人狼議事


226 【突発誰歓】君の瞳に花咲く日【RP村】

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視点:


メモを貼った。


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メモを貼った。


[諦観しきっている癖に行動的な
メルヤは、実は徘徊している時にクリーニングに出されている白衣を拝借していた。

鍵の掛けた振りをしている手錠と足枷を投げつけ、夜に忍ぶように部屋を出る。

部屋には鍵を掛けてきたので、余程の警戒がされてない限りは部屋を開けて所在を確かめるような真似はされないだろう。


慌ただしい病棟内を、筋弛緩剤も切れているため、二階の窓から覗く。運ばれてきた顔を眇める。

――予感は、的中していた。

運ばれる部屋を探るべく、ひょいっと二階に下りる。巡回中の看護師の振りをして、追っていった]


メモを貼った。


[仄暗く遠目ではあるが、その体格と髪だけで誰か判別がつく。伊達にずっと見てきたわけではないのだ。

運ばれてきた青年と、少女の部屋を確認する。

手にしていたノートを破って、書いている館内見取り図に、それぞれに名前を書き込んだ。

途中で似たような白衣を着た相手とすれ違えば、同僚を把握しきっていないのだろう。お疲れ、と言ってその場をしのげた。]


(……あいつ見なかったことにしてやろうか)
[仄暗い考えが僅かに過ぎったが、ナナオの明るい笑顔の残像が浮かぶ。
二階の倉庫を見つけ、懐中電灯でノートに同じ見取り図を手書きで複写する。
ナナオとケイト用にと館内見取り図を手書きで複写していたが、ナナオは拘束されているため、無理に動かない方が良い気がした。
悩んだ挙げ句に彼女には、メッセージを残して置くことにした。


どれぐらい。二階の倉庫で潜んでいただろう。
運び込まれる慌ただしい喧騒の気配が止むと、そっとメルヤは抜け出した。

ケイトとタルトに渡すつもりの館内見取り図に、メッセージを添える。
……もう一人の分には、ケイトとナナオの部屋だけを示した館内見取り図を作製した。]


[手錠と足枷を外したのは、1日振りだが開放感があった。
念のためスリッパを脱いで、音もなく仄暗い廊下を進む。

ケイトの部屋を開かずに、ドアの隙間から差し込んだ病棟内の見取り図。
メルヤとナナオとタルトとトレイルの部屋の場所を記した。

”例の件よろしくね”そう一言メッセージを残して次は、近いナナオのところへと向かった。]


―深夜未明:ナナオの病室―
[ナナオの部屋は重厚な扉であったため、差し込む隙間が無かった。
仕方がないので、そっと扉を開く。ナナオはまだよく眠っているようだった。

少し躊躇われたが、詩が書かれているサイドテーブルにメッセージカードをそっと置く。
”タルトとトレイルが運ばれた”

味も素っ気もない一文だが、何か一言を書くのは躊躇われた]

[残りはタルトと、トレイルだが。この二人に関してはまだ中で処置をしている可能性を考慮した。

ケイトの頼み事通り、タルトの様子は後ほどすぐに見ようと思い、一旦自室へと戻った。

幾人かすれ違ったがやはり怪しまれない。消灯時間で、廊下が仄暗いせいもあっただろう。
白衣は意外と便利アイテムのようだ。]


(……疲れた)

[トレイルが、近い内に運ばれる予感はあった。その為の暗躍だったがタルトがそんなに病気を悪化しているとは思わなかった。

タルトの病気を省みれば、隔離はむしろ悪手ではないだろうか。そう、思った矢先だった。]


[       ピシリ         ]

――嫌な高音質な音が、内側から響いた。


[ ピシリ
                 ピシリ
         ピシリ
ピシリ
                 ピシリ
                ピシリ
                          ]

――ッ!!!?

[皮膚を貫き、神経に直通するような激痛が襲う。
 鱗が生える時の痛みと名状しがたい生理的な気分の悪さは何時までも慣れない。

メルヤは咄嗟に、一階の使われていない空き部屋に潜り込んでその場に忍んだ。

ピシリ          ピシリ

歯を食い縛り耐える。目の前の視界が、薄暗い白の病室が色を変える。]


[目の前に立っていたのは元気そうなタルトと、どこか不遜そうな顔つきのトレイルだった。

鱗の突出後の幻覚は特に重症だった。

メル兄やん、と笑顔で近寄るタルトには、少女が抱える病気の気配など何もない。
現実感を伴う幻覚は、まだほとんど落としていない頃のトレイルをのぞかせた。

紫の花が、彼に近くでそっと咲いており、その瞳はどこか愛しげだった。

過呼吸にならないように、息を整える。幻覚は振り払おうとしても、鱗の生えた後では難しい。視界の端まで、聴覚の奥までが支配されている。]

『メルやん♪』

[愉快な声が耳に入り、メルヤの心がかすかに震えた。
視線を反らしても、タルトがトレイルがいる。ピエロの男が、立っていた。その姿は血まみれで、息を呑んだ。

(まって。ぼくは、こんな姿の彼を――見たことは)

あっただろうか。わからない。もしくは血糊でふざけていた時か。中庭の木から逆さ吊りで頭から落ちた時にこんな風だったような気がしないでもない。
鉄錆びの匂いが――幻は嗅覚まで支配している――その説を、打ち消した。]


『あーあ。大事な帽子が木の上ダヨ♪』

[ピエロの男が見上げたのは、木の上だった。帽子。この時、彼は帽子を木の上に置き去りにしたまま治療のために部屋に運ばれた。

――…自分がその時、どうしたか。

思いだして、ぞくりと背筋が粟立った。
気づけば病院で一番高い木の上にいた。

いつの間にか手には、道化師の帽子。そうだ、あの時。周りの制止を振り切って木に登って――帽子を掴んで自分は落ちたのだ。

追体験をするように。彼は”幻”の中で中庭の木から落ちた。あの時は、大人達が、マットだか。シーツだかを用意して軽傷で済んだが。

背筋に脂汗が、滲む。


[落下していく体を幻だと、現実に戻ろうと叱咤しても無駄だった。大人達の存在は感じ取れない]


(――あああ゛あ゛あ゛ッ!!)

[メルヤは”幻”の中で高い木から落下した。地面に強打したような衝撃を味わう。

傍目に見れば彼は座り込んだまま、唐突に血を吐いたように見えるだろう。生々しい幻は生身を傷付け、幾つかの鱗を剥ぎ取った。

背中から落ちる中で少しでも衝撃を和らげようと枝を何度も何度も掴んだのが功を奏したのか。
肋骨だろうか。骨が幾つか砕ける音がしたが命に別状は無さそうだった。内臓は、やられる程ではなかったようだ。]

(  ああ。
      こんなにも  痛い  思いを してたんだ、ね――。)

[衝撃のせいか。”幻”は霧散していた。
 空室で、手の包帯はすり切れて、背中の包帯と口から血を滲ませながら意識を手放した**]


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―隔離施設:自室―

[光は差し込まない。けれど、窓のない部屋など彼には関係のないこと。

腕と足だけに巻かれていた包帯が、今や首を覆い、そして――――彼の目を覆っていた。時折、その隙間から出てしまった綺麗な透き通った髪が擦れて、チリチリと音を立てる。]


[体を起こして、小さく上げるうめき声。痛いのは頭だけ。だって、結晶化してしまったところは、もう何も感じないのだから。]


[大事なものだけを残して、“消えてしまった”彼の頭(こころ)は、きしりきしりと音を立て続ける。きっと、彼自身が消えてしまうまで、ずっと。]


[枕元には、紫苑が一本、花瓶に添えられていたけれどそれを見ることは――**]


―隔離施設:早朝―

[目が覚めても現実はかわらぬ
私の身体は軋み、白亜のこの場所で1日がはじまるだけだ
とはいえ、昨日はどこかスタッフが慌ただしかったので
今日もまた隔離者が入所するのかもしれない

そう考えてゆっくりと体を起こせば、ドアの隙間に挟まる紙片に気がつく
昨日メルヤと会話をしていたが、どうやらその杞憂は当たってしまったらしい

タルトとトレイルの部屋の見取り図を見れば、嘆息を零した]


ナナオの部屋への案内ね
……メルヤの事だから多分見取り図は人数分は用意しているでしょう、けれど

[それでも約束は約束
...は車椅子の車輪動かし、トレイルの部屋を目指した
――彼をナナオの部屋等へ案内する
それがメルヤとの約である

しかし、自分の瞳を見つめぬ男が果たして素直に案内されるかどうか
固辞されそうなきがするけれどと...は溜め息を吐いた]


[彼の部屋の扉をノック
部屋の主は寝ているか。それとも起きているかはわからないから
少し待つが、反応がなければまた後日改めて訪れる*つもりである*]


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―眠りの奥―

――…どこかで、子どもの泣き声がする。

 静かに。ただ静かに。小さく丸まって泣いている子ども。昨日からやたらと煩いその声はどこか聞き覚えのあるようで、無いような声。

 メルヤはその泣き声のもとに行き着いた。

 それは幼いメルヤ自身だった。七年前の僕が、泣いている。あの声は、自分の内側から聞こえていたようだ。
 うんざりとした調子で、中庭の木に背を凭れ掛ける。夢か幻か知らないけれど、どうして何時もこの年齢なのか。

――”終わりのはじまりだからだよ”

 子どもには随分と可愛げのない泣き方をしている、幼いメルヤの声が、響く。
 ひどく寒い。まるで、冬の夜空の下にいるかのようだった。
 

 幻覚症状の仕組みが解明されているかどうかはわからない。深層心理と記憶に働きかけているのはメルヤもうっすらわかっていた。
 頻繁にピエロの男が出るのが、顕著な証だ。憂いも躊躇いもなく慕った唯一の、人。
 幻であれ、会えたことに喜びを感じなかったと言えば嘘になる。


―夢の奥―

受け入れるわけにはいかなくても、目を、心を奪われるわけにはいかなくても視界の隅で見てしまうのだ。

 他にも共に過ごしてきた、連れて行かれて二度と会えないひと達の姿を何度も何度も幻視する。
 寒い。吐く息が白い。粉雪が舞っている。小さな体が白く染めようとしている。
 「昨日は納得したじゃないか。往生際が悪いよ、戻ろう。」幼い自分に語りかける。

――”……ほんとうに、イヤな大人になったね”

 夢でも自分に言われるのは、奇妙な気分だった。自分自身を責めているような、錯誤をしそうだ。

――”昨日と今日では……ちがうんだよ”


