194 花籠遊里
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ーそしてとある満月の夜ー
[今日は満月、花見習いの禿が紫と自分を呼ぶ声がするも、自分が誰かと月を見るのを避けるのを知っている先輩娼はそれを制する しかし今日は、いつもより少しだけ体調が良くて 空に掛かる月が泣きたくなる位に綺麗で その月があの日、『藤』であった頃見たものによく似ていたから]
今日は私も、月を見ながら涼みましょうかね。
[そう、気紛れを起こしたのだ すっかりあの頃に比べればみすぼらしくなった姿、立ち上がれば少しふら付きそうになるも、手摺りに手を置き一歩一歩と足を進め 街灯明かりが宵闇照らし、少しだけ月を見えづらくした縁側へと
そこに座れば先輩娼は珍しいと笑み零しながら隣へと誘う 座ればそうそう、と世間話を始めるのに相槌をうっていれば――]
(27) sinonome 2014/09/24(Wed) 02時半頃
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["知っている?花籠の主の手足となった元花の話を"と かつての鳥籠の名を聞けば少しだけ身体が揺れるも平生装い続きを促す 話を聞いていくうちに、元々病的に白くなっていた顔は蒼白になったろうか]
朧、どうして。
[呟く声は小さく。何故年季の明けたであろう彼が、この下町を彷徨い歩くのだろうと 揺れる瞳は動揺を隠しきれず、ふらふら幽鬼の様に表通りへと無意識に足は向く そして丁度、娼館の出口へと。敷居を跨げば視界に翻るは紺色の羽織。煌びやかで派手な山吹色のものではない、鳶色の着物をまとった美しい月を見て
息を、飲んだ]
(28) sinonome 2014/09/24(Wed) 02時半頃
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[月には見られたくないと、何時も客に強請った こんなはしたなく男に抱かれ婀娜の様に媚び善がり狂う様を彼と同じ名を持つ空照らす灯に見られたくなかった こんなことをしても本質的に汚れてしまったことには変わりないのに]
……おぼろ
[小さく小さく、呟く言葉は震えているだろう 今の自分は花の頃と随分様変わりした 琴を爪弾く爪は欠け、肌の白さは病的なほど あの頃より褪せた藤色の髪止めと着物は風に煽られ、その風はつむじとなって2人の間を駆け抜ける
嗚呼近づいてくる、美しい月が>>55
一歩 長い焦茶の髪は月光を背に煌めき
二歩 揺れる着物は落ち着いた色合いで、彼に似合っていて
三歩 僅か薫る煙草の香りはあの頃と変わらない
そこで立ち止まる朧月は、手を伸ばせば届くだろうか届かぬだろうかという距離に]
(64) sinonome 2014/09/25(Thu) 01時半頃
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[あいたかった あいたくなかった
その姿をもういちど、たった一目でいい、みたかった こんなみすぼらしい己の姿を見られたくなかった
彼の顔に浮かぶ色は、淡く美しい色 その顔に嫌悪が無かったことが、泣きたい位に嬉しいのに 薄汚れたこの身が恨めしい 最後に覚えてもらえるならば、美しいままでいたかったと そんな決意が彼が告げる己の花としての名で、崩れていく]
(65) sinonome 2014/09/25(Thu) 01時半頃
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[本当ならどうしてこんな場所へ 早くお帰り下さい 藤之助は死んだのです
幾らでも言い様があったろう。もうこの場へ立ち入らぬ様にと、去ってと告げるのが最上だとわかっていたのに 浅ましい己の心は歓喜していた。忘れないでいてくれたことを
唇から言葉は漏れず。思わずその伸ばそうとした手に己が手を重ねようとするのを必死で押し留め
ああでも]
