[新聞売りの手から滑り落ちたのか、
それとももう用済みとなったのか。
ホームの床に落ち、足跡まみれになった新聞紙の一面。
ぶかぶかの外套を纏った少年はしゃがみ込み見つめていた。
新聞紙を拾い上げようとした瞬間、
誰かの厳ついブーツがそれを踏み付けた。
びりり、と音を立て只でさえ満身創痍だった新聞紙は
遂に半分に引き裂ける。
一瞬怯えたように狼狽え、見上げたがブーツの主はとっくに人の海の向こう側、少年の事に気付きすらしなかったらしい
–––あの剣幕、掏摸でも追っていたのだろうか。
ひふ、と息を吐くと、
拾い上げた新聞紙の片割れをくしゃりと握り、
売店側の壁へとそろそろと移動する。
売り子とも目が合わぬよう、積み上げられた木箱の陰にしゃがみ込む。
行き交う人の流れを警戒するように横目で見ながら、
少年は恐る恐る、新聞紙を両手で広げる。
その両手は、素手で岩盤でも掘ったかの様に、擦り剥け、膿んでいる。]
(1) 2015/11/26(Thu) 23時頃