231 獣ノ國 - under the ground -
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[誰かをもてなしたことのない私は、どうやってもてなせばいいのかよくわからない。 おもてなしはできない、と言ったけれど、それでも私がベッドに座って、お客様であるところのフィリップが床>>49というのは、もてなさないにも程がある。 お客様を床に座らせていることにか、そもそも、自分の部屋に他の誰かがいることにか、少し居心地の悪さを感じて、私は誤魔化すように本を開く。 やがて、触れる手>>50に、フィリップが食事を終えたことに気づくと、顔を上げた。 お腹は膨れたの、と尋ねようとして、それより前にフィリップが口を開く気配を感じれば、その言葉を飲み込む]
……そうね。 私も、そう思うわ。
[飛べるかもしれない。その切っ掛けになるかもしれない、私の秘密。 先ほどなにかあった? と聞かれた返事を保留にしていることを思い出す]
……なにか、あったの?
[それでも私は、まだ打ち明けるか決めかねていて。 代わりに、質問を返した]
(51) 2015/07/12(Sun) 19時頃
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マユミは、フィリップの側で林檎の芯を突く、彼の兄の方をそっと眺めた。
2015/07/12(Sun) 19時頃
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[なにかあった、とフィリップは言う>>52。 それはそうだろう。でなければ、赤い目元になって、誰にも会いたくないなんて言うわけがないのだから。 促すように一つ頷いて、フィリップの話に耳を傾けて。 そうして語られた話に思わず息を詰めた]
……その、「鍵」というのは。 文字通りの鍵のことなのかしら。 それとも、何かの比喩なのかしら。
[フィリップの持っている情報をはかりかねて、私は用心深く発言する。 比喩的な意味でなら、私の持っている秘密も鍵といえるのかもしれない。 もしかしたら、フィリップも知っているのか。それとも、全然違う情報を持っているのか。 別に、駆け引きをするつもりなんてない。フィリップを信用していないわけではない。 ただ、下手なタイミングで下手に情報を与えては、フィリップが混乱するだけかもしれないから。 だから、私はとりあえず、聞き役に徹することにする。 これ以上、フィリップの目元が腫れるようなことが、なければいい]
(54) 2015/07/12(Sun) 19時半頃
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[その声には確かに覚えがあった。 聞き慣れないな、と感じた声。 獣にしか聞こえない、秘密の会話を始めた声]
奪う、というのは、穏やかではないわね。
[だとすれば、そのチェビイというのは、獣の味方ではないのだろうか。獣なのに? 鍵を持っている? 獣なのに? わからない。一つだけわかったのは、おそらくフィリップもチェビイを警戒していて。 だからこのタイミングを選んだのだろう、ということ]
それで、フィリップは、どうしたいの。 「鍵」を奪いたいと、思った?
[翼をフィリップに触れられるのは、嫌いではなかった。蒼碧と真紅を見つめながら、戯れにぱたりと翼を動かした]
(59) 2015/07/12(Sun) 20時半頃
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もしも、本当に、フィリップが外の世界に行きたいのなら。 私は、その役に立つ秘密を、持っているのかもしれないわ。 チェビイの言う「鍵」と関係があるのかは、わからないけれど。
[私にはない色を持つ腕を、手を、眺めながら、私は静かに告げる。 こちらを見上げる>>66フィリップの目を、見つめ返した。 ああ、彼は、目の色もとても綺麗。 そして、フィリップの下した結論>>67に、瞬きをすることはない。もしかしたら、少し瞳が揺れてしまったかもしれないけれど]
私だけ、外に行っても。 一緒に、飛べないわ。
[ゆっくりと、噛み締めるように、私は言う]
私も、外の世界に、行ってみたいわ。 夜の空を、飛んでみたい。 ……でも、もしも失敗したら。 処分、されてしまうかもしれない。
(71) 2015/07/12(Sun) 21時頃
