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【人】 飛脚 甚六─朧邸近くの道中─ (2) 2013/08/15(Thu) 00時半頃 |
[堕ちたのが自分で良かったと思う。
自分以外の神でなくて――。
そう思う気持ちは本当なのに。]
(離れたくなかった、――)
[今、こんなにも思う。
自分でも気づかぬまま、愛していた。
あの地を、――を。
はらり、と涙が落ちた。]
【人】 飛脚 甚六[変わらない。何も変わった様子はない。 (4) 2013/08/15(Thu) 01時頃 |
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―― 二柱が堕ちた後 ――
[下界に妹を追うように移動術で堕ちた半妖、その寝床に残ったモノ
黒い黒い沢山の妖が集まり一つになったような歪な魑魅魍魎、神格を失った残り粕のそれらは高天原に存在することはもう出来ない。
ゆっくりと時間をかけて在りし日の亀吉のように溶けていく、その様子を見た神はいたのだろうか。
そして、その中から飛び出した――双頭烏
最早闇の中に潜むことは叶わず、弱々しくふらつきながらただ何処かへ羽ばたき誰に目撃されようと見向きもしない]
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[やがて目的の神へ辿り着く――実りの神、華月の元へ]
[じろりと四つの瞳が睨みつけ、片方の頭の嘴から――闇神の白銀を結わえていた紐を華月の手へ落とす。]
[そして主を失った妖は地に堕ち、どろりと黒い液体に変わり果て消えていった。]
[妹が全てだった筈の闇神が遺した未練――実りの神の余裕を崩してみたい。
それは最早叶うことは無い、妖烏は最期に出来ることをしたのみ*]
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【人】 飛脚 甚六え、あ。 (8) 2013/08/15(Thu) 01時頃 |
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[規模は違えど、高天原といた時に同じように、誰かしらに傅かれて過ごす。]
「里の子が狐に憑かれました」
狐狸の類にも階級の上下があれば、上位の者は理を解し、言霊の霊性を知る。
古歌の二、三を詠じてごらんなさい。
それが通じぬ下級の狼藉者であれば、乱暴であっても箒の柄で打ちすえて懲らしめてやらねばならないでしょう。
「田に塩をまき、浄めの儀式をしたのに作物が実りません」
田畑に海水を巻いても実りはないように、里のものと海のものはその性質を違えます。
塩の代わりに、田からとれた米で作った酒を清めに使うように。
[人でなく、神の世で覚えた知識を里人のために役立てる。
毎日何かしら忙しいのに――時々ひどく寂しかった。
月を、見上げる回数が増えた。]
[じっと月を見上げて思う。
過去、祟り神が現れ雲海に人世と神世が隔たれた時にも、それを超えて見通すことが出来る神がいたらしい。
此度その神が存在するかは分からなかったけれど。
縋らずにはいられなかった。]
境の神よ。
この願いが聞き届けられるなら、どうかお伝え下さい。
明は、元気で過ごしておりますと。
……水晶だけでなく、もっと残したいものがあったと。
お伝えください。
…いいえ。
ただ、会いたいのだと。
[我儘だと知りながら。苦い笑みを浮かべて。
そっと言葉を紡いだ。*]
【人】 飛脚 甚六堕ちたくない、という気持ちは分からんでもないが。 (12) 2013/08/15(Thu) 01時半頃 |
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【人】 飛脚 甚六ん……そうか、日向はお前に従うだろうなと思った。 (13) 2013/08/15(Thu) 01時半頃 |
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【人】 飛脚 甚六──……恨んでる、わけじゃねーよ。 (18) 2013/08/15(Thu) 01時半頃 |
【人】 飛脚 甚六──だから、おれは。 (19) 2013/08/15(Thu) 01時半頃 |
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【人】 飛脚 甚六[もう一度あの移動術を使えればよかったのだけど。 (23) 2013/08/15(Thu) 02時頃 |
――前夜:琴音と弦――
[引き摺るような足音を聴いた。
吹き荒ぶ嵐の、赤黒い羽音の群に紛れて。
――琴の音は、確かに先導を果たしたらしい。
弦を爪弾く手を止めて、くすり、笑みが漏れる]
