258 【突発誰歓】鬼渡し弐
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[ 覗き込んだ鏡が割れるように、 或いは、開け放された扉が閉まるように。 ]
[ >>5:36ぴしって罅が入った音を聞いた気がした。 何かが粉々に砕け散ったような感じが、した。 ]
[ 気が付けば止まった太陽は落ちて、…深夜。 吐いた呼気は薄らと白がかって直ぐに冷たくなる。 ]
……戻ってきちまったのかい
[ つかまえた ] [ 自分であって自分でないような声と 並ぶ双肩を叩いた生々しい感覚だけ手に残っていた。 ]
あの子ら、…どうしたろうね
[ ぽつ、と、つぶやく。 ] [ ―――― 返事は、ない。 ]
(28) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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[ 曼珠神社の中に季節はずれの赤い色は見当たらない。 今日はいつもよりも大分、冷え込んでいるみたい。 "向こう"では感じなかった年齢の重みが寄りかかってくる。 ]
晩ご飯の支度も言いつけてなかったし、 …それから布団の用意だってしてないさね。
それと――それと、ネリエルさんからは『泊まる』って 直接聞いていなかったんだ。そうそう。
やることは山積みだもの。……帰らなきゃあねえ。
[ 久々に泣いていた気がするけれど、 頬には涙のあとは無いし、泣いた気もしない。 …それでもなんだか、すっきりとした気分だった。 ]
(29) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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[ 曼珠神社は村はずれ。 あたしの勤め先までは大分、遠い。 ]
ああよりにもよって裸足で戻さなくたってサ。 まるで夫から夜逃げしてきた妻みたいじゃないか。
[ 嘆きながら歩く帰り道。 冷たい土を裸足が踏んで、大して時間も経たず 慌てたみたいに誰か駆けてくる足音がするんだ。>>8 振り向いたら背負われている顔も、背負う顔も…知ってる。 ]
……眠くて寝ちまったって感じじゃないねえ。 おいで。うちの車なら村の病院まで飛ばしていける。
…でも、田舎だからね。あんまり期待はしない方がいいさね。 あたしは篁の家に電話をしておくから車は好きに使っとくれ。
[ 察した事態を元に言葉を並べたら車のキーを放る。 手早く動けたのは職業柄というか…なんというか。 ]
(31) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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[ その脇で電柱に登ろうとしていた時代錯誤の子どもがいたとか 自分の娘を痛いほど心配する母親がいるだとか。>>7 それら全ては神様じゃないもの、知ることは出来なかった。 ]
[ 『アキくん』が救急搬送されるに至って、 うちの宿泊客がもう一人>>19手を貸してくれたから、 彼には気前よく三つくらい飴ちゃんを渡しておいたさ。 それと、連絡先を。 …緊急搬送された先の病院について聞きたくて。って。 ]
[ 言った。…建前は。 ]
(32) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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[ 本当は――ねえ。あいつのことが聞けるって …… 未練がましく喜んでいるんでしょう? ]
[ 知っているのよ、あたし。 自分のことだもの。 ]
[ 逃げないで、逃げないで、逃げないで ]
[ 繰り返す言葉は自覚しなくったって 心の中では、まだ叫び続けているのに! ]
(*23) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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[ あいつが後輩にあたしの話を詳しく言わないのも当たり前。 だって、捨ててきた女がいる故郷の話なんてしたかないだろ?
あいつにとってのあたしは過去で、 あたしにとっての彼(あいつ)は未来だった。
最初からすれ違っていたから、交わることなんて無かった。 ]
(33) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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[ 馬鹿なあたし 何時になったら そのことと正面切って向き合える? ]
[ …そんなの神様だってわからないさ。 ]
(*24) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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[ 自嘲めいた囁き声は風のように過ぎて、 声にすらならず、ふわりと浮かんでは消える。
亜沙華の広間に置いてある机を拭いている間も。 玄関の掃き掃除をしている時も。…ずうっと。 捨てたいものを捨てられない惨めなあたしがそこに居る。 ]
…………今日の晩御飯は何にしようかねえ。
[ それでもあたしは殊更大きな声で喋って ( …自分を奮い立たせるみたいに ) お客を迎えて、寝て、起きて、働いて生きていく。 ]
(34) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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こんにちは、ようこそいらっしゃいましたねえ さあさあそんなとこにぽやっとつったってないで中に!
[ 今日もまたやって来た夫婦を笑顔で迎え入れた。 悔やんでも、泣いても、悲しんでも――それでも、 ]
[ *これがあたしの"いつもどおり"だから* ]
(36) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時頃
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― 名の知れた家の気苦労 ―
[ 曼珠村には幾つか名の知れた古い家が残っている。 御門の家や、篁の家などがそう。
…但し、古い家である分家同士の確執なんかも多い。 姉と篁の家の二番目の兄さん>>*20は婚約しているけど、 彼処の家には一人だけだ!って祖父の教えに則って、 あたしは別の家の人間と許嫁になったわけさ。 親だのその上の祖父祖母だのに嫁ぎ先を決められるなんて まるで犬や猫みたいだって、姉は嘆いていたけど。
実質的に勘当されたあたしの(元)婚約者様みたいに 家を飛び出してまで言いつけに背くことはしないつもりらしい。
お金持ちの家だし、大事にしてくれるだろうってさ。 別に好きでもないけど、家の決めたことだからって。 そう経たないうちに御門の家と篁の家は婚族になるんだろう。 その時にはあの赤い花の咲いた別の世界で見た顔と>>5:35 もしかしたら顔を合わせることがあるかもしれないね。 ]
(*26) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時半頃
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[ …もしかしたら引き取られた誰か>>30とも。 ]
[ 婚約者のいなくなったあたしには、 別の家か、それとも篁の家からか。
また誰か相手を見繕って兎も角家を出そうって話があるらしい。 婚約者に逃げられた娘なんて家の恥なんだってさ。 近くはダメだ、いっそのこと遠くの医者や弁護士を探すかって、 親戚連中が話しているのを、少し前に聞いた。
あたし、逃げないなんて一言だって言っちゃいないのにね。 もしかしたら見合い写真の中に知り合いに似た顔>>19が あったりしたかもしれないけど、よく見ていないから知らない。
将来性のない仕事。 …つまりは辞め易い仕事ということでもある。 ]
(*27) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時半頃
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いっそ貯金をぱーっと使って旅にでも出ちまおうかしら。
[ ふと、そんなことを思いついたのは 全てが終わったあと、村の中も落ち着いてきた頃だったか。* ]
(38) rinaria 2016/11/23(Wed) 13時半頃
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