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[私のその予想は、決して悲観的過ぎるものではないだろう。私たちは、管理されている。尊厳ある人として、扱われているとは思っていない]
……私、は。
[息を吸って、吐いて。 私は、ジリヤほど自分の命に無頓着ではなくて。 けれど、それでも。 そのことを考えた時に、真っ先に浮かんだことは]
(72) 2015/07/12(Sun) 21時頃
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私は、あなたが処分されてしまうのは、嫌だわ。 ……だから、迷っているの。
[いつもより少し早口で、そう言い切って。 は、と息を吐くと、フィリップをじっと見つめた]
(73) 2015/07/12(Sun) 21時半頃
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[私が“処分”という言い方をしたのは、人間たちに“殺す”なんて意識はないと思ったからだ。 彼らにとって、私たちの命はとても軽くて。 きっと、重い“殺人”なんて意識はなくて。 きっとそれは、“殺処分”なのだ。 だから、私はフィリップの言葉>>85に息を飲む。 フィリップが私の命を惜しんでくれることが、酷く嬉しくて]
ありがとう。
[私は、自分の表情がわかりにくいことを、残念に思う。 少し目を細めれば、笑っているように見えただろうか]
(98) 2015/07/12(Sun) 22時半頃
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[ベッドに座ることを遠慮したフィリップの両手が、ベッドの上に乗る。 瞳を覗き込まれて、私は今考えたばかりのことを、撤回した。 自分の表情がわかりにくくて、良かったと思う。 私は、もっと一貫した考え方をする生き物だと思っていたのに。 さっきから、私の心は揺れてばかりだ]
フィリップに、触れられるのは……嫌い、じゃないわ。
[フィリップが、自分のことを卑怯と考えているなんて思わずに。 私は、曖昧な返事をする。 だって、言えやしない。 私にない色を持つその手に、触れられたい……なんて。 そんなこと、言えるわけがなかった]
(99) 2015/07/12(Sun) 23時頃
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マユミは、アマルテアの涙を知らず。
2015/07/12(Sun) 23時頃
マユミは、ノアの痛みを知ることもない。
2015/07/12(Sun) 23時頃
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[最初は、責任感なのかと思った。 失敗して、自分の命を失うことになっても、それは自業自得だ。 けれど、巻き込んでしまうのは違う。私は、他の人の命に責任を持てない。 それは、思いがけず知ってしまった秘密を、他の獣たちとまだ共有できていない理由の一つで。 もう一つの理由は、その秘密を知って誰かが向こう見ずな行動をしようとした時、私にそれを制止する力はないし、それが失敗に終わってしまったら、警備がますます厳重になるだろう、という利己的な理由だ。 けれど]
……くすぐったい、わ。
[フィリップの手が、頬に触れる。目元に触れる。顎に、首に、肩に触れる。 綺麗なその蒼碧を、あるいは瑠璃色の瞳を、見つめていたいと思ったのに、くすぐったくて、私は目を閉じてしまう。少し、首をすくめて。 いや、それは単なる言い訳で。本当は恥ずかしかっただけなのかもしれない。いつも真っ白な私の頬が、色を持たないはずの私の頬が、色付いていなければいいと思った。 私の心がこんなに震えるのは、私に触れているのがフィリップだからで。 だから……やっぱり、それは単なる責任感なんかではないのだろう]
(118) 2015/07/13(Mon) 00時頃
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[フィリップの頬が、私の頬に触れる>>117。髪が、私の顔を撫でていく。 目を閉じたまま、囁きを聞いて]
……ええ。
[寄り添った彼にだけ聞こえる囁きを返した。 私は、フィリップの命が惜しかった。私の命よりも、惜しかった。 けれど、フィリップがそう言ってくれるなら、私は、私の命も惜しもう。 私と、フィリップと。二人ともが生きて外の世界に行かなければ、その約束は果たされないのだから。 約束。そう、これは、約束だ。 私は、今まで誰かと約束をしたことがあっただろうか。記憶する限り、なかった気がする。 大切な大切な約束として、私はそれを刻み込む。 きっと、何があっても。 この約束だけは忘れないと、私は自分の心に誓って]
