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【人】 子守り 日向―少し後・1階玄関― (18) 2011/05/20(Fri) 00時半頃 |
[いつのことだったか。
ふいに、閃光と激しい音……雷が訪れた気がした。]
わ……!
[目を瞑る。かたく、瞑る。
哲人と繋いでいた指に、意識が、寄る。
……暫くして、訪れた静寂。
気が付けば、あまりにも静かすぎた。
そっと、目を開けると……]
……え、?
―ほんの僅かな、その一瞬―
[雨が、ざあざあとまた急に強くなったように思えて、別荘内を真白な光が包む。
間を空けることなく、唸るような低い轟音。
ガラス食器を勢い良く叩き割る音に似た破壊音に、思わず目を伏せる。]
[それから、目を開けて、見たもの、は。
今さっき自分がいた場所となんら変りないのに、自分たち以外誰もいない、空間。]
……どういう、ことだよ。
[大須が消えた、どころの騒ぎではない。他に、誰も、いない。
思わず、確かめるように繋ぐ手を握り返す。]
……あれ、皆。
[辺りを見回せば、先ほどまで共にいた面々の姿はまるで見えない。
ただ、傍に哲人の姿だけはあって……。
繋いでいた手を握る力が強くなって……そっと、自分からも力を籠めた。]
解ら、ない。
皆、いなくなってる。
[内装はそれまでの別荘とよく似ていたものだったから、自分たちが別の場所に連れて行かれた、とは考えていなかった。]
……とりあえず、探そう。
ん、探す、けど。
[声がする気配のほうが、少ない。ざあざあと降る雨の音に、全てかき消されてしまう程度。]
お前、歩きまわらせたく、ねえな。
[どうするか、と思案して、蓮端をそっと見上げる。]
え……?
[歩き回らせたくない、という言葉に、瞬いた。
瞬いて……そうだった、と思い出した。
短い間に、辛いことや嬉しいことがいっぺんにあり過ぎて。
本当の意味で熱に浮かれた身体だったことを、忘れてしまう程だった。]
……でも、じゃあ、テツが一人で探しに行く訳?
[そっと見下ろす瞳には、そんな訳ないだろう、という色も滲んでいた。]
俺が一人で探しに行く、か。
お前が多少でも回復するまで待機か、だな。
[疑問浮かべて瞬くのには、苦笑してため息を一つ。
繋いだ手が、まだ蓮端のほうがより熱いのに、そう案を出す。
見下ろす瞳には、少し困ったような表情も見せたけれど。]
……じゃあ、少しだけ、休ませて。
さっきまで、何だかんだで寝ちゃってたし……。
ちょっと横になれば、いけると思うから。
[回復するまで待機、の方に是を返した。
「離せねえ」のは自分もだ……と思えて、困ったような哲人の顔にまた、淡い苦笑いを返したりもした。]
……で、部屋、は……あっち、だっけ?
ん、わかった。
[素直に休む、というのに、頷く。]
まあ、部屋は他にもあるわけだし。休み休みでも探しゃ、いいよな。
[そんな言葉のあとに部屋を問われれば、二つの部屋に視線を送った。]
……どっちの?
[なんて、少しいたずらに笑う。]
[皆、どこかに居る。絶対居る。
だから、大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら、休み休みでも、という言葉に頷きを返した。]
……って、え。
[そんな中で返された選択肢。
その笑みの形に、つい思わず弱ったように目を逸らして。
そして、それぞれの扉を暫く眺めて……瞬いて、それから]
あっちの。
[直感で、左の扉を、繋いでいないまま握りしめた拳で指した。]
メモを貼った。
[瞬いた訳は……。
皆の姿が無くなる前まで見ていた筈の扉と少し違う、と気づいたから。
古いものなのか、ドアノブは少し塗装が剥げているようにも見えて。
扉自体も、なんとなくどこか思い印象を持っているように感じられた。]
……行こ。
[だから、少し首を傾げたりもしながら、扉の方へと足を向け始めた。]
大胆。
[くつりと、喉をならして笑う。
どっちの、と見たのは自室と、蓮端の部屋とで。
階段から二階を仰ぎ見て、より左の方となれば、手前より奥の。]
ま、本気で俺の部屋のほうがいいってんなら止めないけど。
来る、か?
