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「あんたも弾いてみる?」
[ギターの音に紛れても、彼の耳には届いていたらしい。
少し迷いながら、困ったように笑い、問いを返す。]
可能であれば、是非。
ただ、
……右手だけで弾ける曲はあるかな?
僕の左手は、今はもう、動かせないから。
ここまで生やす前にお願いすべきだったな……
[――久々に。
ほんの少し、後悔した。
新しいものに触れることは、好きだった。
今までにない経験。発見。喜び。
楽器を演奏することも、嗚呼、きっと楽しいに違いない。
けれど、もうそれは叶わない。
この左手は、"彼ら"の為に捧げたのだから。
心と身体を失うことも、忘れゆくことも、
全て受け入れた上での選択。
花を愛で、ここで育てることを後悔したことはないけれど、
……こうなる前にもう少し、もう少し。]
――少しくらいなら。
まだ、中指くらいは動かせるかもしれない。左手も。
簡単な和音でいい。
…教えてもらえるかい?
[完全に、花に変わる前に。
楽しげな笑顔に後押しされて、珍しく。]*
―鳥籠の中で―
[白い風に乗って。
勿忘草の元を離れ、ふらり、ふらり。
天高く昇る陽に誘われて、また外へ。]
[中庭で会話する、二人の妖精。
やがて去りゆく金色を見送って、
――留まったのは紅の君。
何かを探す素振り薔薇に、風が、花々が語りかける。
"――見つけて。"
"―――見つけて。"
"―――そこに、いるから。"
"君の傍に"
"すぐそこに、いるから―――"
[蝶は想う。
紫の花に込められた願いを。
藍の花に込められた幸せを。
白いレースが隠した色が、
――彼女の喜びと為らんことを。]
[深まる紅の香りが誘うから。
白雪の如く舞う花弁に紛れ、そっとその背に留まろう。
――見えなくていい。今は。
ただ、そっと見守りたいだけ。"彼女"の選択を。]**
─自室─
[中庭から香る夕陽色の花。
窓からひらりと舞い遊ぶ蝶から伝えられるは、一つの物語。
口吻から紡がれる旋律は、斜陽に溶け込むフードを身に纏った青年の姿を朧気ではあるけれど浮かび上がらせて。
彼が“約束”を果たそうとしてくれたこと。
そのことを刹那の間ではあるけれど、確かに花は受け取った。]
(…ああ、結局共に奏でることは叶わなかったけれど)
[こうして戯れている間は、不思議と音の世界に溺れているような、そんな心地良い感覚に花は揺れる。
それはきっと、鱗粉と共に蝶が離れてしまうその時まで。
受け取った花粉に紛れるよう奏でるのは、星の砂を掻き集めたような、夜半に似合う子守唄。
暫しの眠りと共に、新たな生を育むために。
揺蕩う中、朝の空に溶け込むように勿忘草は。
希望を宿してふわりと、小さな音を立てて揺れた。]*
─回想・夢見鳥─
[振り返った先。
見慣れた“先生”の顔に目元が強張る。
随分と花に詳しいと記憶に刻み付けていた彼のことだ。
花を無碍に扱っていれば小言の一つでも頂戴してしまうかもしれない。
なんて、失礼な在意は唇から転び出た呟きに薄れてしまうのだけど。
……楽しいよ。
俺には、これしかもう無いから。
[部屋に乱雑に置かれた紙面。
おたまじゃくしと記号が六本線に綴られたやや草臥れた譜面に、視線を落としながら呟く。]
[日々抜け落ちていく記憶と共に、滑る指。
朝を繰り返す度に拙く惑う指に気付いてはいつつも、弾かぬ。そんな選択肢は無く。]
…弾いてると、まだ忘れずにいられる。……なんて。
[たくさんの音が奏でられる室内で、苦笑をひとつ。
問いかけに対して浮かべられた笑みは、少し迷う素振りを滲ませた後で
彩られた花びらを宿した左手を見やっては、僅かな時間、瞳を伏せた。
綻ぶ花の数だけ、花は色めき揺れているのだろうけど。
それは彼の記憶と身体を媒介にしているのだと、知っていたから。]
[だから、少しだけ言葉を選ぶように口を開かせる。
いち、にい、さん。
有した時間は3秒。顔を上げて、真っ直ぐと見つめる。]
…あるよ。
[中指を一つ、弦に触れさせて。
ピックではなく指で弾くように右手で弦を摘び音を奏で、首を傾げる。]
……せっかくだから、あんたと曲を作ってみるのもいいかもね。
音が足りないのなら、歌えばいい。
[口遊む声はどこか調子外れであるから、誤魔化すようにストラップを外しながら、隣を指差し彼を傍らへ促そうと。]
…勿論、喜んで。
[零された言葉には、瞬きを数度すれど、やがては破顔したような。
花が綻んだような笑みを向けて。
新しい旋律を紡ごうと、指を滑らせたのだっけ。]**