約束するわ。
[そう囁きに付け加えると、フィリップの背中にそっと手を回した]
(122) 2015/07/13(Mon) 00時頃
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[返ってきた答え>>129は、私の胸を甘く満たした。 それは、比喩ではなく命を掛けた約束で。失敗すれば、私たちは命を失ってしまうかもしれないのに、それなのに、どうしてこんなに甘いのだろう。 頬が離れる気配に、私はそっと目を開く。 恥ずかしい、と思ったはずなのに、離れるとどこか寂しくて。 どこまでも揺れる自分の心がおかしくて、私の口元は少し弧を描いた]
綺麗。
[至近距離で見詰め合えば、瑠璃色の中に私の姿が映っている。彼の視線を独り占めしていることが、幸せで。 唇を寄せられる気配に目を閉じれば、とうの昔に失くしてしまったと思った涙がにじんだ]
(132) 2015/07/13(Mon) 01時頃
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[10年ぶりに取り戻した涙は、フィリップを心配させてしまうだろうか。 胸のうちを過ぎったそんな微かな懸念は、瞼に降りてきたくちづけ>>136に拭われていった。 翼に伸びてきた手。その意味に気づけば、望まれるまま、翼の中に閉じ込めてしまう。 自分の中に、独占欲が存在していることを、思い知る]
嬉しいわ。
[モノクロの私のことを、フィリップは綺麗だと言ってくれる。誰に言われるよりも、嬉しいと、そう返そうとしたけれど、林檎の味のする二度目のキスに、その声は封じられてしまったかもしれない。 額をくっつけあって、熱い吐息を零して。 そして私は、肝心なことを伝えていなかったことに気づく。 触れてもいいかと聞かれた時は、曖昧な言葉で誤魔化してしまったけれど、これは誤魔化してはいけないことだ。 どんなに恥ずかしいと思っても、きちんと伝えておかなければならないことだ。 だから私は精一杯笑顔らしきものを浮かべて]
フィリップ。
[誰よりも側にいる人の名を呼んで]
(141) 2015/07/13(Mon) 02時頃
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――――……好きよ。 あなたのことが、好きだわ。
[シンプルな言葉に、ありったけの思いを込めた。 もしかしたらそれは、意図せず彼の心に投げられた、小石になってしまったかもしれない]
(142) 2015/07/13(Mon) 02時頃
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[そのことを尋ねられた>>137のは、いつだったか。 あれほど迷い、悩んだことが嘘のように、穏やかな気持ちで、私は抱えていた秘密を打ち明ける。 第一棟の図書室の暖炉の中に、獣たちには知らされていない、どこかへ通じる道が隠されていること。 外へと通じている可能性が高いと思われるけれど、どんな警備が施されているか全く未知数で、迂闊に手を出せないということ。 獣に知られたということが人間にばれてしまえば、ますます動きにくくなる。だから、誰にも打ち明けられずにいたということ]
どうしたら、いいのかしら。
[獣たちの間でも、意思の統一はなされていない。けれど情報を独り占めしている後ろめたさも、私の中に確かに存在していて。 もう、一人で悩まなくていいのだと、私は確かに安堵していた**]
(143) 2015/07/13(Mon) 02時頃
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[長い長い二度目のキス>>163は、甘くて、熱くて。やがて淡い林檎の味は溶けて消えた。 舌を絡め取られるまま、私は夢中でフィリップを味わう。 捕食するってこんな感じなのかしら、なんて。 口づけに酔いながらそんな考えが頭を過ぎると、ぞくりと体を電流が走った。 もっと。もっと欲しいわ。もっと、もっと。 我慢のできない子どものように、欲望のまま、求めて、求めて。 いつしかフィリップの背中を抱きしめる私の手は、指先が白くなるほど力がこもっていた。 脳裏を過ぎるのは、月見が書棚に戻していた本のタイトル>>3。 嗚呼、確かに私は、けだものなのかもしれない。