[言葉なら、もう充分に尽くしたろう]
[だから、いつものように、祝福を述べて]
(苦しめてしまいましたか? ごめんなさい)
(護れませんでしたね。救われたのはわたしの方ばかり)
[きっとあなたを忘れない――その約束が、どうか]
[孤独な荒神にとって、蜘蛛の糸となりますよう]
[誰に祈れば分からぬならば、異教の神へとかしこみ申す]
(それでは皆様、御機嫌よう)
[高く響いた琴の音の、最期の音色は*「お元気で」*]
【人】 飛脚 甚六いや、うん……そうか。 (29) 2013/08/15(Thu) 02時半頃 |
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【人】 飛脚 甚六どうって、言われても……突然すぎ、て。 (30) 2013/08/15(Thu) 02時半頃 |
【人】 飛脚 甚六いや、でも……ここに来る前、ウトと話をしたんだ。 (32) 2013/08/15(Thu) 02時半頃 |
【人】 飛脚 甚六
(37) 2013/08/15(Thu) 03時頃 |
――前夜:都落ち、支度――
[件の足音が向かうより、少し前。
旅支度を整えるような気軽さで、鼻歌交じりに微笑んで]
あまり動きづらいお着物は、きっと駄目ね
どこに落ちるか分からないのだから
そうだわ、お兄さまにもお気に入りの服に着替……
いえ、お兄さまは男の方だから気にしないかしら
そもそも、わたしが堕ちるなんて言った、ら……
……困っちゃうわね、もう。
甚六さまが後から落ちてくることがあったら、
文句の一つでも申し上げておかないと。
[とはいえそんな呟きは、勿論本気なんかじゃなくて。
まあいいや、なんて笑って、難しい悩みは頭からポイ!]
[桃色のオシドリと、紅色の椿。
並べて見比べ、どちらがいいかと首をひねり]
……この帯揚げには、やっぱり紅色ね
[袖を通せなかった桃色を名残惜しく思いながらも、
紅の椿に桜色の帯揚げを、選んで揃えて、くるり一回転]
日向ちゃんのお花も、持っていきたいけれど……
地上では、花はすぐ萎れてしまうというものね
[押し花にしておけば良かったと後悔すれど、時遅く。
後で悔やむから後悔、とはよく言ったものだと苦笑して]
――……よし! 志乃は準備万端です!
[どっからでもおいでなさいな、黒い方! 志乃は元気よ!
――そんな風に笑ってみせた、*最後の夜*]
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――下界のどこか――
[歌を聴いた気がした。
最早かつての「耳」など持たぬ、
日々死に脅かされる平凡な人の身なのに]
……その曲は、
そんなに悲しそうに奏でるものではございませんよ
[歌を聴いた気がした。
気のせいに違いないのだけれど。
すすり泣くような旋律が、何故だか無性に*愛おしかった*]
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―下界―
[人の世の時の流れと、神の世の時の流れは果たして同じなのだろうか。
神であった時には、あまり気にかからなかったことを考えながら、里に建てられた祠を清める。
火の神の祠の燭台に灯りをともし、米や水を供える。
田畑の神の祠には、酒と米を。
水の神の祠には、酒と干した鮎を。]
…。
[きっと、祟り神の騒動が治まれば彼らが地上に降りてくることもあるだろう、と。
自分で自分を慰めて、次の祠へと向かう。
まだ、朝顔が追放されたことも、
志乃と亀吉が落ちたことも、
知らない。*]
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【人】 飛脚 甚六─夜半のこと─ (52) 2013/08/15(Thu) 13時頃 |
【人】 飛脚 甚六
(54) 2013/08/15(Thu) 13時頃 |
【人】 飛脚 甚六[溶けてゆくその中から飛び出した、双頭烏。 (55) 2013/08/15(Thu) 13時半頃 |
――下界:山道――
「もし、お嬢さん。どこのお武家の娘さんかね」
[問いかける声に、ふと目を覚ました。
ぼんやりと滲む視界にあったのは、頭を丸めた尼僧の姿]
……兄が、……兄をご覧になりませんでしたか、
背丈はわたしより頭半分ほど大きくて、銀の髪をした……
[堕ちた女神が、仏門に入った女人に拾われるなど。
これ以上なく愉快な巡り合わせではないかと、
不謹慎ながら心は浮き足立つようで。
はて、兄のことを、尼僧は知っていたろうか。
「堕ちた」場所は、そう遠くないはずだけれど]
「それにしても、見事な着物だこと」
[兄を探している時だったか、
兄妹揃って保護された後だったか。
ぽつりと呟いた尼僧の言葉に、嬉しくなって]
……天にまします機織女たちの御女神が
縁を織ってお作りになったようでございましょう?