【人】 対面販売 クリスマス[『行くッ!』 (56) 2014/09/12(Fri) 09時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス はい。これ、持っててね。 (57) 2014/09/12(Fri) 09時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス[彼が着替えると言わなければ、そのまま行ってしまおうと。 (58) 2014/09/12(Fri) 09時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス[建物を囲む壁は、患者が訳も分からず外へ出てしまうことを防ぐこと、あるいは不審者が侵入することを目的としてはいるものの、患者の本気の脱走を防ぐことは想定されていない。 (59) 2014/09/12(Fri) 09時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス[まるで慣れた作業の様に、瞬く間にロープを結びなおす手>>61を、少し目を丸くして見つめ。 (63) 2014/09/12(Fri) 20時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス せーの! (64) 2014/09/12(Fri) 20時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス[呼ばう声に振り返れば、彼は素敵な提案をしてくれる。] (65) 2014/09/12(Fri) 20時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス――… (66) 2014/09/12(Fri) 20時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス ねーぇ、シーシャさん。 (67) 2014/09/12(Fri) 20時半頃 |
─回想─
[手前の椅子が小さく軋む。
見上げた先、褐色の青年を映す。]
…やってた、かも。
[不明瞭に答えてはまたすぐスープの入った皿に視線を落とす。
揺れる波紋と、花。]
まあ、今は音が鳴らないんだけど。
[弦を弾けどシャリシャリとした小さな音しか紡げぬギター。
自分はよくそれを弾いていた、筈で。]
アンプ…だっけ。備品室にあればいいけど。
……行くなら俺も行きたい。
[確かそんな名前の機材と繋げば音が拾えた筈。誘いには頷いて。
約束なんて大して信じていなかった彼は、軽い様子で一匙啜り。
“でも今度って、大抵無くなるもんだよ”そんな冗談を一つ、下手くそな笑みを添えて。
そしてようやっと目の前に腰を降ろす青年の瞳を覗き込む。]
俺はサミュエル。
…あんたは?
……もしかして、アコーディオンの人?
[湯冷めするスープなどお構いなしに問いかけたのだった。
彼の問いに青年はどのように答えたのだっけ。
朧気な記憶の中、揺蕩う意識と共に少しの間、思考する。
それは蝶が囁く前の話]*
メモを貼った。
[花になる、その一瞬前。
確かに誰か
「おやすみ」
そう言ってくれた気がした。]
[風船のように陽気な色をした花は、静かに過去を夢見ている。
音が消えて行くアコーディオン。
約束を果たす為に走った備品室と。
最後に交わした、歌い続けるという約束。
彼と交わした曖昧で、果たせなかった約束。
–––––––ギターの音が聞こえる。
夏の日差しを割るような、響き。
出来れば…共に……
そっと、錆びた弦の上を撫でる。]
【人】 対面販売 クリスマス[こんなに簡単なことだったのか、と拍子抜けしたような調子の彼に>>68。] (75) 2014/09/12(Fri) 23時半頃 |
【人】 対面販売 クリスマス[帰ろう、と手を引く彼に、大人しく着いて行きながら。 (76) 2014/09/12(Fri) 23時半頃 |
【人】 対面販売 クリスマス[その日の深夜…ひどく、穏やかな気分で彼女は、一人廊下を歩く。 (85) 2014/09/13(Sat) 00時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス[それは、彼女がずっとずっと、望み続けた物だった。 (86) 2014/09/13(Sat) 00時頃 |
【人】 対面販売 クリスマス 私、今、幸せよ! (87) 2014/09/13(Sat) 00時頃 |
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