私は、自分のことを無感動な生き物だと思っていたのに。 どくどくと心臓が脈打っていて、私は間違いなく興奮している。 汗ばんだ額をくっつけるなんて、厭わしいはずなのに、 荒い吐息が混ざり合うなんて、気持ち悪いはずなのに、 私はこの上ない多幸感に満たされて。 きっと、無表情なはずの私の瞳は、欲望にけぶっていただろう]
(171) 2015/07/13(Mon) 18時頃
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[それなのに、肝心なことをまだ伝えていなかった>>141なんて、なんという失態。 聡明なんて評価を誰かからもらっていたような気もするけれど、今すぐ返上しなければならない。 少し前、欲望のままに貪るような大胆なことをしたくせに、たった三文字の気持ち>>142を伝えることに、酷く緊張した。 胸元に顔を埋められる>>165と、まるで私はそれが当たり前のように、両手で頭を抱き寄せる。 跳ねるフィリップの髪をそっと撫でたけれど、激しく脈打つ胸の音を聞かれているかと思うと、本当は恥ずかしくてたまらない。 ブラウスを通して伝わる、彼の熱い吐息>>166にさえ私は煽られて、こちらを見上げる瑠璃色を見つめ返した私の瞳は、きっと熱っぽく潤んでいた]
(172) 2015/07/13(Mon) 18時半頃
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……こっち。来て。
[そうして告げられた言葉>>166は、ますます私を追い詰める。 はしたないとかそんなことを考える理性は、とうの昔になくなっていて、ベッドの上に彼を招いた。 釦が解かれ、露わになる痩せぎすで貧相な私の体。 羞恥に顔が真っ赤に染まって、胸元に花が咲いて、色のない私に、フィリップはたくさんの色を与えてくれる]
あなたも。
[脱いでほしい、と。すっかり翻弄されながら、私はまた一つはしたないお願いをした。 だってフィリップは、私の獲物なのだから]
(173) 2015/07/13(Mon) 18時半頃
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[打ち明けた秘密。フィリップの返事>>167に、そうよね、と私は頷く。 ここから出て行くための、情報。きっと誰よりもそれを欲しがっているのはジリヤで、もちろん私も彼女の願いがかなうことを願っていて、でもだからこそ、迂闊には言えない。 抜け駆けするつもりは毛頭ないから、いつか伝えるつもりだけれど、そのタイミングが難しいと思う。 秘密を共有できた安心感。それだけじゃなく、側にある体温が、私を酷く安心させて。 子守唄のような歌声に、私の心は凪いでいく。 こんな風に眠れるなんて、なんて贅沢なのかしら。 そう思ったのを最後に、私の意識は途切れた]
(174) 2015/07/13(Mon) 18時半頃
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[声がする]
「もう、大丈夫ね」
[真っ白な世界の中、響く声。その声は確かに、私の持つ声と同じだった]
「幸せな記憶があっても。 それが、いくら懐かしんでも、もう二度と手に入れることのできないものだったとしても。 あなたは、もう大丈夫よね」
[嗚呼、これは私だ。10年前、それまでの記憶を封印した、私だ。 ありがとう、と私は呟いた。10年間待っていてくれて。そして今、私に記憶を返してくれて]
「あの日には、もう戻れないけれど。 でもあなたは、それを乗り越えられる、別の幸せを手に入れたから――――」
(175) 2015/07/13(Mon) 18時半頃
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[目を開けると、枕が濡れていた。どうやら眠りながら泣いていたらしい]
私……。
[いくら考えても思い出せなかった、完全に空白だったはずの記憶が、当たり前のように私の中に存在していた。 呆然としながら私は起き上がって、ぽたり、という音に下を向く。そして、ついさっきの認識を訂正した。 私は、眠りながら泣いていて、起きてからも、泣いているのだ。 手で涙を拭いながら、私は混乱していた。どこからが夢で、どこまでが現実なのだろう。 ああ、いけない。あんまり擦ったら、目元が腫れてしまう。そんな風に、たしなめたばかりだというのに……たしなめた?]
