[降り積もった薄桃色の中から、ゆっくり幼子の上体が起き上がる。紅色の着物から、はらはらと淡雪のように花弁が落ちるのを、息を飲んで見守った。
辺りを窺う様子からは、困惑が手に取るように伝わってくる。やがて聴こえた、だれ、と問う細い声に、まるで鏡合わせの様な奇妙な既視感。
僅かに傾いだ首の動きに、つられた黒髪が流れて落ちる。
はっとして居住まいを正した。幼子が状況を呑み込めていないらしいのに、心当たりがあったからだ。
出来るだけ怯えさせないように、柔らかい表情で少し距離を詰めてみる。敵意が無いことを示そうと、膝を抱えるようにしゃがみ、視線を合わせて言った。]
わたしは、小鈴。
伊那の村の樹医の娘で、今はお祭りの準備中。
あなたは────【別神(ことかみ)様】ね。外の世界からきたんでしょ?
[先程目の前の幼子がしたように、少し首を傾げて笑うと、よくある事なんだよ、と付け加えた。]
(4) 2015/04/17(Fri) 00時頃