[ゆるりと、*笑んだ*]
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【人】 飛脚 甚六─そうして、夜明け頃の祭壇で─ (56) 2013/08/15(Thu) 13時半頃 |
【人】 飛脚 甚六[報告に色々と言われたり疑問を投げかけられたりもするけれど。 (57) 2013/08/15(Thu) 13時半頃 |
―― 前夜:堕天前のこと ――
[予感していたのかもしれない。
それはきっと、偵察に出した烏が二夜続けての妹の外出を告げてきたこともあるのだろう。
ふらつき屋敷に帰り志乃を呼べど、それを聞いて現れたであろう彼女に日向の話を教えることは無く。]
……どうかな、雪客様に作っていただいた反物。
似合う、かい?
[只、そう笑いかけ何も言うことは無かった]
[もう間に合わないから
何かが、自分に似ていて、決定的に違う不浄の存在が近くにいるの感じていた
まだ目覚めたばかりの妖にそれを傷つける術は無く、傷つけられることも無く。]
……すまないね、志乃。
[諦めたように呟き、彼女の部屋へ向かうことは無かくただ術が発動するのを待った。
あの実りの神は約束を結んですぐ己に訪れた結末を知ればなんと思うだろう、嘲笑うだろうか……ぼんやり思いを馳せて
やがてどこからか風が吹き、それは闇神を下界へと――]
お前、なにを……
[運ぶ前に現れた妖烏が、しゅるりと主の髪紐を解いた。
最後に聴いた鳴き声は、どこか凛としていて
未練を、神として、妖としての力を遺し堕ちていった*]
―― とある寺院:閉ざされた部屋 ――
春の匂いも芽吹く花も……
[暗闇に響く酷く下手な琴の音と、歌声]
……い人よ、離れ顔なんて…日もすりゃ………忘れてしまった
…染み付いて…えないのは……の匂い……。
[銀髪の少年とも青年とも取れる容貌の男がその寺院に保護されたのは数日前のこと。
彼は何も語らず、与えられた琴と共に暗く閉ざした部屋に籠っているそうな*]
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―下界:山道―
――忠告、ありがと。
[夜半、ニタニタ厭らしい笑みを浮かべながら己を取り囲む男達。
こんな時間に一人で居たら危ない、という。
溜息ひとつ、生ぬるい風が頬を撫ぜる。]
…わかったから、そこ、退いてくれないかしら?