―夢と幻の境―

 何が? 何も変わらない。
 タルトが運ばれたことは少し意外だったけれど、ナナオもいるからきっとどうにかなる。トレイルが長くないことはわかりきっていた。
 「何も変わらないのに、駄々こねないでよ」

――”……ぼくはここからうごけない、うごかないよ”

 我ながら可愛げのない子どもだ、と思う。
 冷たい地面が足元から冷気を漂わせる。無理やりにでも連れて行かなければいけない。何故だか、そうしなければならない気がして、蹲っている幼い自分へと手を伸ばし――。

 その体がすり抜けた。
 幼い自分が顔をあげた。どこか憐れむような、恨むような目で大人になった自分を睨む。その生意気な瞳からは、音もなく涙がこぼれ落ちる。

――”もう……いない。……………いないんだ。”

 途切れ途切れの涙声を最後に意識が緩やかに浮上した。
 七年前の幼いメルヤは、そこに蹲ったままだった――。


―早朝:空室―

[目が醒めた時に、全身を強打したような激痛がメルヤを襲った。
 触感がある時点で予想していたことだが、幻の中で怪我を負えば、そのまま怪我をするらしい。

油断した。変幻しつつある幻覚症状に、咄嗟の対処など不可能だった。

幸いにして、見つからなかったようだった。手の包帯はすり切れて背中も酷い怪我を負っているようだった。手にしていたノートが無事なことにほっと安堵する]


[メルヤは懐から、シーシャに貰った鎮痛剤を取り出し、用量分だけ飲み干す。水はないが、この際仕方ない。早く効いてくれることを祈るばかりだ。


一度自室に戻って、包帯を巻き直そう。全身の痛みに耐え、壁に這うように立ち上がる。


ひやり。寒気が走った。怪我のせいなのか、全身が身震いをするように、寒い。

まるで。冬の夜空の下に投げ出されているような感覚にメルヤは戦慄した*]


[――大事な何かが、壊れる夢を見た気がする。]

……。

[――起き上がれない。
固定されているわけではない。
じわり、じわりと――欠けているような。
磨り減るような――疲れを感じる。
ただ、寝ていただけなのに。身体の中では、生きるために体力を使いきってしまっているようで――。

サイドテーブルに、新たに水差しと紙が置かれていた。
――なんとか、手を伸ばして――。]


[ようやく、取れた紙には――、]

――!?

[ナナオは紙を見るなり、顔を青くして。

まずい。
まずい――。
まずい。
ドクリ、ドクリ。
落ち着け、ゆっくりと息を――。
一気に上がった心拍数。
それは――まずい。
二人のことを考えながら、ドクドクと脈打つ心臓を意識しながら、過呼吸を引き起こさないように手を当てて――。

落ち着いて。
――と、頭の中にトレイルの声を響かせる。]


[落ち着いて――、ゆっくりと。
息を吸って――、はいて。
記憶が紡ぐ、指先のリズム。

――不安に脈打つ心臓は、次こそもう耐えきれそうにない。
静かになるまで、どれだけ時間が過ぎたろう。
二人のことを考えるだけで、胸が張り裂けそうになる。]

――。

[とにかく――、落ち着いて。
水差しに入った、水を飲んだ。]


メモを貼った。


―自室―

[慎重に自室に戻ったメルヤは寝台の上に腰を下ろした。強めの鎮痛剤が効いているのか、どうにか動けるようだ。

全身の震えは止まらない。薄着で雪の中を投げ出されているような感覚がする。
怪我のせいだろう。メルヤはそう思い込んだ。

かじかんでいるような手で、血がこびり付いた包帯を剥ぎ取る。包帯には幾つか鱗が付いていが、固い鱗のおかげで余り血は出ていないような気がする。
背中の怪我の度合いは、軽傷ではないだろう。

治療を受けてから動いた方がいいだろうと冷静に判断を下した。
メッセージと地図をケイトとナナオに残している。タルトがいつ目覚めるかわからないが、満身創痍で会えばあの病を悪化させかねない。
筋弛緩剤を投与されるのは嫌だったが仕方ない。

タルトとトレイルのとこに地図を届けよう、とこれからの計画を練った。]

(……あれ?)

[些細な違和感が、小さな針のように突き刺さる。チクチク、と。小さな痛みがあったが、強打した背中と擦りむけた手の方が痛かったからメルヤは明確には気づかなかった]


[包帯を巻き直す。血の付いた白衣と包帯をベッドの下に隠して、鍵を掛けずに手錠と足枷を付けている”振り”をした。

治療を受けて、タルトの部屋に行き、起きていなければ地図を置いていく。その後はトレイルのところに、地図を持って行こう。

ふと。ノートに手を伸ばす。シーシャから貰ったノートを、治療を受けるまでに読んでおこうと思った。

寒さに身を置くような体の震えは、止まらなかった*]


[治療を受けるまでの間、シーシャから貰ったノートを開いた。



 そこに綴られているのは、彼が思っていたような絵本ではなく日記だった。]


― 無色に彩られた日記 ―

[メルヤはシーシャの絵本のひとつだと思っていたものは、日記だった。
 他愛のない日常を綴った日記。誰の日記かもわからない。
シーシャの日記であるならば、何故これをメルヤに渡したのだろうか。

彼が処分しようとしたのは、何故だろうか。思い至ったのは、日常のことが描かれたのは”私”という一人称であるということだった。
薄々と気づいていた。シーシャと”私”の存在が、輪郭となる。シーシャが処分しようとしていたのも、そのせいだろうか?

ぼんやりとノートを捲る。半分以上を過ぎた辺りから何も書かれなくなった。
ところどころ、院内見取り図――1階と2階と各個室の場所のみだが――を記して数人分用意した無地のところが、破られている。

最後の頁にいきあたり、ノートが閉じられた。

一瞬、文字の羅列を目にしてメルヤは裏表紙を捲る。]


[鳶色の双眸が、文字を追う。指が、文字をなぞった。

   『誰が忘れてしまっても
              私だけは忘れない。』

届かなかった言葉《おもい》の欠片。触れたのは、確かな慈しみ。
シーシャはこれを読んだのだろうか。この想いは伝わったのだろうか。わからない。
文字を追う指先が震えていた。肌寒さを覚えている。


この想いを、届けなければといった、情感が不思議なほど、働かない。

心に、響いていないかのように。]


[ふと。――…目を閉じると、季節にそぐわぬ真冬の情景が浮かんだ。
細雪が降り落ちる、冬の夜空の下。中庭の樹の近くに蹲る子どもが泣いている。凍えて、寒くて、寂しくて泣いている。


”それは、届けなきゃ。伝えなきゃ…いけない。いけないのに、わからないの?”

幼い自分が、断罪するような声が内側から響く。]


[些細な違和感の正体に気づき、メルヤは自らを抱き込むように両腕をまわした。
体は、凍えたように冷えている。]


[深層心理の奥。
最期にして最初の残酷な白の世界に置き去りにした、幼い自分は――。

おのれ自身の心の一部だった。


《幻》に囚われ切り離された心は
雪がちらつく真冬の空で丸くなって――凍えている。]

道理で。
……今日はほとんど幻見ないと思った。

[ぽつり。呟く声音は無機質なものだった。

ドアが開かれる。
巡回の看護師が現れるのを、感情のない瞳が捉えた*]


[トレイルから返事はあったか。若しくは雑談でも交わしたか
...はトレイルにナナオの部屋までの案内をしようと申し出るだろう
″約束″もあるからと

断られたのならば其れはそれで構わない
メルヤにそう報告するまで、で
だが...は共についてきてほしいと願ったがどうだったか

...はどちらにせよナナオに一度会いに行くつもりであった
その″道中″メルヤにあっても問題はないだろう
この2人は自分とタルトとは違い、病気の性質上で合わないのではない
むしろ本人達は楽しそうなのになと...は思っていた
(それがメルヤにとって不本意であるかどうかはこの際置いておく)

車椅子を操作し、廊下を移動するのは酷く腕がつるものだ
脚の軋みはましであるが、今度は腕の関節が辛いと訴える
そんな中、メルヤを見つけたのは巡回の看護師ではなく...であった]


メルヤ、入るわよ

[貴方に言われた通り、トレイルに声をかけたと
そう言おうとして扉を開けて――絶句した]

ちょ、ちょっとメルヤ、貴方どうしたの!?
何、その怪我、それに目は……!

[何故か全身打撲の様な格好の彼に
そして私の向こうをみているのではない
何も見ていない様な虚空の瞳に...は息をのむ

そのまま車椅子を操り近づいたが、果たして彼は反応したかどうか]


―自室―
[の声にぱちり、と弾かれたように顔を向ける。]

あ。ケイト。

[血のついた包帯でも見られたのか。怪我のことに勘付かれて、ばつが悪い顔をした。]

ちょっと…ね。

目? 目がどうかしたのかい?

[不思議そうに問い掛ける。メルヤの様子は普段と変わらない。
ノートを持つ手が、かすかに震えている。]


[幻覚症状で中庭の一番大きな木から落ちたが、打ち付けたのは背中だった。
メルヤが普段鍛えていたおかげか、運動神経の良さが幸いしたか、枝に何度も当たり、体勢を変えようとしたりしたのが功を奏したようだ
手がすり切れたのは、器用な作業が出来そうにない痛手だが、動く分には支障は無さそうだった。
普段から包帯をしているため、部屋を訪れなければ勘付かれなかったかもしれない。普段より幾分、動きは鈍い。]

ケイト…ナナオとトレイルはどうだった?

[幻覚による怪我の原因ではない。
かじかむような手を抑えこむ。ケイトがメルヤに近づいたら勘付いたかもしれない

季節はずれの冬の冷気のような空気が、メルヤの体に纏っているのを*]


―メルヤの自室―

……そう

[何処で怪我をしたのよ。何で何も言わないの?
尋ねる言葉を飲み込み、...は唯、頷く
普段と変わらない様子なのに。今はその虚空が恐ろしい
それでもその中でノートを持つ手が震えている事に気づけば
...は小さく告げた]

トレイルの所には向かったわ。約束ですもの
――それはそれとして。震えてるわよ、手

[よくよく見れば其れが擦り切れているのに気付くだろう
包帯越しにもわかる、普段の彼とは違う動きの鈍さ
...はゆっくり車椅子に近づいた後]


……あなた。なに、それ
寒くないの?

[冷気を纏う姿に...は息をのむ
鱗を纏っている彼から発せられているのだろうか
感覚の鈍った自分にすら感じられる酷く寒い気に、
...は無表情を動かし軽く眉を顰めた]


…怪我のことなら気にしないで、大した怪我じゃないし。

[問い掛けを飲み込んだような気配に、苦く笑う。
ケイトと話している時の、メルヤは普段と打って変わらない。
かすかな変化は、表面上には現れる程ではなく、あくまでも心の”一部”だった。]

手、と。背中もちょっとね。

[そう、誤魔化していた口振りがで、トーンを落とす。]


――…寒くて仕方ないよ?


