[少年の言葉に、いつぞや聞いた言葉を思い出す。悪も正義もその人の立場によって変わる、だったか。…自分のも外から見た考えに過ぎないな、なんて思いながら、けらけらと笑う少年を見つめる。
鼠の好意を受け取らなかった、という言葉から察するに贈られた財宝を返しにでも行ったのだろうか。何処か遠くを見つめる少年に、少しさみしさを感じた。
参区の嫌な思い出について触れられれば、言葉に詰まる。嫌な思い出がある、と伝えればそれ以上踏み込んでは来ないと思ったが浅はかな考えだったようだ。邪気の無い真っ直ぐな目で見つめてくる少年に対して、少し目を逸らし答えた。]
…この髪色、目立つでしょ。武家や公家の人は嫌いだからね、こういうの。
[言い終わると、にこりと一つ微笑む。そしてもう一つの理由は言わずに口を噤む……つもりだった。恐らく相当気が滅入っていて、且つ少年の放つ無邪気な視線で安心してしまったのだろう。]
……あと、母だった人がいる。
[笑顔と共に何故かこの言葉が滑り落ちてしまった。気まずさからもう一度目を逸らす。
ところで僕は何故そんなに母に会いたく無いのだろうか。ただの、商品としての母に、何の思い入れも……。]
(5) 2015/01/26(Mon) 09時半頃