(66) sinonome 2014/09/25(Thu) 01時半頃
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……っ、ちが……
[逆だと。泣きたい位に嬉しかったのだと紡ごうとした言の葉は頬に手を添えられ>>71空に溶ける
温かい手に頬触れられれば溢れる涙は止められぬ。その手を濡らし零れ落ちた雫は心に沁みゆく様に1つ2つ、頑なな花弁を剥がしてゆく
あいたかった。ずっとずっとあなただけに その手に触れたかった、貴方の笑顔が見たかった 声が聞きたかった
再会までに何度季節が過ぎ去っただろう。 彼のかんばせは花であった頃より深みが出てどこか安心感を抱かせる
その彼の口から告げられた言葉に黒瞳は朧月をかくと捉え]
朧、おぼろ。 私は、わたしはただ、あなたと
[手に手をとって籠の外に逃げ出した鶴と亀の様にともにいきたかったのだと 嗚咽と共に零れ落ちた願いは、果たして聞こえたかどうか]
(72) sinonome 2014/09/25(Thu) 02時頃
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[強く引かれた手>>85、それに目を丸くするも長年酷使された体は踏ん張ることもできず彼の胸元に飛びこむように身体は傾ぐ 壊れ物を扱う様に抱きしめられればどきり、と鼓動が跳ねる。記憶の中の彼より、幾分か胸元は厚くなっているのは職業柄であろうか、それとも自分が弱り、衰えてしまっているからだろうか
自分の名が呼ばれる、それだけで赤くなる頬に動揺が抑えきれない。昔みたいに気持ちを隠すことがどうしてできないのか。 別れてから長すぎる年月は、心の奥底に沈めた思いを風化させるどころかより濃く熱く焦げつくように燃え広がってこの胸を掻き毟る 髪撫でるその手が、温かすぎてもう
欲しかったその優しい手がいまここにある 逢いたかった人に抱きしめられ、こうして名を囁かれ。ああもう私は、一生分の運を使い果たしてしまったのだろう。そう思ってしまう位にしあわせ、というのだろうか]
(91) sinonome 2014/09/26(Fri) 00時半頃
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――浚って。連れて行って…… 一生でなくてもいい。貴方の刻が欲しい
[手に手をとって去って行った鶴と亀 あの時、言えなかった言葉 あの2人の様には難しいとは分かっている 迷惑だろう事は分かっている
それでも、願うだけなら――許してくれないだろうか 貴方が、好きだから]
(92) sinonome 2014/09/26(Fri) 00時半頃
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[忘れてと、別れの前日願った言葉 嘘だ、嘘だ嘘だった 忘れないでほしかった。心の一片でも占領できたらと。綺麗な頃の自分のままでなんて醜い願いを抱いて、本当の願いを言えなかった、あの秋の日の夕暮れ。空に滲んでいたのは白い月
そして今――自分の肩越し、隠される朧月夜>>99 囁き落とされれば頬全体に朱が奔り、耳まで染め上げられたのははたして気付かれたか、どうか
記憶より少し伸びた焦げ茶の髪に両手を伸ばし優しく梳いて。何度も、何度も 秋風とともに薫るのは花としての香りではなく、優しいいつもの、煙草の]
忘れないで。
――私は、私もお慕いしています ずっと貴方が好きだった……
[ほろり、とまた1つ涙が零れ落ち、それは彼の纏う紺の羽織りに染みを作る 立場とか、この身の下賤さとか そんなものをなにもかも忘れる位に ただ、その腕の檻に抱かれて、そこで咲きたいと願うのだ]
(100) sinonome 2014/09/26(Fri) 01時半頃
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[だから]
……貴方を望んで、いいですか?