幻覚の類だから、どうしようもない。
ケイト、冷えるから。余り近づかない方がいいよ。
[心配そうな瞳の奥を覗けば
必要以上にどうということない振りをする。

シーシャに貰った鎮痛剤が役立っているのだろう。立ち上がれる。]

他のみんなのとこ行こうか?
タルトとトレイルには地図渡してないしね。

[そう口にして、廊下の方へと誘ってみせた*]


[――落ち着いて。
歌を、うたおう。

まだ、
出来損ないの、
未完成な歌を。

タルトちゃんや、トレイルが――。
いま、どうなっているかは分からない。

メルヤが固定具を外してくれたおかげで、たぶん無理をすれば動けるような気がするけれど。
――それをやったら、二人に会う前にあたしが死にそうだ…。と、ナナオはひやりとしていた。
今のは、あぶなかった。

大事な二人が今どうなっているか。分からない。
もし閉鎖区域に来ているなら、相当ひどいのだろう。
それを見たら――。

知っただけでも、あたしは死にそうになるくらい心配だった。
でも――、ここで、なにもできないのは悔しい。


……貴方、それで大した怪我じゃないというなら相当クレイジーね
私からしたら今すぐ治療室にぶち込んでもいい位の怪我と思うんだけど

[苦く笑う彼に淡々と告げる
細波すらたてぬ(ように、私には見える)心の内
彼の其れに波紋を抱かせるのは自分でないとは、知っている]

背中も?……治療せずに大丈夫なの
軽業を得意とするなら、痛むでしょうに

[そう呟くも、次の彼の言葉で...の指先はぴくりと跳ねる]


――寒い、の?
ねぇ、それは本当に幻覚なの?
私″も″寒いと感じるのに

[どうという事ないと言った声音と、寒くて仕方ないという言葉の矛盾
...は息をのんだ後、ゆらりと紫苑の瞳を揺らした]

本当に、動いて大丈夫なの?
寒いんでしょう、貴方

[誘いに躊躇するも、移動に否は唱えない
...は暫し考え、頷いて
ならばナナオの部屋に向かいたいと告げたのだった]


[――あの重厚な扉の先まで、この声が届くかは分からないけれど――…。]

…――♪


メモを貼った。


…ほとんど怪我は包帯で隠れてると思うけど
それどころじゃ、ないからね。治療は後で受けるよ

[クレイジーとまで言われてやや、眉を顰めた。
タルトのことも、トレイルのことも気掛かりだった。自然にそう思う。

――幼い少年だった自分の聲は、メルヤ自身にかすかに聞こえるのみ。]

治療なんて。後でいいよ。
軽業使わずに歩けば、いいし。鎮痛剤はあるから、さ

[冷たかっただろうか。思案げに、ケイトを見る。]


ケイトが寒いと感じるのは…もしかしたら僕の体のまとわりつく冷気、かな?
冬の夜にろくに着込みもせずにいるような、感覚。

[ケイトの気遣うような、紫の双眸を見つめる。
困ったような鳶色の瞳を、ぶつけた。]

寒いけど、僕が着込んでも仕方ないし…その内、終わるよ。

僕も、ナナオのとこに行こうかな。
タルトのとこに地図とメッセージ置いていくよ。

[そう告げて移動を提案した*]


隠れてるというかかくしてるからこそちょっとした変化がわかるの

[それどころじゃないと告げる声に少しだけ怪訝に思う
メルヤが病棟で暮らす仲間を大切にしていたのは知っていた
されど自分の事を後回しにするほど、なのか

鎮痛剤で抑え込むのなら余程痛いのだろう
わかるわよ。包帯で隠れていても
痛みに耐える人の姿なんて、ずっと見てきたんだから
私の好きな人(キルロイ)はずっと、耐えて我慢して笑うのよ
その姿を見てきたんだもの、気付くにきまってるじゃない

その言葉を、呑み込んで]

……後で必ず治療しなさいよ?

[私は気を害してないと言わんばかりの視線を彼に返した]


纏わりつくってそれまずいんじゃないかしら…
ええ、感覚が鈍磨している私でも肌を刺す位には

[困った様な視線、その内終わると告げる彼に
...は小さく息を零した後]

そう、なら私も耐えられないわけじゃないし
そのまま行きましょうか

[と、告げて彼と共に部屋を後にした]


[道中、...は彼に問いかける]

ねぇ、ここ数日多くないかしら
隔離施設に移送される人
1日に2人ずつとか、異常よ

[いったい何が起きているのかしらね、なんて
...は呟いた]


そっか。でも、そろそろ。ナナオ達の様子見に行きたいから
治療は後回しで…大丈夫、これぐらいは。

[不可解そうなケイトの瞳に、淡く微笑む。
声もなく告げる、言葉は伝わるかどうかは定かではない。]


(僕は僕よりも……みんなが大事なんだよ?)

[おのれの諦めよりも誰かの望みの方が大事だったように。
痛みは、シーシャの鎮痛剤が余程強力なのか。歩くのに支障はなかった。
笑うことも出来る。むしろ、寒さの方が問題だとも言える。]

……わかった。治療するよ。

[溜め息をひとつ零したのは、メルヤ自身に向けてだった。]


幻覚だから…対処しようがないよ。
その内、収まるから。

[鳶色の双眸を閉じる。
 いつまでも。いつまでも。動かずに、冬の夜空で丸くなっている姿が見える。

あの、幼い自分の姿をしたものが《幻》に取り込まれて、引き戻す手段はメルヤには思い至らない。]


[タルトの部屋へといく道中。廊下の道すがら、に顔を向ける。
 少し間を取っているのは、冷気で彼女の体を冷やさないためだった。]

考えらえることは…単に、症状が悪化したひとが重複した
隔離区域の場所が空いたから、入れることにした。

その他…かな。

[つらつら、と並べてみせた。]

……ケイト、これからどうしたい?

[不意の問い掛けは、世間話の延長のようなものだった。]


[少し間をとって彼は歩く
其れは心の距離にも似ているな、なんてぼんやり思考した

冷気は御蔭で当たらないが、何処か心が冷えるような感覚
憶えるのは、何故かしら]

それにしても多いのよね
症状が悪化したナナオは兎も角として
私やゆりは未だ、もう少しくらいは余裕があると思っていた

私達の症状は、他者に害を与えるものでは、ないから

[終末病棟(かくりしせつ)にしてはずいぶん性質が悪い
鍵もなく行き来できる癖に、決して扉は開かない
窓も、ない

つらつら並べられる言葉に、そうだとしたら空き室が多いのは
――何ででしょうねなんて、呟いた後]


……これからどうしたいか?
そうね

[問いかけに思案する
近い未来か、遠い未来か、尋ねているのはどちらか
...は暫し考えた後]

将来的に生きて、隔離病棟を出るのが目標ね
私キルロイにもう一度会うまでは、死ねない

近場での目標はそうね
ナナオとトレイルを会わせたい、かな


[身震いを起こし、腕を組みたくなったが念のため鍵を掛けずに手錠を付けている。
吐く息が白いような、錯覚さえ感じる。]

僕もそんなひどくないと思うんだけどね?
それを言うなら、トレイルだって害を与えるものじゃない。
タルトに至っては隔離した方がまずいんじゃないのかな…


[本調子なら脱走ぐらい出来るかもしれない。などと埒もないことを考える。
そんな真似が、メルヤに出来る筈もない。]

そうだね。空室が多いのも気に掛かる。
おかげで身を隠すにはいいけどね。

[少し悪戯めいた瞳を、輝かせる。]


そうだね。ナナオとトレイルを会わせてあげたい。
僕も同じだよ。

[肯定を示すように首肯する。
 どちらの未来か。訊ねたメルヤに深い意味はなかった。
遠い未来の話をすれば、メルヤは一度目を閉じる。何か紡ごうとして、再び閉じられた。]

…僕は目の前のことでいっぱいかな*


メモを貼った。


[――それは、
それ一回きりの。
その時だけの、
その時にしか…、
その時だから、歌える歌だった。

消えかけの命で紡ぐ、――の歌。

もし――。それを次に、歌う時があるのなら。
それは、違う歌になっているだろう。
だってそれは、未完成。
友達と一緒で初めて完成する、編みかけの歌だから。
リズムはゆっくり。――呼吸のように。]


でしょう?
タルトに関しては、私もそう思うわ。むしろ隔離した方が致命的な気がするから

[彼は凍える中で過ごしているのだろう
現実には梅雨の季節だから、廊下は少し湿気を帯びているようにすら感じる、のに]

あら、身を隠した事があるの?貴方
ずいぶん″やんちゃ″するのね

[暗に皆の病室を記した紙を部屋の扉にはさんでいた事を揶揄し
...は瞳だけで笑った]


ふふ、私もそうなの。仲間ね

[首肯に声は弾む
遠い未来の話には、現在で手いっぱいと返す彼。...は小さく歌う様に紡ぐ]

私は未来のために今を生きる
――私ね、手を離したくないと思った人の手を離して仕舞った
でも、それを再び繋ぎに行けない道理はないわ

キルロイの幸せを誰よりも願うの
其れと同時に――彼の隣に私以外の誰かがいるのは嫌とも思うの
彼と同じ空をみたい。再び笑いあいたい
ふふふ、私恋をして我儘になっちゃった

[あきらめてきたの
未練を残さぬように、そうしていきてきた
でもそれではいけないと気付いた
――そうすることで心を殺せば、後悔すると気付いたなら]


 私は、諦めない。

 彼の全てが好きだから。

 彼と過ごした此の施設での日々を再び取り戻せる事を。

 皆の事も、助けたいの。
 
 忘れられても、諦めているのを見ても。

 それなら頬ひっぱたいて目を覚ましてと叫ぶわ。

 ―――――……絶対に、諦めない。


[皆の幸せを、諦めない
私はそうつげ、精一杯表情筋を動かして

我儘娘は不敵に、笑ったのだ]


医者が何考えてるかわからないね
…こんな怪我するつもりじゃなかったんだけどな。

[真冬の空にいるような、感覚は戻らない。
きっと、あの心がどうにかならない限りこの冷気は抜けない。]

やんちゃ出来るのが僕ぐらいだからね。
これぐらいするさ。

[見取り図の書いたノートを持ったまま、ケイトに向けて笑う。]


そうだね。仲間だ。

[彼女の声はいつだって感情溢れている。
ケイトの声を聞き、身も凍るような寒さが少し和らいだような気がした。]

幸せ、か。
素敵だと思うよ。

僕も、ケイトとキルロイに幸せになって貰いたいな

[ふわりと微笑む、メルヤは心底願っているようだった。
不敵な笑うケイトは、病をも克服していくかのようだ。

強い彼女を、見つめる。]

…一回ナナオの様子を見てみようか?



