182 【身内】白粉花の村
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―ベンチ前―
[院長室へ向かう途中、大きな花束>>@0に気付いた。 おもむろに近付いて、ベンチに置かれた花束を、そっと持ち上げる。 職員皆で用意したというそれは、忘れられてしまったようだ。……否。あの幼馴染のことだから、もしかしたら故意に置いていったのかもしれない。
けれど、そこに置いてあったのは華美な花束だけで。 自分が贈った質素な紫陽花は、恐らく未だ彼の手中にあるのだろう。 ……それだけ知れば、充分だ。それ以上は、何も。望むことなんて、ない。 きらびやかなそれより、自分の贈ったものを選んでくれた。それだけで]
[別に今生の別れというわけでもない。 暫く会うことは出来ないけれど、電話をするくらいなら出来るだろう。いや、本当なら許されていないが、院長権限というやつだ]
……待っていておくれ。 いつかきっと、迎えに行くから。
[彼には言えなかった言葉を、忘れ去られた花束に贈って。その大きな花束を持ったまま、再び院長室へと向かう。 向こうが落ち着いた頃に、連絡しよう。そんな事を考えながら]
(*0) 2014/06/24(Tue) 15時半頃
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[壁にかけてある時計を見て、そろそろ向こうも落ち着いた頃かと嘆息する。
机の一番上の引き出しを開けて、中に携帯電話を取り出した。本当はこの院内で使うのはいけないのだけれど、バレなければいいだろう。
彼の部屋に備え付けてあるだろう電話の番号を押し、耳に当てる。軽快な呼び出し音が妙に焦れったくて、自然と足が揺れた]
[何を話せばいいのか、それすら分からないけれど。それでもせめて、彼の声が聞きたくて。 ……さて、彼は電話に気付いてくれるだろうか]
(*1) 2014/06/25(Wed) 09時頃
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[暫く鳴り続ける呼び出し音に、気付いてはもらえなかったかと気落ちする。 無理もない。転院したばかりなのだ、疲れてもいるだろう。 日を改めれば良かったか……そう思って、電話を切ろうとしたところに、彼の声が耳に飛び込んできた]
……、
[咄嗟に言葉が出なくて、寸の間沈黙する。 けれど思考が追いついてくれば、深く息を吐いて笑みを作った。勿論、電話の向こうの相手には伝わらないだろうが]
僕だよ、キリシマだ。 今、大丈夫かい?疲れているようなら、かけ直すけれど……。
[どうせ用事らしい用事など無いんだ。声も聞けたし、彼が無事にあちらに着いたと確認出来たから、別に今電話を切ることに抵抗は無い。 それでも許されるなら、このまま会話を続けてくれと、祈るような気持ちでそう思った]
(*2) 2014/06/25(Wed) 10時半頃
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……それなら良かった。 でも、無理はしないでくれよ。倒れられたらたまらない。
[彼の驚いた声には苦笑を落とす。連絡をすると、そう言っておけば良かっただろうか。思えば伝え忘れたことは、他にもたくさんある気がする。けれど今すぐそれを形にする勇気は、残念ながら無かった]
暫くの間耐えてくれよ。 経過を看るって言っても、そう長い間じゃあない。
[ぶつけられた不満に苦笑して。甘えられているのだと分かったから、思わず宥めるような声音になった。 いつも歳上ぶるのに、こういう時は子供みたいだ。けれどそれが向けられるのは自分だけだと分かっているから、悪い気はしない]
変わったことなら、そちらの方がよっぽどありそうだけど……、 ああ、そうだ。花束が置いたままだった。必要ならそちらに送るよ。
[もしかしたら故意で置いていったのかもしれない。そんな考えはあったけれど。 そうでないのなら、車で行ける距離だ、あちらに送るのはそう難しくないだろう]
(*3) 2014/06/25(Wed) 12時頃
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[吐き出された言葉に、少しだけ目を細めて。 彼のこういう負け惜しみの仕方は、微笑ましいと思えば良いのか、注意すれば良いのか、少々判断に困る。自分の体をもっと大切にしてくれと、そう言ったところで、果たして彼には通じるだろうか]
あまり拗ねるなよ。 そんなんだから子供扱いされるんだ。
[冷たくなった言葉に、どう返したものか分からなくて、結果こちらも突き放す形になってしまう。けれどその声音には、呆れよりも気遣いが含まれていただろう]
