[やや時を置けば、漸く、東の空に月が顔を見せはじめた。
───ああ、今夜も、朱い。
思い出すのは、己の力を知った、あの日のこと。
物心ついた頃には、もう親はいなかった。
とはいっても、人ではなく、獣として。
路地で残飯を漁ったり小動物を食らったりな、どこにでもいる野良犬。
ただその野良は犬ではなく、狼だった。
もっといえば、ヒトオオカミだった。
いつの頃か、ヒトの姿をとれることに気が付けば、路地に干されている服を盗り、周りの人間がするように、着てみたりした。
ただ、まだその頃は、自身の幼い爪が、簡単に人間を引き裂けるほどの力を持つことなど知らなかった。
そして、人間の血が、肉が、残飯や小動物よりずっと美味だということも。
───あの日、路地で襲われるまでは。>>*15
そして、返り討ちとした男達の血肉を齧るまでは。*]
(+60) 2014/12/14(Sun) 00時半頃