[タルトの部屋を通る前に、ナナオの部屋の方が近い。
 そう口にして、ナナオの部屋の重々しい扉を、開く。

背の傷口がじくりと痛み、顔を歪ませた。]

ナナオ…起きてる?

[小さく声を掛けた。]


メモを貼った。


―自室―

[“誰か”が部屋の戸を叩いたとき、彼はまだ虚ろな夢の中だったろうか。どこかで歌が聞こえるような、そんな夢だった。歌っていたのが“誰”なのかは、彼には到底分からない。]

[――――……瞳を覆う包帯に手をかけて。狭間から覗き見る世界は、きらきらしていた。割れたガラスをちりばめたその世界は、うっすらと光源を示す。使いものには、ならないだろう。でも彼は、]


――――……綺麗だね。


[それを“見て”笑うだけ。]


[それ以上も、それ以下も、ない*]


メモを貼った。


それでも、貴方が怪我をしたら
心配する人は多いんだから、ほどほどにね?

[忠告、釘をさすのは忘れない

私は表情が殆ど作れない
だから声に、瞳に視線に。私を込めるのだ
其れが誰かの心を灯せるのなら、それはとても幸せな事]

……言っておくけれどメルヤ
私ね、貴方二も幸せになってほしいと思ってるんだからね?

[ふわりと笑う彼にそう告げれば、
ナナオの様子を見よう、といった彼に――]


……私は、少しだけ寄る所があるの
ちょっとだけ離れていい?

[きぃ、と車椅子を動かし、
目的の人物の部屋に行きたいと
...はメルヤに背を向け、その人物の部屋に向かったのだ]


――……。

[あと何回、歌えるだろう。
あと何回、起きられるだろう。
あと何回、あなたに会えるだろう。
既にもう、回数が尽きていることもあるのかもしれない。]

メルヤ。

[知っている声が、扉を開く。
ナナオは、誰かが来るのを待っていた。
メルヤが来たなら――。

儚げに、ナナオは笑った。]

・・・これ、外してもらっても良い?

[せんせーの処置した拘束を外すこと。
――それがどういう意味かは、あたしは知ってたけど。]


―少し前:廊下―

僕の心配、か。うん、ごめんね。ケイト
[困ったように、眉を下げる。
実際にメルヤは困惑していたので、嘘ではない。

――…ぼくの、しあわせ?

酷く遠いもののように思うのは何故だろうか。
どこかで
      こどもが

              泣いている。]


―少し前:廊下―


……ありがとう。わかった、ナナオの方はまかせて

[には感謝の意を示し、見送った。
車椅子が、遠ざかる。眺めた後に、ナナオの部屋の重厚な扉を開く。

の歌が、耳に届いただろうか*]


―すこしまえのこと―

[...は躊躇いがちに扉を開けた
その際、彼は唯、笑うだけだった

私でない誰かを見て
″私″のナニカを見て、笑うだけ

此処に来る前は目を合わせようともしなかったのに]

……そう、綺麗なの?
貴方は一度たりとも私にそう言った事はなかったけれど
貴方の瞳には何が映っているのでしょうね

[万華鏡の様な世界が見えているのかそれとも
...はまた後で来るわと言い残し、
壊れた用に微笑む男の部屋の扉を静かに閉めた*]


―そして、現在―

トレイル……トレイル・ステーラ

[私は呼ぶ。彼の名を]

私は、貴方にとって傍観者
私は貴方にとっては何か苦手な事の琴線を刺激するようなモノを持っていた存在

――でもね、私は貴方の事をこの病院に捕えられた仲間とも思っているわ
そして、私以上に、比べるのも悪い位に貴方を大切に思う人を知っている

だから、そんな顔で笑う貴方を私は私の為に許さない
私は皆にしあわせに、なってほしい
行くわよ、トレイル・ステイラー
拒否権はない。おいで

[無表情で、儚く笑う男に淡々と告げればその結晶化が進む腕を握り締める
車椅子?移動しにくいなら其処に放置でもするわ
脚が軋む?気合いで動かせ]


――私は、貴方をつれていく
貴方に会いたい人たちの元へ

[そんな風に壊れたように笑う姿でも。彼らなら――きっと
何とかしてくれると信じて

私は彼を、緩慢ではあるが軋む足を動かして
ナナオの部屋へと誘った

さて、彼は抵抗したかそれとも
何にせよ、...はナナオの部屋へと彼を引っ張っていったろう
――私は恋する少女の、他者の幸せを願う少年の、味方なのだ]


メモを貼った。


―ナナオの部屋―
――……ナナオ。

[昨日元気にしていたナナオは、どこか憔悴しているようだった。
かじかむ手を、押さえる。]

……それを外したら君は。

[儚げな笑みを浮かべる。を見つめる。
昨夜の幻の怪我があるが、一度外したものでもある。僅かに逡巡し、問い掛ける。]


……トレイルは、もうすぐ。ケイトが此処に連れてくると思う。
タルトはまだ、起きてないみたいだった。

もし起きたら連れてくるよ。約束してもいい。


それでも、拘束を外して欲しいと望むなら……

[誰かの望みを、”家族”の望みを断れるメルヤではない。

彼の心の一部は、凍り付いた真冬に置き去りにされているのもある。
普段通りならば、拒否を示しただろう。


問い掛けながら、ピッキングに使っていたピンセットを探る。]


ふたりは、来れない――だから、メルヤが来たんだよね。
ね。・・・ふたりは。

[少し声が震えて、どうなっているの、と続きを言えない。
聞くのがこわい。でも。]

・・・どう、なってた?

[でも、ここで。――ここに、いて。
じっとしているだけなんて、いられないから。

だってあたしは、恋する乙女だからさ。
――その枷が、あたしの命を繋ぐ為にあるとしても。
今は、自分の命どころじゃない――と思えて。
でも。――返答を聴いて、少しだけ拍子抜けしてしまう。]

・・・来れ、るの?大丈夫なの?



嗚呼……そうだったかもしれないね。


[突然の少女の言葉にも、そう落ち着いた口調を返す。ぱたりと絞められた扉の音。続く言の葉に耳を傾けて、手を取られても、笑みだけは消えなかったけれど、けれども]


――――……君は、


[ひらいた口はすぐに閉じられ、そして少しだけ言いかけた言葉を振り払うかのように首を振ると、手の先。彼女の瞳があるであろうそちらに顔を上げた。]


俺は、何も与えられないよ。もう。きっと。
それでも連れていくというなら――――俺は自分の足で、行こう。


[彼はきっと、なにひとつだって理解しちゃいなかっただろう。それでも自らを引く腕を拒まなかったのは、それを支えて進む方向へ自らの足先を向けたのは。

ひとつ、大事なものはまだ残っていたから。]


――――嗚呼そうだ、“花”はこの部屋にあるかい。


[全ての喪失と同時に彼が得たのは、己の意味*]


タルトは今は眠ってる。小さい体に…睡眠薬が多かったのか、わからないけどちゃんと呼吸はしてたよ。

[の声が震えるのを耳にして、安心させるように穏やかな声と笑みを浮かべる。
このやり方はどうにもトレイルに似てしまった感があるが。

”今”のメルヤは気にしなかった。]

ケイトも、ナナオも、強いね。
恋する乙女は、無敵だ。

[少しだけ茶化したような、声を出す。]

ケイトに頼んでる。きっと、彼女なら連れて来てくれるよ。
正直言うと僕はまだ、トレイルがどんな状態か知らないんだ。

でも。予測は、つく。
……ナナオ。少し僕の話を聞いて貰えるかい?

[僅か距離を取ったのは、体が硬質化しているケイトでさえも冷気を覚えたからだ。
 心の一部が冬の夜空に投げ出されたまま。体の震えを悟られないように、ゆっくりとした声で語りかける]


トレイルのことが、好きなら…少しでも、一秒でも生きることを、選んだ方が喜ぶかもしれない。
あいつはね。あれで、寂しがり屋だよ、多分ね。
本当はみんなに覚えていて貰いたかったんだ。

自分はさっさと綺麗に消えて、ね。

[どこか。遠いところで話しているような気分だった。
 それでも、メルヤは必死に、穏やかな笑顔を浮かべる。

どこか空虚なものを、ナナオに悟られないように。]


メモを貼った。


別に貴方が与えるとか与えないとかはどうでもいいの

[一刀両断。人によっては冷淡にも思えるだろう言葉
私は、与えられた恩恵に気付かず笑みを浮かべる男に、眉をひそめる
つまりは――私は非常に、目の前の男にむかついていた]

貴方自分が神様にでもなったつもり?
いいこと、良くお聞きなさいな
――貴方が与えるんじゃない。与えると感じるのは受け取り手次第
互いに、受け取るのよ

[緩慢な動作で、もう片方の手は彼の頬を打つ
打つといっても触る程度しかできない。其れほどに私の関節は手の方も硬化していた

″人の気持ち″を、
舐めんじゃないわよトレイル・ステーラー]


[其れでも彼を連れて共にナナオの部屋に行くのは
きっと私は見たいから

メルヤをからかって笑っていたトレイルを
ナナオの歌に耳を傾けていたトレイルを

トレイルを恋うた輝くナナオを
嫌そうにしながらもトレイルを気にかけていたメルヤを

私は、この施設の仲間が好きだから]


[花の事に関しては勿論と、告げよう
ああでもね]

あるわよ。この部屋に花はある
――それと、貴方の瞳にもね

[告げれば目指すはナナオの部屋
其処につけばノック――は、流石に体力的にきつかったので
そのまま扉を開けたが
果たして中に居る2人は、何をしていたかしら*]


[タルトちゃんの容体を聴いて、逸る気持ちを抑えて。
どくり。胸に手を当てる。――内心。この拘束に繋がれていても。
次、があるか――分からない、と思うけれど。]

うん。

[メルヤに、しっかりと頷いた。
――でも。あたしは、強くなんてないと思った。
不安で――。今更ながら、臆病風に吹かれそうになっている。 そして、相槌を打った。]

・・・うん。分かるよ。・・・消えて、か。

[わずかに距離をとったことに、ナナオは気がつかない。]

ね、メル・・・・あ。

[――あたしに、トレイルに出来ることはあるのかな。
ここに来て。――そんなことを、思ってしまう。
それを言葉にする前に――、再会の扉が開いた。]


…それでこそ、ナナオだよ。

[頷く姿や、震える声を聞く。
メルヤは恋を知らないが、恋愛相談では上級者と言って良い。

本当に、彼のことが好きなのだろう。命を張ってでも、一目会いたいと思う程に。
寒気が増してきた。遠く遠く、子どもの声がする。ナナオに意識を向けるべく鳶色の双眸を真っ直ぐに見つめた。]


[ノックの音がきこえたのはその直後だったろうか。
メルヤは扉を開き、ケイトと連れて来られた風情のトレイルを交互に見る。
開け放しにして、一度ナナオに近寄り、小声で告げる。]

「僕は嘘が下手だからね、無いかもしれない。…だけど、あるかもしれない。
君の心が、彼に届くことを願ってるよ」

[そう告げて、メルヤはナナオから離れる。かすかに全身纏う冷気に気づかれたかどうかは、わからない。]


・・・?