[主犯格らしき男に言いいつつ、人数と獲物を把握する。]
三人、か…
[長く伸びた髪がさらさら揺れる。
下界では外見が多少変化し、高天原に居た頃よりは大人びる。
これは神であったときからそうであった。]
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…こういう時、やっぱり力がないのは不便よね。
[懐刀に手を伸ばしながら、独りごちる。
と、その時。]
『はいはーい、君達ィ。
僕様の土地で勝手なことして、
タダで済むとか思ってないよねェ?』
[そんな間延びた声が辺りに響いた。]
――――――…
『…誰だか知らないけどォ。』
[地面に転がる気絶した暴漢達を足で脇に避けながら、
男は言う。]
『こんな時間にこんなとこウロついてたら、
襲われても文句言えないよォ?』
[月夜に光る、銀の髪。
赤い瞳がこちらを見つめる。]
その台詞、そいつと同じだわ。
[けれど、助けて貰っておいて、この言い草である。]
…大体、好きでウロついてた訳じゃないし。
今迄居た場所を出なきゃいけなくなって、気付いたらここに居たんだから。
[軽い調子で話せば、家出かと問われ。]
違うわ、追い出されたの。
[苦笑して、肩を竦めた。]
―――――…気持ち悪いんだけど。
『ちょ…、それどういう意味ィ?』
[じろじろとこちらを見る男にそう告げれば、流石に相手も苦笑を浮かべ。
その後、男から"稀人"と呼ばれる来訪者のことを聞く。
最近、この先の村にも、と明のことも知るだろうか。
そうして、己はと言えば、何の因果がこの銀髪の、変わり者の屋敷で過ごすことになるのである*]
――山中の寺院――
[銀髪の、と尼僧に告げれば伝わったろうか。
暗闇を愛し暗闇に愛された兄は、人となってもやはり、
相変わらず闇に閉ざされた部屋で過ごしているらしく。
困った兄でごめんなさい、と苦笑を返し、山道を往く。
そんな行き倒れの兄と自分を見捨てぬヒトの心根が、
嬉しくも胸に沁みて、嗚呼、人の世はこんなにも――]
……お兄さま、お迎えに参りましたよ。
いつまで闇ばかり見つめておられるのです?
志乃は闇にはおりませぬ。留まるつもりもありませぬ。
[陰鬱さを吹き飛ばすように、笑って、笑って、]
さあ、参りましょう、お兄さま。
引きこもっていては勿体のうございますよ。
[だって、人の世はこんなにも美しいのだから]
視えぬのならば手を引きましょう。
望まれますれば唄いましょう。
恐るるならば、
[はしたないかしら? がっかりされるかしら?
だけれど、これが本当の志乃だから]
――……叱って差し上げますわ!
[微笑み、強く*手を引いた*]
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【人】 飛脚 甚六─祭壇─ (72) 2013/08/15(Thu) 18時半頃 |
【人】 飛脚 甚六─山のふもとで─ (76) 2013/08/15(Thu) 20時半頃 |
【人】 飛脚 甚六[自分の言葉は何かしら日向に響いたらしい。 (81) 2013/08/15(Thu) 21時頃 |
【人】 飛脚 甚六[泪を拭ったら、そっと前髪を撫でる] (83) 2013/08/15(Thu) 21時半頃 |
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【人】 飛脚 甚六声、声か……まさかとは、思うが。 (85) 2013/08/15(Thu) 22時頃 |
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――???――
[それは天上を追われた時のことだったか、
それとも地上へ降りたって何度目かの夜だったか。
判然としない記憶だけれど、確かに聴いた黒い声。>>*0
群がる羽音にも、這いずる恨み言にも邪魔されず。
するりと届いた別れの言葉は、涙声ではないようで。]
……ふふ。ようございました。
(涙は、もっと大切な時の為に。
もっと、大切なひとの為に、取っておいて下さいな)
(だって、もう手は届かないのですから。
志乃のせいで、志乃の為に、独りで泣かれてしまうのは
――……志乃も、悲しゅうございますわ)
[ホッと微笑み、目蓋の裏は、黒に沈んで*溶けてゆく*]
【人】 飛脚 甚六[笑う、その伝わる感情が心地良い。 (88) 2013/08/15(Thu) 22時頃 |
会えるものならば、他に何も望まない……
[はた、と歌声と琴の音が止む
見開かれた、堕ちた際に視力を得た双眸が宙に向けられ――そこに、白い花
