに勝った御者が、酔いに任せて力を貸したいと訴え出てきただけのこと。
行きのみ送り届けることを魔法使いが承諾したことも含め、どれも、珍しいケースではあったかもしれないが]
本来なら、直接マーキングしてやれば確実ではあったんだがな。
それは勘弁してくれ。私にも羞恥心というものがある。
[あの時、「助かる。私は濡れるのが嫌いだからな」と答えた時と同じ。
あははっ、と女と紛う無邪気な笑みを残し、魔法使いが荷台へと戻って行く]
あぁ。それと、酔ってきたのは本当だ。
だから、ゆっくりで頼む。本当に頼む。
[白狼のヴェラ。
そんな二つ名を持つ魔法使いを乗せて、幌馬車は再び走りだす。
目指すは、雨尽きぬ廃村・ノア**]
(6) 2013/06/09(Sun) 03時頃