[メルヤの囁きと一緒に、冷風に吹かれたような気がする。
不思議そうに首を傾げたが、その小声で囁かれた内容もナナオはよく理解していなかった。
――あたしの心の中を読んだような、気がする。
それが不思議で――、]

メルヤ・・・、それってどういう。

[訊ねて。――扉の向こうへ見えたトレイルに、眼が逸れた。]


[の方を伺う。茫洋とした瞳はどこも映していないよう。

体の内側から軋む、寒々しい体に纏う気配は雪山の遭難者のように今はメルヤの体に熱を放ちはじめた。熱気と寒気が、メルヤから放たれる。]

やあ。トレイル。昨日振り。
……目も見えてないのかな?
随分、早く広まったんだね。

[メルヤが彼に話しかけるにしては、至極穏やかで冷静だった。
冷静過ぎると言っても良いだろう。

付き合いが長い者には奇異に思えただろうが。最早何も残っていないような態のトレイルには届かなかっただろうか。]


僕は君に、言って置こうと思うことがあるんだ。
[メルヤはトレイルに近寄り、彼に聞こえるように耳をそばだてた]


君が大事だったのは、薄紫だけだったの?


[トレイルを見る目にも、触れる手つきにも。
怒りも悲しみも何も込めていない。

かつて胸の内にあるものを、”ナナオ”のために吐露しているに過ぎなかった。]

他の何も誰のこともどうでも良いなら、はじめからそうしていれば良かったんだよ。
適当に構った挙げ句に本心はどうとも思ってないなんて、溜まったものじゃないからね

どこまで進行したか知らないけど
臓器移植の話を知ってる?

心臓を移植した人が、全く知らない相手の記憶を鮮明に追体験するんだって。

心は、そこにだけあるんじゃないよ。
全身にあるんだよ。


出なければ……。

[そこでひとつ区切る。トレイルにだけ、聞こえるように、声を潜めた]

”ぼく”はこうは、ならなかっただろうね。

[あの冬の日に君が見つけなければ、凍死していただろう。
 だから、幼い自分が、七年前の幼いメルヤが蹲って泣いている。ピエロの彼が亡くなったと聞いて。

どこかで、メルヤは彼ならば愉快に生きていると心のどこかで思っていたようで。

支えを失った心が泣いている。あの冬の夜空の下の《幻》の中で――誰も来ないと嘆いているのだ。]


……さて。ナナオ、僕にはもう頑張ってってしか言えないけど。
もしタルトが起きたら連れて来る。

[トレイルにだけ聞こえるように潜めた声は、身近にいたケイトに聞こえたかどうかはわからない。
どちらでも今のメルヤは気にならなかった。]

ケイト?
車椅子どうしたの?

持って来ようか?

[そう、ケイトに話を振った*]


[トレイルを待っていた2人
メルヤが囁いた言葉はわからなかった――否、うっすらとは聞こえていた
でも、それは″ケイト″が口を出す話ではないから
...は黙って彼がトレイルに紡ぐ言葉を、聞いていた

ナナオの瞳はトレイルを捕える
希望にあふれた、優しい瞳が伽藍堂の微笑み浮かべる男を捕える


少しだけ、メルヤの言葉がわかった気がした
″ナナオは彼にはもったいない″と


奇遇ね、私も今そう思った所よ
なんて、過去に戻れたら貴方に言うけれど
生憎タイムマシンなんて便利なものは此処にはない]


[と、メルヤから話を振られて...は小さく、小首を傾げる]

ああ、私この人連れてくるのに邪魔だったから置いてきちゃったわ
……正直脚が辛いのはあるけれど
でも貴方車椅子の輸送方法とか知らないでしょう?
良ければトレイルの部屋にあるから、其処まで私を送っていってもらえないかしら
多分今こけたら、私立ち上がれないかも知れなくって

[というお願いを、1つ
――こっそり、ナナオとトレイル2人っきりで話をさせてあげたいなと
そんな思いも、あったり]



――――言うね。


[説教染みた口調と、手荒い頬打ちに零した言葉。仮に触れる程度のそれだったとしても。見えない彼には、触れられるだけでも、それは自らへの大きな干渉になりえる。]


当然何を言い出すかと思えば、説教かい?
そこまでおひとよしじゃないよ、俺は。見くびられたね。


[荒い言葉に反して、口調は落ち着いていた。むしろ淡々としていた。込められているのは冷たくも感情の確かにこもった声。]


残念だったね。
――――俺にはもう、君と誰かが望むような“受け取り”はできないんだよ。


[とん、と左手が示すのはこめかみ。軽くさした指先でぴしりぴしりと音がする。]


・・・えっと。その。

[ナナオは少し、困ったようにトレイルの方を見た。
何て声をかけて良いのかと、迷ってしまったのだ。
髪の毛が結晶化しているのを見れば――、何も言えなくて。

――そして、トレイルと話すメルヤを黙ってみていた。
メルヤは、トレイルに怒っている・・・?
それが、どうしてなのか。
あたしには分からない。
トレイルは、病状が悪くなって記憶を失っているように見える。
それを見たメルヤが、"ナナオのため"に吐露していることにも気がつかない。]


分かってるんだろう、君は。
保たれない記憶に、求めちゃならないものだってある。でも俺は、できることなら、きっと、たぶん、なんて穴を無理有こじ開けて

――――――行こうって言ってるんだ。


[上がる言葉に対して、冷たい言葉。口角を上げる口元は、変わらなかった。終わりは、近い。人は出来ることを探すのかい。違うだろう。…………したいことを探すんだ。

言葉は違えど、きっと彼女と為そうとしてることは同じなのだろうけれど。“トレイル”の精神はまだ、彼の中にちゃんと、ある。]



――……“花”があるなら、いいんだ。


[それが、俺の持てる“全て”を表してるから。呟くことのないその言葉は、彼の瞳を虚ろにさせれど、盲にさせど、決して――濁ることのない、水晶に。

手を引かれそのまま連れられれば、どこかの部屋の、扉があいた。]


メモを貼った。


―少し前のお話―

そりゃあ言うわ。お人好しとは思ってい″た″けれどね
素の貴方性格悪そう

[人の目を見て話さぬ男の何処が性格がいいのか
優しい所はあるのは知っている。されど見くびるという言葉から滲む底意地に

舐めるな、其方こそ人の情を
なんて思ったのも致し方ない

それでも感情がこもるのなら、それは悪くない
あの空っぽな笑みよりずっと良い]

できないと決めつける方が愚かと思うけれど
まぁそこまでは望まないわ。貴方にとってとっても大変なんでしょう?

[分かっているわ。ええ貴方の言いたい事は
それでもね]


求めちゃならないなんて誰が決めた
そんなマイルール捨ててしまいなさいな
求めてはいけないものなんてないわよなんにもね

[ああ、かつての自分を見るようで嫌になる
それでも行こうとする男の中に、″トレイル″としての意思を感じたなら
私は精一杯の不敵な笑みを形作って、男をナナオの部屋へ案内するだけ

ああでも、ねぇトレイル貴方は気付かないの?
花は1つだけじゃない。
貴方の足元に咲いて、健気に貴方を見上げる花も、あるのに*]


ケイト、重労働させてごめん。
僕が行けば良かったかもしれないね。

そうだね。ちょっと…冷たくなってるかもしれないけど

[手を差し出した。ナナオとトレイルを二人にさせようという思いは、同じだろう。]

じゃあ、ゆっくり歩いて行こうか。
トレイルの部屋なら知ってるしね。

……じゃあ、ナナオ。
辛いかもしれないけど、ちゃんと見て、ちゃんと伝えるんだよ。

[そう。告げて、ケイトが手に取ればケイトと共にナナオの部屋を後にした*]


構わないわよ、メルヤ
私が彼をこの部屋に引っ張っていきたいと思ったのだから

……ん、大丈夫。其処まで冷たくはないわ

[差し出された手に、緩慢な動作で手を置けば
冷たさを感じる、が其処まででもない
トレイルと相対した時に感じた、心に沸き出た冷かな感情
其れよりは余程。むしろぬるい位かと]

ありがとう、助かるわ
……ナナオ。頑張ってね

[メルヤに続きそう言えば、...はメルヤと共にナナオの部屋を立ち去った*]


メモを貼った。


メモを貼った。



(全部、違うよ。)


[答えを見つけた彼は、何も言わない。違うことが、どうなのだとも。思わない。思えない。無干渉を求めるわけでもなく、踏み込むわけでもなく。彼がずっと、彼らとこうしていれたのは


揺れる淡紫の花。
あれは、彼の“こころ”そのもの。


記憶を紙に落としたのも、どこかの“誰か”を想ったのも、全部全部。淡紫が揺れたせい。紫苑の花がなければ、彼はどこかで塵になっていたかもしれないし、ここにだってもういないだろう


でも。これを口にしてしまったら。
全て崩れ去って――――それこそ、きっともう、“消えて”しまうから。だから


もう少しだけ。
受容に変わった諦めは、少しだけ欲張りだ。生を求めてしまうくらいには。うしろでぱたりとドアが閉まる音がした。]




――――……みっともないとこ、見せちゃったね。


[肩をすくめて、苦笑い。

そこにいるであろう人影にかける声は、至極いつもの“トレイル”と変わらなかった、だろうか。]


メモを貼った。


うん。

[メルヤと、ケイトリンさんに頷いた。
ナナオは手をぎゅっと握っている。
いま、黒い小手の中がどうなっているかは、分からないけれど。
ぬるっとした感触は、毒ばかりではなく手に汗もかいている気がする。

