[ひとしきり散策して、帰路へついたのは既に陽が落ちた後だった。途中、馴染みの書店に寄り、一冊だけ、本を買った。子供の頃よく読んでいた冒険物語の外伝で、少年だった主人公はいつしか中年になって――という、かつて少年だった、いまは中年の読者に向けた作品だ。歩きながらちらりと頁をめくったが、冒頭から中年の悲哀に満ち溢れていて、思わず苦笑いが漏れる。ふと、知った顔が視界に入ったような気がして、立ち止まり振り返った。金髪の女と、黒髪の男が並んで歩いている。軽く首を傾げて、しかし再び、歩みを進め。] ―――[どこかで遠吠えが、聞こえた。]
(0) 2014/07/09(Wed) 01時半頃