……。
[悲しげに目を伏せる。
闇の中の銀髪は堕ちたことで高天原に残る神々に願われているように幸せになれるとは、思えていない。
何も無ければ、祟り神が訪れなければ穏やかに志乃と共に暮らしていられた筈なのだから。
これは己が最愛の妹を守れなかった結末なのだから。]
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嗚呼、志乃……
君は何故、笑っていられるんだい。
[迎えに来た彼女
その、一目でも見られることを願っていた姿を見るのが恐ろしくて目を瞑った。
暗闇から解放されど、心は未だその中に]
いけないよ。
僕は分からない。君がそんな風に笑える理由が
[手を引かれど拒むように緩く首を振るだけ
細く不安げに呟く様は高天原での兄妹と立場が反転したかのように]
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―下界・住居―
[月様、と呼ばれた先代らしき稀人の記録に目を通す。
口伝のおとぎ話の他に、長者の屋敷の蔵にいくつか書き残されていた。
――曰く、ある日突然あらわれて、人々に知恵を授け、祭祀を正しくした。
時々風変りな客人がおとずれていたようだが、彼らの持ち込む知恵や土産は村人の生活を豊かにするものばかりであったので、最初は警戒していた村人も次第に打ち解けた。]
祟り神の騒動が終わったあとのことでしょうか。
[当時はまだ一人で下界に降りることが許されていなかった明と違って、月神の知己の神々は度々月神に会いにこの地に降りてきていたようだ。]
[何故、と問われれば
笑みに苦いものが混ざったろうか――やはり、と]
……お兄さまは、
[本当は、何度も喉から出かかった言葉。
神の身ゆえに、そして兄の心の儚さに気付いたゆえに、
口にはすまいと思ってきたそれを、]
お兄さまは。お兄さまは。
一度だって”志乃”を見て下さったことがありましたか?
一度だって、誰かを愛して下さったことがありましたか?
お兄さま、志乃を見て下さい
志乃は綺麗なんかじゃないのです
志乃はか弱くも、優しくもないのです
ずっとずっとお兄さまは、志乃を傍に置いていたのに
ずっとずっと、志乃を見て下さらなかった
[当時の風習や、客人たちが持ち込んだとされる習慣も、しっかりと根付いていて。]
だから、稀人への信仰が篤いのですね。
[明を拾って面倒を見ていた老爺はこの地の長老格であり、老婆は祈祷師だと言っていた。
長老の語る話にも、祈祷師の行う儀式にも、月に属する神しかそうと分からないように、さりげなく高天原での儀式や術が取り込まれていた。
夜空で月の周りを巡る星の読み解き方。
月から見た、神たちのもてなし法。
実際に高天原でやっていた通りに行ったのであれば、それは人界においても恙なく通用したことだろう。]
[膝の上に巻物を広げて、過去の記述をすっかりと読みふけっている。
だから、高天原より神が一人降りてきたことに、すぐには気づかなかった。
すでにこの身は神でなく、ただの人なのだ。]
……。
[己の知らない妹の語る言葉
理解すれば、自分がしてきたことを思えば唇は震え]
……すまない。
[ただ涙を溢すことしか、出来ずに。]
独りにしないと言ったのに。
我が儘を、言えと仰ったのはお兄さまなのに。
志乃がどんなに愛しても、
お兄さまが愛しているのは暗闇ばかり
志乃の奏でる音ばかり、弱々しいこの器ばかり!
……我が儘なんて、言えるわけが、なかった!
[爆発するような勢いで、一息、それだけ言い切れば。
兄の苦手な火の神の姿を、ふと思い出して微笑んだろうか。
影響されたのか、元からこんな性格なのか、
自分でも分からないけれど――兄は、良くは思うまい。
掌の中にある、少し冷たい兄の手を、包むように握って]
笑う理由が分からない? 簡単なことなのに。
[震え、涙を流す兄の背を。
嫌がられないのであれば、そっと抱きしめて]
志乃は、お兄さまの妹で幸せだから
お兄さまが志乃を見て下さらなくても、
たとえ志乃を愛して下さらなくても、
他のお兄さまなど要らないのです
神でなくなろうとも、人の身になろうとも、
輪廻転生があるのなら、またお兄さまの妹に生まれたい
人は、それが叶うの
永遠の命などなくとも、何度も何度も会えるの
術なんかなくたって、またお兄さまの妹になれるの
参りましょう、と言ったのはね。
……志乃が美しいと、愛おしいと思った世界を、
お兄さまにも愛してほしい、それだけ。
[それからちょっとだけ、身を離して首を傾げ]
……お兄さまは、志乃が要らぬと申されますか?