僕でよければ貴方の話し相手になるさ。 番号はそっちに登録してあるはずだから、いつでも連絡してくれよ。
[宥める口調は依然変わりなく。彼の視線の先に何があるかなんて、考えもしなかった]
(*4) 2014/06/25(Wed) 15時半頃
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――ああ、そうか。 そうだな、飾らせてもらうよ。
[送らなくてもいいと、その言葉に深く安堵する。 最初から送るつもりなどなかったと言ったら、彼は驚くだろうか?勿論、わざわざそれを伝えるつもりもないけれど。 花に罪は無いが、アレは近々ゴミ箱行きだ。自分には花なんて似合わない。それに、彼の為に作られたそれは、正直気に食わなかったから。
……貴方の傍にあるのは、僕の花束だけでいい。仄暗い気持ちを押し込んで、意識して軽く言葉を重ねる]
何かあったら、すぐに言ってくれよ。 僕が出来ることなら叶えさせてもらうからさ。
(*5) 2014/06/25(Wed) 15時半頃
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……似合わない自覚はあるよ。
[彼の言葉に、その通りだろうと同調して。せいぜい自分に似合うのは、そこらの雑草が良いところだろうと自嘲する。 眉目麗しい彼の傍にずっと居たから、自らがどれだけみすぼらしいか、その自覚はあった。別に、卑屈になっているつもりはないけれど]
木? それは……喜んで良いのか微妙なところだな。
[困惑混じりに、眉を下げる。幼馴染の意図など分からないし、皮肉じみた言葉もあって、平均より幾らか高いこの身長を揶揄されているのかと思ったのだ。 けれどまあ、それに反発する気も起きず、似合うかなあ……などと、木になった自分を連想してみたりもする。いまいちピンとこなかったが]
(*6) 2014/06/26(Thu) 08時半頃
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……ああ、そうだな。今度送るよ。
[生憎と、これまで学術書ばかり読んできたから、彼の気に入るものが選べるとは思えなかったけれど。それでも相手が自分が選んだものを、というのなら、拒む理由は無かった]
此方は少し忙しくてね、時間がかかるかもしれないけれど。 ――きっと送るよ。
[本当は手渡し出来れば良いと、そう思ったが、今此処を離れるわけにもいかない。 早く他の患者の治療法を見つけ出さなければと急く心を隠して、出来るだけ穏やかな口調でそう言った]
(*7) 2014/06/26(Thu) 08時半頃
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[そういう考え方もあるのか。 けれどそれは持ち上げられ過ぎているようで、どうにも落ち着かない。残念そうな口調も相まって、返す言葉を無くしてしまう]
僕は……木も花も、そう変わらないと思うよ。 花の蜜がなければ、生きていけない生物だっているだろう?
[言葉の中の羨望には気付かなかったけれど、それに自虐が含まれていることを感じ取って、窘めるように言葉を送る。 少なくとも、自分は彼に救われているのだと、居なければならない存在なのだと、そう伝えたいけれど。 ”花”という名目で語られたのであれば、それも難しい。……ずるい人だ]
貴方の為なら時間くらい作るさ。 長い付き合いだろう?それくらいさせてくれ。
[本当なら、彼の願いは何だって叶えてやりたいのだ。 勿論自分の立場や彼の体調を考えれば、それは許されないのだけれど]
(*8) 2014/06/26(Thu) 12時頃
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――え、 あ、ああ。そうか、もうそんな時間か。
[時計は見ていたから、回診などには重ならない時間にかけた筈だ。すぐに嘘だと分かったけれど、彼が会話を打ち切りたいのなら、続けるつもりもない。何か悪いことを言ったかと、少し不安にはなったが]
つ、次は……君が、かけてくれないか。 ……いつでも良いから。
[らしくもなく、懇願めいた言葉を吐き出して。少し上気した頬を自覚すれば、初めて、目の前に彼が居なくて良いと思った。こんな姿、彼に見られたらからかわれるに決まっている。 こんなおこがましい願いを口にするのは、随分と躊躇われたけれど。 どうか了承してくれと、祈る様な気持ちで返事を待った]
(*9) 2014/06/26(Thu) 12時頃
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