(101) sinonome 2014/09/26(Fri) 01時半頃
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[友という霞で包んでひた隠しにしてきた心 力を込めて抱かれれば>>103、より彼の胸元に寄り添うようになり。熱が身体を支配する
髪撫でる手はいつしかその背に回され、離したくないとしがみ付く幼子の様に――別れ惜しみ縋る恋人の様に抱きついて 柔らかな秋の月明かりに淡く焦茶の髪が光の輪を作り、秋風に舞う様子を視界の端に捕えながら零れる吐息は安堵と歓びに溢れていた
凛とした佇まいの中に感じる海の様な穏やかさ ふとした瞬間に紡がれる優しさに もう何時になるか分からない位ずっと昔に恋していた]
(105) sinonome 2014/09/26(Fri) 02時頃
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横暴じゃないです。 私の一生、貰って下さい。
[貴方じゃないといやだ、と 彼の声に滲む温かさ、それに応える様に自分の声に滲むは愛しさだったろう 問題も何もかも呑み込んで、浚いにきてくれるのならば、一時別れる切なさも悲しさも胸切られる思いも呑み込んで]
霞は、お待ちしてます、ずっと
[頭撫でる手に擽ったそうにしつつも、幸せそうに笑う姿を見れば同時に彼には赤く染まった頬が見られてしまったろう 花である前親から贈られた己が名告げながら解放される際の寂寥感を押し込めて、彼に微笑む姿はかつての鏡花と言われた物よりもっと柔らかく
それは彼にしか見せぬ、心からの笑みだった]
(106) sinonome 2014/09/26(Fri) 02時頃
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ー新月の晩ー [月明かりもない、星の輝きすら鈍いこの日 誘蛾灯の様に娼館の灯は蝶『きゃく』を引き寄せる 珍しく入口に立つ紫を、先輩娼や禿の子らはどうしたんだろうと顔を見合せながら眺めていた
そして聞こえる、足音>>140]
……あ。
[おぼろ、と彼を呼ぶ。ふわりと笑みを零すのを見ればしあわせすぎて、胸が苦しくなって 涙腺緩むのを耐えながら、彼に向け浮かべるのは柔らかな笑み
ふわりと身体が宙へと舞ったか、と思えば彼の腕の中。手荷物は小さな風呂敷1つだけ 彼の胸元体預け、伸ばされた手は首へと回される]
佐吉
[唇紡ぐは彼の名前。彼が紡ぐも自分の名前 それがたまらなく嬉しくて。もういちど、声に出さず名を紡いだ後に]
(152) sinonome 2014/09/27(Sat) 00時頃
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貰って下さい。貴方の傍でないと笑えない。 一生お傍に置いて下さい……だから
一緒に月を、見ましょう。
[愛している思い、その言葉に全てを込めて 花開くは彼の傍とばかりに、頬に一筋伝うは嬉し涙だった]
(153) sinonome 2014/09/27(Sat) 00時頃
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ごめんなさい、佐吉。 でも止まらないんです、嬉しくて。
[涙拭う指腹、それを追えば視線が合って>>161 朱色に染まる彼の耳と同じ位に此方の頬にも紅は宿る 負担をかけてしまうかもしれないけれど、その腕に抱かれるのは心地良いと、首に腕まわし身体預けたままに娼館を出る 月明かりもない暗い夜でも、これから歩むであろう未知の先は星の明かりに彩られているのではないか そんな事を考えながら彼の胸元から聞こえる鼓動の子守歌に瞳は柔らかく細められる]
(172) sinonome 2014/09/27(Sat) 01時頃
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私の故郷は雪山の麓ですから。 寒さは大丈夫です。それにほらこんなにも――温かい。
[貴方がいるから、と 僅かに身体が強張るのを感じれば、大丈夫だというかの様に首にまわした掌で髪を梳き
抱かれたままに彼の目線よりやや下の方、街明かりを眺めれば、それは壮大な誘蛾灯に見えた でも己が背にも彼の背にも翅はあらず、さりとてもう蜜湛えた蕾もあらず 1人の人間として共に、歩んでいくのだと実感して]
[やがて重なる唇は、今まで経験したどんなものより甘く、優しく愛しかった]
我慢なんてしないでください。私もしません。 ねぇ、佐吉さん。
[勿忘草の花言葉。真実の友情というオブラートに隠していた私を忘れないでという恋心、それらは今、誠の愛へと花開いて
だから笑み浮かべ告げるのだ]
(173) sinonome 2014/09/27(Sat) 01時頃
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