(176) 2015/07/13(Mon) 18時半頃
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――――……!!
[がば、と私は上掛けを投げ捨てて、部屋を見回した。 そしてベッドに凭れる姿>>168を認め、心底安堵する]
よか、った……。
[何が夢で、何が現実でも。 昨日の夜のことが、夢でなくて、本当に良かった。 あれが夢だったりしたら、きっと私は、心の底から絶望していた。 止まらない涙をそのままにして、私はベッドを降りる。 ベッドで休めばよかったのに、と小さく笑いを零しながら。けれどそんなところもフィリップらしいと思う。 眠る彼の前に、しゃがみこんで]
フィリップ。
[そっと声を掛けると、頭に口づけを落とした。 梟が鸚哥を起こすなんて珍しいこともあるものだ、と思いながら**]
(177) 2015/07/13(Mon) 18時半頃
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[名前を呼ばれて>>203なんと返事をしたものか迷った。 もうおはようという時間ではなくて、でも私は他に目覚めの挨拶を知らない]
そんなところで眠るなんて。 体が痛いのではない?
[結局口から出たのは、そんな現実的な、可愛げの欠片もない言葉で。けれど、フィリップの顔はまだぼんやりとしていて、私の声がきちんと意味のある言葉として届いたかはわからない]
……?
[フィリップの腕がこちらに伸ばされて>>208、私は首を傾げる。人差し指で涙を拭われる、その時まで、うっかり私は自分が泣いていることを忘れていた]
な、
[私の涙を拭った人差し指を舐める様子に、心臓が跳ねる。 もっと恥ずかしいことをしたはずなのに、私の羞恥心のメカニズムはどうなっているのか、自分にもよくわからない]
(213) 2015/07/13(Mon) 22時半頃
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[羞恥心は、私の涙を止める作用をもたらした。 うろたえている間に膝の上へと引き寄せられて>>208、まるで小さな子どもみたい。 いいえ、やっぱり、それは違う。 だって小さな子どもなら、膝の上でもらうものは]
違うの。昔のこと……思い出せたのよ。 あなたの、お陰だわ。
[思い出した、昔の記憶の中。小さな私は“とうさま”の膝の上で、頭を撫でてもらっていた。 でも、私は子どもではないから。 好きな人の膝の上で、もらうものは目元への口づけで]
おはよう。
[気の抜けた笑みと共に贈られた挨拶。結局同じ挨拶を返して]
ありがとう。 でも、こっちにも欲しいわ。
[そう言うと、フィリップの唇に、唇を寄せた]
(215) 2015/07/13(Mon) 23時頃
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[ああ、どうしよう。 極力誰にも関わらずに、私は孤独を愛していたはずなのに。 もうこの温もりを手放すことなんて、到底できそうにない。 唇を緩く食まれれば>>222、胸の中を甘いものが満たした]
あ……。
[彼の視線を追いかけて、目を落とした胸元。そこに昨夜の名残を見つければ、かあっと顔が熱くなる。 うろたえる私を追い込むように、音を立ててキスをして、笑って誤魔化すなんて、本当にずるい人。 きっと自分の笑顔の威力をわかってやっているに決まってると思うのに、誤魔化されてしまう私は、本当に弱いと思う]
(228) 2015/07/13(Mon) 23時半頃
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ええ。……やっと。
[会えたのかという質問>>222に、目を伏せて私は頷いた。 10年だ。10年もかかってしまった。でも、こんなことにならなければ、きっと今も思い出せてはいなかった]
ありがとう。
[口元に笑みを浮かべて、私はもう一度お礼を言って。 どうしようか、という言葉>>223に考える。 離れ難いのは私も同じで、こうしているのも幸せ、という言葉に胸の奥が温かくなるけれど]
そうね。 私も、幸せだけれど。 でも、お腹がすいたわ。
[このままだと、あなたのことを食べてしまうかも、なんて。 言い慣れない冗談を口にしてみた]
(235) 2015/07/14(Tue) 00時頃