頑張る。――何をどうかは、ともかく。

でも。
――扉が閉まる。二人は、部屋から出ていって――。
中々、言葉が出てこない。どうした、あたし。
何を――。何を、言おうか。]


[ 肩をすくめた、その姿に。]

・・・ううん。
変わってない、よ。

[なんて、あたしは笑った。
――相変わらず、ちょっと格好つけてて。格好良い。
記憶が無くなっても、そういう所は変わってないんだ、と思った。]

トレイル。
あたしは、ナナオ。・・・あなたは、トレイル・ステーラ。
まだ、声は聞こえているよね。ね。・・・こっちに、来て。

[そう言って、ナナオは手を伸ばした。]



[“変わってない”

その言葉が示す意味が分からないほどではなかったけれど、でも、この子には、何故だか隠していたかった、と思った。どうしてだかは、彼自身にも分からない。]


むしろ良くなったくらいだよ。


[目の前から聞こえる声に、手を伸ばして。ぎこちなく触れる指先。一歩、歩を詰めて。……伸ばした手は白い右手だった。]


うそつき。

[――そう言いながらにっこり笑って。
黒い小手のついた右手と手を繋いで。――冷たいかもしれない。]

知ってたよ。
トレイルが、結晶化するだけじゃないこと。
・・・記憶を、無くすこと。
それを、辛そうにしてたことも・・・。

[――気がつかないふりをしていた。
触れないようにしていた。
この手で――。
そして、他人の病気に。
あたしだって、うそつきだ――。]


メモを貼った。


メモを貼った。




――――……。


[返せる言葉は、ない。彼女の声のトーンは言葉に似合わず上がっていた気がしたけれど――顔を見ることは叶わないから。感触の分からないその右手に、彼女の手を添わせることしかできない。]


君には、隠せると思ったんだけど……ね。


[ぽつりと口をついた言葉。そんな気がした。“誰かさん”には何も隠せなかったけど、君になら。むりだったか、と苦笑するのは心の内の見えない自分。実際の浮かべたのは静かな微笑。]


・・・分かるよ。

[ぽつりと、――その声は、拗ねるように。]

トレイルは、結晶化のせいか。
あたしの毒に触れても大丈夫だ、って言ってた。
――だから、だったのかな。
・・・トレイルは、あたしを助けにきてくれたんだ。
いっかいだけじゃ、ないよ。

[妹みたいな扱いだったのかもしれない。
心配してくれていたのは、あったかもしれない。
ただ、毒に影響を受けないからと見にきてくれていただけだったのかも――。

でも、それが――。嬉しかった。
自分の中にある、大切な記憶。]


メモを貼った。



[俺の知らない、俺の話。]

[半歩。踏み出せばきっと、彼女の瞳は少し下の方に。見えていないはずの視線はしっかりととらえていた。大切そうに語る少女の声。]


それが、俺の独りよがりで
それは――――誰かへの罪滅しかもしれないよ


[そんな大した人間じゃないよ。言外にそう滲ませてふっと笑うのは、やはり彼。]


メモを貼った。


メモを貼った。


メモを貼った。


―廊下―

(……寒くて、何か眠くなってきたな)

[吐く息は白くなるまで幻覚は影響を与えるだろうか。
怪我を負わせる程だから、有り得る。冷静に解析しようとしていた。

ケイトは余り冷たくないと言っていたが、本当だろうか。訝しむ。
トレイルとナナオの部屋はどれぐらいの距離だったろうか。

視界の隅で風花が舞う。]


ケイト。やっぱり治療は後回しでいいかな?
今の状態だと、幻覚が悪化して拘束されるかもしれないし…

[奇妙な違和感は拭えない。
寒気も止まらないのに、大した危機感が生じない。その理由には確信を得ていた*]


―廊下

[共に廊下を歩むメルヤは、まるで雪山の遭難者の様だ
彼が吐く息は何故か白い。まるで氷雪に抱かれているような、光景
...は奇病の恐ろしさをまざまざと感じることとなった

自分の様に緩やかな孤独へのカウントダウンではなく
他者にすら視認できるほどの、凍てつく波動
其れを抱くメルヤは、何処か諦念を抱いているようにすら見える
とはいえ硬化が進む自分にとっては凍てつく寒さも差すほどの痛みには感じない
其れは自分の病の進行をまざまざと見せつける結果になったろうか

雪の花が舞う光景は、私には見えない

彼の提案には暫し悩んで頷いた
彼が拘束される可能性は、確かにこの状況では非常に高い
回復を待った方が良いかと、そう感じたからだ
そして――私は、聞きたい事があった]


ねぇメルヤ
貴方気付いてる?――今、自分が″変″なこと

[体調とかではない
私が、言いたいのは]

貴方、トレイルに対してあんなに淡泊だったかしら

[″あの状態″のトレイルを見れば
普段のメルヤなら悪態や頬を張る位はしていそうだった
しかし実際は諭す様に、切なさを秘める様に
自身の思いと疑問を吐露しただけ

...はメルヤの内部の変化を訝しむ
――もしかしたら、それは彼の抱く寒さと関係があるのではないだろうか
暁の色の瞳は彼を見つめた]


メモを貼った。


ありがと。…多分だけど、そろそろ寒さも止むと思うから。

[ぽつり、呟く。鳶色の瞳を閉じれば、変わらず幼い自分が蹲っている。
変化しているのは、中庭の樹に、幼い子どもに、白い雪が積もりだしてきたことだろうか。
あの夜の次の朝がどうだったか。記憶にはない。

丸一日寝ていたような気がする。]


[の思慮が含まれた追求を、メルヤは受け止める。
ただ、静かに受け止める。


鳶色の双眸には、困ったような色しか浮かばない。]


……そうだね。ちょっとおかしいかもしれない。
[ケイトは勘付いたのは、当然の帰結だったかもしれない。
もう少し慎重にすべきだったのだろう。鋭い指摘をされても、思考は至って冷静だった。]

淡泊なように見えたかい?
けっこう、厳しいこと言ってたと思うんだけど

そう見えたとしたら、体調の悪さじゃないかな。

[彼女がどこまで不可思議に思っているかも知らず。
メルヤは誤魔化すように、呟く。

幻覚と言えど現実感が伴えば、如実に弊害を与える。
今のメルヤは怪我を負って、冬の夜空に投げ出されているようなものだった。
不調は嘘ではない。

ただ、本来ならば当に倒れてもおかしくないような状況で、普段よりも鈍いと言えどからだを動かせるのは、剥離しかけているのだろう。

――《幻》に飲まれている部分と、今のメルヤの繋がりが切れかかっていた。
彼は気づいていた。どうしようともせず、ただ幼い自身の終わりを見つめているだけ]


……そう

[それが貴方の心を殺す結果にならなければいいのだけれどね
そう、思った
私は目の前の観察者程ではないが、人の事はよく見ている方だ

静かに受け止め、困った様な色を浮かべた鳶色
其れを見れば誰だって気付く、筈
彼が喪いかけているモノの、正体を
(とじこめたものの、しょうたいを)

そも、幻視痛とはどうやっておこるのだろうか
脳が、シナプスの回路の誤作動
若しくは思い込み
其れが与える影響は通常自分自身にのみという限定されたものだ

されど彼の奇病は周囲に影響を与えるほどに
その幻を強く見せる]


あっさりと認めるのね
――普通の貴方なら、誤魔化していたわ

[やはりいつもとちがう
告げれば彼が告げるは見え透いた誤魔化し
体調の悪さなんて貴方いつでも、隠していたじゃない
其れほどまでに余裕、ないの?]

厳しいかしら?むしろ責めているようにすら見えたけれど
普段の貴方ならもっとトレイルに想いやりがあったはず
だって貴方、トレイルの事好きじゃない

[インプリンティング、小鳥の刷り込み
甘い蜜を与えられた飢餓の子が、且を母と慕うが如く
彼にとって見つけてくれた事がきっとトレイルという存在に対し
心の奥底で思慕を感じる様になったのだろうと]


[とはいえ、そのあたりのくだりは私は知らない
誰も話さぬのだから知りはしない
唯、わかることは1つだけ

彼がトレイルに、路傍の石ではなく
″メルヤ″として価値ある存在に見られたかった事1つだけなのだ

心と体のリンクが切れれば、後は腐り落ちていくだけか
それとも完全に凍ってしまうかは分からない
でも願わくば、そうなってほしくないとは、思う]

――君の瞳に花咲く日

[ナナオの歌を小さく口ずさみ
...はメルヤを見る]

貴方の瞳に花咲く日、貴方は何を思う?メルヤ

[戯れの様な問いかけ
心のいちぶをなくしかけている彼に対する問いかけ]


[ナナオは見上げて、目をあわせた。
――トレイルの目は見えてはいないのかも、しれないけれど。
記憶が消えても、やっぱり――。それは、]

罪滅ぼし、か。
ね。トレイル。
――あたしだって、独りよがりだよ?

[そしてナナオは、目を瞑る。あるのは音と、小手越しの手の感覚。]

あたしにとっては、大事でも。
トレイルにとってはどうかは、分からない――。
それがただの罪滅ぼし、だったとしても。
あたしは、嬉しかったよ。


[そっと手を握る彼女がどう想ったかはメルヤには計り知れない。

その深い思慮は、凍死で自らが死ぬのではないかという懸念を浮かび上がらせただろうか。]

僕は死なないよ。この幻ではね。

[幻覚に触覚まで現れたのは、つい最近のことだ。
 現実主義で現実を受け入れるメルヤが、幻覚に苛まされるのは滑稽な話だ。
 幻覚症状の仕組みは、メルヤにはわからない。
ただ、ケイトが推察しているような思い込みなど、都合の良い幻など彼は彼自身に許さなかった。


節々の冷えが、少しおさまっていた。]

着いたね。部屋の主はいないけど、邪魔するよ。

[一言断り、トレイルの部屋へと入り込む。
車椅子を見つければ、ケイトを促しただろう。]


……そうだね。
でも、ここまで悪いと隠しようもないから。

[嘯いて、ケイトの方を見つめる。
静かな鳶色の双眸は、普段と変わらない。奇妙なぐらい、いつも通りだった。]

普段の僕、か。
……ケイトから見たら僕はそんなに普段通りに見えないかな?

思い遣りとかじゃないよ。お互い踏み込んで踏み込まないだけ。

なかった、だけ、かな――?