[なれば、わたしは去りましょう――笑んで、告げた**]
【人】 飛脚 甚六─→丘─ (105) 2013/08/15(Thu) 23時頃 |
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[爆発するような勢いに
包み込むように己の手を握る妹のそれは、暖かった。けれど]
……君も、僕のことを何も知らない。
[震える声で呟く。
背を抱き自分の妹に生まれ幸せだからだと言う志乃
自分が思っていたよりずっと強い彼女には、きっと弱々しく儚い兄にでも見えているのだろう。]
……だからそんなことが言えるんだ。
[祟り神がいなくなれど兄がいれば高天原は平和にならなかったであろうことを、知らずにいるから。
妖でありながら平然とあの場所に存在していことを、自分達の為に彼女との揃いの着物で男神を誑かしに向かっていたことも。
火の女神の名を水鏡に投じることに躊躇など一欠片も無かったことも。]
[
…私の客人です。
[あれは誰かとざわめく屋敷の者にそう言って、どうにか二人にしてもらうだろう。]
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[自分の寝起きしてる場所へ女性を通すのは少々はばかられる気もして、庭の見える座敷へ案内するように望めばそれは聞き入れられたか。]
……お団子屋さん。どうして?
もう祟り神の騒ぎは収束したのですか?
[朝顔が追放されたことも。
志乃と亀吉が堕ちたこともしらないまま、そんなことを尋ねたろう。]
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[たまこがかつて境界の神であったことは、覚えておらず。
彼女の姿に懐かしさと嬉しさを感じながら、他の神の姿が見えないことに一抹の寂しさを感じていた。
それも。彼女が境界の神だと知れば変わることだったが。]
[襲われた時のことはよく覚えていない。
ただ、鏡の異変の気づき意識を失う間際にせめて朧にだけでもその異変を、と白兎を放ち――。]
(否、あれは――本当に意識を失う間際だったのか?)
[ならば教えてあげよう。
兄だと慕っていたモノの汚れた正体を]
……要らぬと言うのは君のほうだろうね。
[目を開き、笑む妹へ
お前のお兄さまはね、妖だったんだ。生まれた時から。
[結われず降りたままの、志乃の美しい黒髪とは違う異質な銀髪に指先を絡める]
僕がいれば祟り神が堕とされても高天原に平穏など訪れなかった。それを分かっていても堕ちる気なんか無かったよ。
だって僕は君以外の神など、どうでもよかったのだから。
その為に、華月様を誘惑だってしたさ。……ああ、失敗と言える結果だったけどね。
[くすくすと笑い。]
やっぱりお前は優しい子だよ、汚い僕の妹とは思えないぐらいにね。
[泣くような、唄うような声
その前に、自分は何かを聞いていたのではないか。
それゆえに、最期だと理解して――。
ぐらり、と揺らぐ視界に。額に手を当てた。]
境の神――。
私は非力です。
二度目の術は、発動しなかった。
[得体のしれない靄に阻まれて。
だが、それが朧の影響だとは微塵も思っていない。]
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二度目の術は――手毬の付喪神を。
実りの神の元に使える小さき神を占いました。
けれど、それは予想外の力に阻まれて「視」ることはできなかった。
…それを依頼したのは実りの神です。
あの方の真意がどこにあったのか。今の私には知る術がありません。
[彼の神が祟り神であったなら、時間稼ぎに付喪神を差し出しただけとも。
明が本当に占術を使えるのか鎌をかけただけかもしれない。]
けれど…あの方が、小さき神を大事になさっていること、偽りはないと思います。
[朝顔、亀吉、志乃。
その身に起きたことを知れば、そっと目を伏せた。]
境の神。
私が祟り神を「視」ることが出来ると知っているのは古い神です。