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[引っ張られたシャツの隙間から、小さな爪痕が見えた>>244ことには、気づかない振りを決め込んだ。 晒された肩口。いっそ、かぷりとしてみようかしらなんて考えが頭を過ぎったけれど、やめておく。 これ以上戯れにでも触れ合えば、止まれなくなりそうで]
そんなこと、ないと思うわ? 美味しいんじゃないかしら。
[美味しくないという主張>>245には、そんな言葉を返す]
でも、やめておくわ。 私のお腹の中のあなたは、きっと歌ってはくれないもの。
[それは困るわ、と首を傾げてみせれば、私のものではない羽音がして。 ああ、そうだ。二人きりではなかったのだった。 言っては駄目と私が釘を刺してから>>19、ずっとおとなしくしていたフィリップの兄に]
喋ってもいいけれど。 昨日の夜のことは、秘密にしておいてほしいわ。
[そんなお願いをしたけれど、フィリップの頭に着地することに忙しい彼の兄に、そのお願いは聞き届けられたか、どうか]
(252) 2015/07/14(Tue) 01時頃
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―第一棟・食堂―
[そこにたどり着いたのは、夕食時。いつもの私なら避ける時間帯だったけれど、私は迷わず足を踏み入れる。 カウンターでいつものように、動物性たんぱく質の多目の、人間と同じ食事を受け取った。 今日のメニューはビーフシチューに、ライスにサラダ]
いただきます。
[小さな声で呟いて、私はサラダを口に運ぶ。 誰かと居合わせることはあっても、意図して誰かと一緒に食事をするのは、ここに来てからきっと初めてのことで。 ただ食事をしているだけなのに、なんだかそわそわ、落ち着かない。 やっぱりあまり顔に出ないタイプでよかった、と思う]
(255) 2015/07/14(Tue) 01時頃
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それは、難しいわ。 私は、うわばみではないもの。
[丸呑みで、なんてリクエスト>>266にはそう返した。 象を丸呑みしてしまううわばみの話は、第二図書室で読んだのだったか。 このあと行こうかしらなんて考える私は、第二図書室の惨状>>44>>45も、その犯人がここを去ったこともまだ知らない。 それに、お腹の中のあなたは、私を抱きしめてはくれないでしょう? なんてそんな言葉は、胸のうちに留めて]
そう? それなら、良かったわ。
[何にも知らないと主張する彼の兄は、私が思っていた以上に賢いようで。 声の大きさに閉口していたけれど、認識を改めなければならないかもしれない]
(269) 2015/07/14(Tue) 02時頃
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―食堂―
[しげしげと興味深げに覗きこまれ>>267、落ち着かない気持ちは加速する。 私の視線に気づいたフィリップは、慌てて自分の食事に戻るけれど、気にしている>>268ことは一目瞭然で]
私の両親は、人間なの。
[突然変異か、先祖返りなのか。ごく普通の人間の両親の間に、梟の私は生まれた]
だから、ずっと人間と同じ食べ物を食べて生きてきたから。 私にとっては、美味しいわ。
[向けられた怪訝な顔にシチューを口に運びながらそう言って。 開かれた口に、瞬きを一つした。 食べてみたい、ということなのだろう、これは。 しかし同じ鳥類とはいっても、梟と鸚哥では食べるものが随分違うはず。 しばらく迷って、これなら大丈夫か、とシチューの中のにんじんをフォークに刺して、フィリップの口元へと運んだ]
(270) 2015/07/14(Tue) 02時頃
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[さて、にんじんなら体に害はないと思うのだけれど、シチューの具として煮込まれたにんじんは、調理された食べ物を食べることのないフィリップの口に合ったか、どうか]
私はこのあと第二図書室に行くつもりだけれど。 フィリップは、どうするかしら。
[私はこれから活動時間だけれど、フィリップは違う。 無理はしないで、と伝えたけれど、彼はどうしただろう。 ともあれ、食事の後、第二図書室へと足を向けた私は、室内の惨状に驚愕することになる**]
(272) 2015/07/14(Tue) 02時頃
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