――秋月邸:書斎――
んあ。
[夢現から本格的な眠りに移行しようとしていた時に聞こえた襖が開けられる音。
眼鏡のズレた間抜けな顔で、そちらを見遣れば昨日空き地で会った跛足の優男の姿>>1:140があった。]
おょょ。
何故に田中君が私の書斎に居るのだ?
[今朝、女中から聞かされていたにも関わらず、不思議そう口を開ける。
その、鷹揚とした調子から、己の知らない間――要するに使用人判断でということになるが――に他人が邸に上がり込んでいること自体にはあまり関心がないことが解るだろう。
最も、その無関心が良いことか悪いことかは別ではあるが。]
ああ、皆その様に言うなぁ。
文の法則さえ理解してしまえば、どんな言語であっても簡単に読める筈なんだがね。
[藤之介の手にしている文献は独逸語で書かれているものだ。]
私にしてみれば、多くの者が限られた狭い価値観に縛られて生活し、そのことを疑問にすら思わないことが不思議でならないよ。
(0) 2011/09/14(Wed) 08時頃