[トレイルのこと好きじゃない。という言葉には返さなかった。

どんな返答をしても、今のメルヤ自身では、不自然に彩られる]


[どこかで聴いたフレーズが、耳朶に伝ったのはその時だったろうか。

凍えかけている心が、軋みをあげている。少しだけ起きて貰えないだろうか。この聡い彼女を、誤魔化すために。

ふっと、寒気が急速に増していた。
浮かべたのは何の澱みもなく柵もない、純真なほどの表情で。]

僕の瞳にはいつだって、花は咲いていたよ。
トレイルの、彼の瞳にはいつだって紫苑の花が咲いていたように。


[幼気でさえあるような声音で、零すのは本音。
 目を閉じれば、ほら。浮かび上がる]


[――はらはらと落ちゆく風花が、僕の瞳に浮かんでいた。]


[熱の篭もった、紫の双眸。その瞳を見れば憐れむような、訝しむような視線を見返す。]

ケイトは、よく見てる。でも見過ぎてて勘違いしてるよ?
僕はトレイルがいつか”落とす”ことは覚悟していたし、何より特別になりたいだなんて思ったことなかった。

本当にね。そんな望みは抱いてなかったよ。

[――そうでなければ
目を閉じる。浮かぶ冬の情景に取り残された子どもが、いる。]


[車椅子の所まで案内されれば礼をいい、
...は其れにゆっくり腰を下ろした

自分が幻で死なないと断言するメルヤ
懸念を物色する発言、其れを私は信じることはできなかった

肉体は死なないかもしれない。されど
――心は死ぬのに

自分自身の安寧を許さぬ殉教者に
できることは...にはきっと何もない]

……っ

[きしり、と痛む関節
そう、痛みがでたのならそれは神経にまで食い込んできたのだろう
思い出したのは空の絵
だれよりも、自由に――羽ばたけた、なら
そんな儚い願い]


[メルヤの言葉には少し呆れた様な視線を]

普段通りにですって?
まったくもって見えないわ。貴方にとって残念なことにね
隠しようもない、は確かにね……嗚呼
少しばかり周囲の気温も冷えてきたかしら

[...の吐く息にも白さが混じるようになればそう呟いた後]

…まるでマリオ・ネットみたいね
不自然な事に気付かぬ道化師さん

[奇妙な位に何時も通り
それを取り繕うようにと歪な歯車回し続け
彩るのは言葉の糸でがんじがらめに

純粋すぎる表情浮かべる彼に
...が向ける表情は無表情ではあるが視線に訝しさを帯びる
されど答えを、聞いたなら
――私の周囲の気温はまた、少しだけ下がった]


[彼の目の前降り注ぐ小雪は
彼の心を浚ってゆく]


[訝しむ彼に溜め息を吐きたい気になった
覚悟なんか関係ないのにね]


あら、特別というよりも

[あたりまえに、貴方を友人としてか弟分としてかわからねど
そのように見てほしかったんじゃなかったの?と
告げようとするが言葉にはしないでおいた

理由は簡単。きっと彼は其れを認めない
違うと自分に告げるだろうから
雪山で眠る事を選んだ子供に、マッチの火を渡す事は難しい]


貴方自分で望みに気づいてないのね――″可哀想″な子


[私はそう呟き、吐息を零した]


[痛みに歪んだ顔を見る。]

大丈夫? ケイト
車椅子も無しに…動いたのは酷使し過ぎじゃないかい?

[ケイトが巡らせているか、メルヤにわかる筈もなく。
ただ労りの声を掛けた。]



[呆れたような視線をぶつけられれば、やや怯むように距離を取る。
”呼んで”しまったためか、また寒々しさを覚えたせいもあった。]


(けど。君に対してはいつもと変わらない筈なんだよ。ケイト。)

[おそらく、トレイルに対しての態度が奇怪なせいか、彼女にも普段通りに接していないように思われたのだろうか。
事実は、わからない。受け取り手が、すべてなのかもしれない。]


そうだね。……寒いよ。

[もう少しだけ。引きづる出すように。
瞳を閉じれば浮かび上がる。冬の夜空に丸くなった子どもに触れる。すり抜けて、メルヤの元には戻らない幼い自分。]

僕は手品師紛いで道化師じゃないんだけど
昨日は人間らしいと言って、今日はマリオ・ネットかい?

[メルヤは取り繕っていない。奇妙なぐらいに何時も通りにしか、振る舞えない。
心が、揺さぶられないからだ。

”家族”に対する思慮、心配、悲哀。そういった類のものじゃない。あの幼い子どもに象られた子どもは、置き去りにされているごく”一部の心”は――人に影響されないものだ。]


特別というよりも……。

[言葉を、留めてくれたのは助かった。
 その答は凍ってかじかんでいる、心に置いてしまっていることだ。

いくら呼び掛けても振り向こうともしない。人間は、自分のことすら儘ならないものなのだろう、と気付く。]

……言って置くけど僕は君より年上なんだよ?
せめて”可哀想”な人にして欲しいな。


[否定も肯定もしなかった。
例え的外れであっても、”今さら”だ。

トレイルに、彼に。特別になりたいとか。思ったことなどなかったのは確かだ。
関係性に名が、付くことの方を厭うた。

積もり積もった腐れ縁と、呼ぶには他にも先に患者が会っているのに比喩としてはおかしいけれど。どこかで互いに。奇妙に縁が絡んでしまったと思っていたかもしれない。

今となっては、わからない――。]


私は大丈夫。なんてことはないわよ
……だってあのおたんこなす引っ張ってくるのに
車椅子が邪魔だったんですもの

それに此処に来るまで私は歩いていたのよ?
どうということはない

[労わる言葉に、大丈夫と言わんばかりにそう告げるも
ひるむ様に距離をとる姿に、瞳で苦笑い]


[いつもと変わりない筈と、そう思っている事自体が違うのだと
彼が気付くのは何時だろう
トレイルへの態度の奇怪さもさることながら――……否、これ以上は止そう
結局、受け取り手がどう思うかによって感じ方とは違うのだ]


寒いなら上着を着たほうがいいわ
幻ではなく″現実″に寒さを感じているのなら


[私では冬空の下の子に触れられない
存在を知らないから其れにすら思い至らない
きっとそれが、他者の記憶を留めようと睥睨していた代償なのだろう]


どちらにせよ一緒よ、手品的な意味では
だって昨日の貴方と今日の貴方、違いすぎるんですもの
まるで心の一部を何処かに置き忘れた様よ

[言いえて、妙か]


[探しても見つからぬ迷子の子の様に
人とは惑うものなのだろう。心も、きっとそう
合縁奇縁、絡み合うえにしは時として人の感情の琴線を揺さ振る]

あら、私から見れば貴方は十分子供っぽいけれどね
年齢と関係なく

[肯定も否定もしないことからああ、剥離が凄いなとは思った
心の一部分か大部分か全てか。よくはわからねど昨日感じた彼の輝きは無い

憶えることを信条にしている彼が、切り捨てるなんて
なんて、皮肉なことなんでしょうね]


……貴方はこれからどうするつもり?
私は、自室に戻って――歩行訓練でもしようと思ってるの

[空の絵、彼の隣で空を見上げている絵
あの景色を再現したい
その為には、沈んでばかりもいられない

病状を少しでも遅らせる為に。自分にできる限りの事をしたい
花よりも強く咲き誇るために*]


おたんこなすはいいね。

[余りいじめないでやってよ。などと言葉は喉奥へと引っ込めた。
 おそらくそれは、本当ならば口にする筈がない。]

そうだけどね。…あまり関節を酷使するのは良くないよ。
あと、冷やすのもかな。

[どうやら、近くの相手にまで影響があるらしい。
 おそらく体に障る凍える雪の寒さが、固い透明な鱗から発しているのだろう。]


[の豊かな情感を秘めた瞳が、告げたいことがうっすらとわかるような気がした。
 メルヤが剥離しつつある”心”の一部は、彼女達に奇異に映るのだろうか。]



そうだね。ケイト

[身震いを起こす。季節にそぐわず、手がかじかんでいるようだ。
細かい作業が出来そうに無いが、少しやりたいことがある。]


[真冬の空で蹲る。あの幼い自分自身は、自分のいうことな聞きやしない――。]


…そっか。そんなに違うんなら。
何とかした方が、いいのかな?

君の想像力は豊かだね。

[少しの悪戯めいた笑みを含めたのは、誤魔化しだったのか。的が当たっていたためか。]


女性から見れば男なんて子どもだってことだろうね。
仕方無いか。


[ケイトに、これ以上の深入りをさせるつもりは無かった。
メルヤにとってケイトの存在が軽いのではなく、少しでも傷付かないために。

薄々と勘付いているが、こんな奇怪な現象の深層になど辿り着かなければいいとメルヤは思う。]

……僕は。
少しトレイルの部屋で休むよ。

ちょっと体力的に限界がね。

[勝手知ったる何とやら、と言った風情でトレイルの寝台に腰を下ろす。

トレイル達の部屋とメルヤの部屋は少し遠い。筋弛緩剤を投与されていないが体は凍え、治療もろくに受けていない傷がどうなっているかは知れない。

少し、休みたいな。――そう、再び告げて、ベッドに横になる]


ケイト。
無理、し過ぎないように……ね。

[歩行練習をすると、勝ち気な瞳。告げた言葉は、どこまでもケイトを案じるものだ
彼女は部屋を辞去しただろうか?