――先代の月神がそうであったから。
竜の君には、私から打ち明けました。占術に必要なのは彼の神のお清めになった水が不可欠であったため。
火守の神は――私が占術をつかうと確信された様子は無かった。
実りの神は、言葉にはなさらなかったけれど、どこか確信がおありのようだった。
浄の神は――騒動の最中お会いしていないのです。
[疑いを向けるには、いずれも心痛む相手ばかり。
それでも、言わずにはいられまい。]
私は、このいずれかに祟り神が潜んでいると思っております。
人の身となり、疑いをもち、それでも、――皆に会いたいと愚かなことを願う私を許してください。
[言いたいことはいくつもあれど、言葉にはならなかった。]
もし、どなたかにお会いしたら……明は本当は水晶など残すのでなく、もっと皆と一緒にいたかったのだとお伝えください。
それと、こちらでも皆さまへのお供えは怠っていませんよ。
[既に日課のようになった祠への備えが
出来ればそれも伝えてほしいと、境の神に願った。]
[もっと引き留めていたかったが。
彼女から伝わる情報を心待ちにしている神も多いだろう。]
境の神よ……地上の、私の穢れに触れる前に、どうかお帰りください。
[懐かしい高天原の気配を、そっと天に送り返す心の準備をした。]
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無論、明は、境の神の必要とあらばいつでも、お答えいたしましょう。
[かつては同等にも近しくあった神へ、そっと跪く。
それが今の、神と人の距離。]
さあ、お早く。
[促す。
本意ではなく。]
[知らない。だからそんなことが言える。
そうだろう。その通りなのだろう。
唯一無二の兄妹と言いながら、知らぬことが多すぎた]
[続く、兄の告白に。
……それだけ?
それだけで、汚れていると申されますの?
生まれなど、性質など、
お兄さまの力でどうにかなるものでもないでしょう。
お兄さまの男性関係がどうであれ、
それは志乃が口を出すことでもありません。
志乃の為だと言うのなら、尚更どうして責められましょう?
汚れていると言うのなら、志乃の方こそ。
隠すつもりもありませんでした。
言い出す機会がなかっただけのこと。
志乃はずっと、祟り神の音を聴いておりました。
憑かれ給うた彼の神の孤独と共にありました。
罪過に嘆き苦しむ様を見て、愛おしいと思いますれば。
その手を取って守ろうと。子のように、友のように。
”誰も皆、綺麗なんかじゃない”
”綺麗じゃなきゃ、いけないはずなんてない”
――彼の方にも、申し上げた言葉でございます。
軽蔑なさいましたか、お兄さま。
ご覧下さいまし。志乃の手は、汚れておりますか?
[つと離れ、掌を突き出して、じっと見据えて*]
[たまこの力強い言葉に
彼女のこんなところはウトによく似ている気がした。
そういえば、自分が占術を正しく行えなかったせいで朧に迷惑がかかってはいないだろうか。
案じることは多かったが、もう時間がなかった。]
さあ、境の神よ。
今宵はお別れです。
[たまこの笑顔に答えるように、精一杯の強がりで笑顔を浮かべてみせた。]
……それだけ?
志乃、自分が何を言ってるのか分かっているのか
高天原に妖がいた、それがお前の兄だった。そう言ってるんだよ
[信じられないと目を丸く、そこに映る志乃
男性関係、には若干噎せた。……あれはあくまで目的の為に行なったわけなのだが、おまけに相手が理解していたか微妙なのだが。]
……言ってみなさい。
[彼女もまた何かを意図せずとも隠していたというのなら、それを聞こう]
[神の世界を離れてはじめて。
たまこが無遠慮に包んでくれた手のぬくもりに、安堵した。]
(ああ、会いたい――)
[裏腹に。募る、希求。]
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sol・la
ななころび
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