その言葉の直後に。横になって意識を手放した、メルヤにはわからなかった*]


メモを貼った。


メモを貼った。


ふふ、貴方の大切な子をこれ以上虐める気はないわよ

[揶揄を1つだけ落とせば...はこれ以上何も云わないと肩をすくめた
彼の忠告した事には、気をつけるわと告げるものの
...は忠告を聞くつもりは微塵もなかったのであった
無理をしてでも抗うと、決めたから

心を剥離するというのは、他者から見て奇異に映るものだ
多かれ少なかれ、その人が持つ本来の多様性を排除しているからだろう

それは多分、記憶を何も零す事がないようにと
自分が気を張り詰めていたからかもしれない]


[身震いをする彼に、差し出すブランケットがないのが酷くもどかしい]

さぁね。其れを決めるのは貴方自身
私は神様じゃないし母親でもないから貴方にこうした方がいいというアドバイスは
正直、できかねる
とはいえ私の一意見としては
――捨てるのは簡単でも、拾うのは難しいわと

想像力に関しては私、文学少女でしたもの

[悪戯めいた笑みを見れば、表情筋動かして精一杯口角をあげた]


あら、男からみても女の子は夢見る少女の時もある
若しくは母の様に力強い時もある
人次第、受け取り手次第

[彼がこれ以上立ち入らせないようにしている様子はわかった
だから私は、その線引きを受け入れ其れ以上は踏み込まない

無暗に暴く事が、その人のためになるわけではないから

無理をしすぎるなと言った直後に寝台に突っ伏した彼はそのまま夢の中]


無理をしてるのは貴方じゃないの、まったくもう

[車椅子を操り、...は毛布をそっと彼にかける
そのままその部屋を辞して向かうのは自分の部屋

殺風景な部屋。でも其処には手すりがある
″歩行訓練用の手すり″が
それが...にとっては此処が終末病棟(ホスピス)ではなく
回復病棟(リハビリテーション)であるとそう思える僅かな希望の残渣であった]


――私、諦めないわ
見ててキルロイ。みてて、皆
私は、だれよりも、自由になる。なってみせる

[手すりをとれば再開する、両の脚で歩く事
滲む汗すら気合いで飛ばし
私はあるく、あるく、あるく

いつか病棟を抜け出して、貴方に会いに行く
貴方の絵に描かれている様な青い空を見に行くの
その願いをかなえる為には安楽にしてなんて、いられない]

貴方に、あいたい

[願いは唯、其れだけ*]


―夢と幻と現の境―

Thou'lt come no more;
《もうおまえは戻っては来ない》

Never, never, never, never, never.
《二度と、二度と、二度と、二度と、二度と》


 意識を手放せば此処に訪れるであろうと思っていた情景とは違った。

ありふれた日常の中。”連れて行かれた”みんなの幸せそうな光景。いつも幻に見る人達。
内に秘めた悲哀。慟哭。未練。特別な相手の傷跡になりたくなかった人が、時折。ほんの時折、僕にだけ遺していったもの。

 悲しかったのだろう。辛かったのだろう。同調程度で共感ではなくとも、最後の心を零したことで少しでも救われたならと、祈っていた。

 誰の特別になるでもなく、誰かの特別になるでもなく――。

 その立ち位置を自ら望んだ。気付いていても気付かぬ振り。不干渉。誰にも踏み込まず踏み込ませない。


―夢と幻と現の境―

 伝えたい。
 伝えたくない。
 だけどどこかに遺して置きたい。
 その想いを伝えるのに、僕は打って付けの人材だったのだろう。

 けれども、僕もひとりの人間で。
 僕にだけ打ち明けたひと達。その全てを抱え込む。



 日に幾度も記憶を鮮明に蘇らせ、潰されそうになるような気持ちに駆られることもあった。


―夢と幻と現の境―

想いは、重みだ。重く圧し掛かるものを、捨てきれず。そっと僕にだけ遺していったものを、誰かに伝えることはその想いを踏みにじるも同然であったため口には出来ない。

 彼女の、彼の、運命に人知れず憂いを憶えれば胸に遺った想いがまた蘇る。
 そうして僕は思い出す。

 他には誰もいない食堂の斜め向かい。夜の中庭。静寂が支配する、部屋の中。
 僕は何も言わなかった。ただそこに居た。そこに彼がいたのは、何故だったのだろう。

 気付いていたのだろうね。君は。どんな時でも突っ伏して顔を隠していた僕に、時折気紛れに頭を撫でる。

 声をあげて泣くことこそ、無かった。顔をあげないまま、ただ静かに涙する。


 どちらも言葉は交わさなかったように思う。


―夢と幻と現の境―

 まるで映写機のフィルムをまわすように、突然目の前の光景が変わった。


――中庭の樹の下で、幼い子どもが蹲って泣いている。
 思えばこの頃から泣き方は変わっていないのだろう。我ながら可愛げがない。

「いい加減寒いから……こっちに来てくれないかな?」

 頭の上にまで雪を積もってきている。幼い自分自身に声を掛ける。現実に厚着をしても、幼い自分がここで蹲ったままでは何の意味も成さないだろう。

――”……ネイサン”

 自分の存在などまるっきり入ってないかのように、慕っていたピエロの彼の名を呼ぶ。その死を知った衝撃で、《幻》に囚われてしまった。弱さに付け込まれた。
 そうは知っても、そこまでわかっても。自分の心を持て余す。いつも、どうやって宥めていただろうか。

「彼は死んだんだよ。でも、僕は生きている。どうしようもないことに。……そこで泣いていたって」

 ぽつり。蹲ったままの筈の幼い自分の聲は、内側から響くように明瞭にきこえる。


―夢と幻と現の境―

”ぼくが、ワガママいってるんじゃない。”僕”がぼくを受け入れてくれないから、ここにいるのに”

 突き付けられた真実に、視界が歪んだ。《幻》に取り込まれたと思い込もうとしていたその心は、違う。
 幻覚症状が内に広がりそれを利用して、置き去りにした。――深層意識の無意識で必要のない”心”を殺すため。


 おそるおそる。触れた子どもは冷え切っていた。触れた先から溢れ出たのは、切り捨てようとした心の部分の激情。

 おのれ自身への呻き、悲しみ、嘆きの心を、殺すべく貫いたのだ。

 その奥にはおのれが抱くかすかな切なさ。空っぽだった望みを置く場所。僅かな未練。幼い自分が象徴しているのは、そういった自らへの感情。

(……ああ)

 道理で、と思う。道理で思い通りにならない。おのれの感情ほど儘ならないものはない。
 小さく小さく蹲ったままの子どもが、かすかに名を呼ぶ。

 その名を耳にして、ひどく冷ややかなものに支配された。


―夢と幻と現の境―

僕は”きみ(ココロ)”よりも誰かの望みの方が大事だ。


中庭に、池があったなら放り込んだだろう。
無感情に。自らを労るような想いはすべて、この幼い姿をした自分の中だから。

容赦もなく、投げ捨てただろう。

――でもそのことで。
誰かが傷付くのを見るのは嫌だな、という躊躇いが生じる。

             言葉通り

  文字通り
          自らに対する心はそこにしか無いから


――僕のことなど、どうでも良かった。


―トレイルの部屋―

[寝起きはやはり最悪だった。真冬の夜に置き去りにしてきたままだから、凍えるような体温も戻らない。
ふるり。体を震わせれば頭を振った。

おのれ自身の心ほど、儘ならないものはない。殺そうとして、でも死にたくない。剥離しかけているのか背反している。]

タルト…の、様子を見に行かなきゃ。

[節々が痛い。寒気というには生易しい凍えそうな冷気を感じる。ろくに治療を受けていない背と、擦りむけた手。
 メルヤはおのれの怪我を確かめながらも、脳裏の奥に追いやった。

トレイルの部屋で、手品に使えそうなものを物色する。花を毟るわけにはさすがにいかないだろう。ティッシュで小さな花を作るのせいぜいだった。
ノートの切れ端を使っての紙吹雪も白一色ではやや味気ないが材料不足だ]


[手にしていたノートの、使われていないページで封筒を作る。その中にメルヤとナナオの部屋の場所を記した1階の見取り図を入れる。

ふと。裏表紙を捲る。

『誰が忘れてしまっても
              私だけは忘れない。』

 これは自分が持つべきものではなかった、気がする。あの日、シーシャはゴミと言っていたから処分するつもりだったのだろう。

今頃、彼はどうしているのか。思いも寄らない。

ただ。溢れるような繊細な想いが、胸を打つ。寒々しさが増したのは、何故だったのかはわからないままだった*]


[『部屋から出れば、きっと会えるよ』――そうしたメッセージと共に、仕掛けの封筒を作った。


もうひとつ思い至って、仕掛けの入った封筒を作る。使うかどうかは、後で判断すればいい。
メッセージカードにはたった一言だけ添えて。

二通の封筒を持ち歩く。

起き上がろうとし、金属質な鎖の音がして――手錠と足枷の存在を想いだした。

タルトに見せるものでもない。そう思い、トレイルの部屋に投げ捨てた

節々の痛みに顔を歪める。シーシャに貰った鎮痛剤を無造作に3錠ほど取り出し早朝と同じように水も無く飲み干す。

がリッ。間違えて錠剤を噛んだ時、苦味が口の中に広がった*]


メモを貼った。


メモを貼った。


メモを貼った。


[時間がたつのは早い

私の一歩は、皆の数歩分
歩く、あるく、あるく――曲がる事を忘れたかのような関節
きしりきしりと音をたてる其れは、軋みを訴える

転倒しても、私は立ち上がる
涙を零すのは、次は彼と″隔離施設の外″で出会ってからと決めた
泣いている暇があれば1歩、1歩前に進め

私は諦めない
二度と、彼の手を離しはしない
また、彼と共に空を見たいから]


あき、らめてたまるか……!
私は、会いたい。あなたにあいたい


[もう一度、貴方の瞳に花が咲く姿を、みたいから]


キルロイ――キルロイ……ッ


[貴方を呼ぶ声、届くかしら*]


―トレイルの部屋→タルトの部屋―

タルト、起きてるかい?

[数度のノックをする。
その後すぐに、タルトの部屋に仕掛けのしてある手紙を持ってきた。

 開くと紙が膨らんで。ぽんっと警戒な音とともに紙吹雪とティッシュで作った白く小さな花が舞う。
)メッセージ付きの見取り図を入れたものだ。


彼女はまだ眠っていただろうか?


起きていたなら、言葉を交わしただろう*]


メモを貼った。


メモを貼った。


―どこかの空室―

[タルトはどうやらまだ眠っているようだった。
痛みも寒さも臨界点をとうに超えている。

病の症状すらも利用し、おのれの心を殺そうとして。でも殺しきれない。
結果自らを痛めつけている状態になっている。]


……しぶといな。

[低く呟く声音は、冷酷さを帯びていた。

早朝から怪我をしてから動きすぎた。
部屋に戻る気力が、残っていない。

どことも知れぬ空室に背を凭れる。ずるり。這うように、尻餅をついた。

次に目を閉じれば、どうなっているのだろうか。幻に取り込まれて凍死という場合もあったが、強烈な眠気には抗えなかった。]


(――…せめて(
君が零した最後の望みを叶えるよ。

      初めまして は 口にしない。

落としたところ。上手に立ち回れなくて、ほとんどのもの”落とした”ところを見らない。
最後まで、見届けるよ。


心を、殺してでも。君の望みに添いたかった。)

[届けなかった二通目の封筒。中には素っ気無いメッセージ。]


[君の手はいつだって――暖かいよ]


[救いのない、救われようがない、この箱庭で。
 何の衒いもなく慕って懐いたのはピエロの彼だったけれど。

あの真冬の空の下。風花が舞い、白に埋もれて消えてしまいたかった僕を

救ったのは、君だった。


気紛れでも、繕いでも、身勝手でも、どうとでも良かった。
  どうでも良かった。
   どんな風に思われていようが、どうでも良かった。


  だって。
             君は、知らない。]


[――…報われない幸せを、知らない。]


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