メモを貼った。
[そんな、どこかうわついた―きっとこの手に感じる温もりのせいだ―気分でからかい半分、冗談を言ったから。
扉の違いには、気づけない。]
[言われてから、気づいた。
位置からして、そこは自分の部屋ではなかった筈なのに……。
やっぱり熱がまだ酷いのかもしれない、なんて冷静な考えもぼんやりと過りつつ。
熱っぽい頬を、更に赤らめた。]
……いいよ。来る、よ。
その、まだ、見に来たこと……も、なかったし。
[以前ならば、普通に遊びに行けたかもしれない。
今は……どうしても、この先のことがあれこれと想像されてしまって。
しどろもどろになりつつも、ただ頷いて。
そして彼の部屋の扉の前で、立ち止まった。]
[からかいと冗談の煽りが、いいよ、と受け止められてしまえば。
逆に瞬いたのはこっちだった。]
……あんま、変わんねえぞ。お前んとこより少し広いくらい。
[先程より赤らんだ頬に、熱の上がりを心配しながら。
自分も顔が熱くなる気がして、慌てて視線を逸らし自室の前まで少し歩みを早めた。]
[扉を開けても、静谷はそこにはいない。]
……そう、なの。
[少し広いくらい、と聞いてほんのちょっとだけ期待が外れたところで……目を逸らされた。
ちらっと顔色を覗いてみて……なんとなく、その色を察した。
互いにこんな真っ赤になってしまっているのが、なんとなく居た堪れないような……。
そうしているうち、着くなり部屋の中を見回した。]
いない。
……さびしい、ね。
[確かに少し広くは見えて。その分、空虚に感じた。]
じゃあ、とりあえず、横になる……。
[ベッドの前に立つまでは、繋いだ指先を離さない心算だったけれど。
その上に倒れ込んでからは、どうだったか。
目を閉じればいずれ、浅い眠りへと誘われて**]
メモを貼った。
静谷が、広い部屋がいいっつってた。
確かに広い分には不便ないけどな。
[部屋の話をするなら、意識を逸らせるとばかり昼の話をした。]
……いない、な。
[ただ、その話題の本人の不在を確認すれば首を横に振って。どこかにはいるのだろうとその場で慌てることはしなかったが。]
[横になる、とベッドに蓮端の身体が倒れ込めば、それを見やって。
それから、だいぶ自分も消耗していることに、ようやく自覚が沸いた。
数刻前から、疲れた、だの言っていたが。
昼から結局何も口にしていないし、走り回って、濡れて。
それこそ、自分の方が倒れてしまいそう、だった。]
……な。
ちょっとだけ、俺も……
[いいか、と問う前に。
本能に負けた身体が、蓮端の隣に寄り添って。
抱きあうように、ひとつのベッドで眠りについた。
浅い眠りに引き込まれる蓮端とは逆に、こちらは深く、遠く――**]
メモを貼った。
【人】 子守り 日向―2階浴室― (85) 2011/05/20(Fri) 11時頃 |
【人】 子守り 日向[ 何かを伝え終わると、女の姿はすっと霞のように消えた ] (86) 2011/05/20(Fri) 11時頃 |
[うつらうつらとしていたところで、俺も、と聞こえてきて。
やがて間近に感じる、寄り添う熱。
瞼を開けずとも、そこに居るのが誰なのかは解る。
けれど照れるとかそういうのではなくて……ただ、暖かくて安心できて。
抱き合うような形で。そっと、哲人の肩に腕を回した。
触れても、目を覚ます気配はなくて……。
彼も本当にひどく疲れてたんだ、と察した。
……今、この人に歩き回らせなくて良かった、と思った。]
ごめん。
[深い眠りに就いている相手には届かないだろう声量で、小さく呟いた。
ちゃんと気づくことができてなかったまま、ぎゅっとしてだの何だの子供みたいに強請っていたことを恥じた。
「あとでな」とあの時伝えられた訳は、周りの視線があったから、だとは思うけれど。
そう、皆で食べに行こうとしていたお昼ご飯も結局まだのまま。
調音や成人が作ってくれたカレーとか、焼きそばとか……。
この場所にはそれらが無いことも知らないまま、ただぼんやりと思い描いていた。]
[此処に来るまでに哲人が話していた、悠里のこと。
広い部屋がいい、と言っていたという彼。
その話を聞いた時は、そうなんだ、と軽く頷く位だったけれど。]
……ユリにお礼、言ってなかったな。
[ふたつのホットミルクのマグのこと。
思い出されて、小さく零した。]
[その時夢うつつだったものだから、その音に気付かなかった。]
[ひた]
[ひた]
[それは雨音に交じり微かに響く、人の足音。
そして足音は、扉の前まで来て、止まった**]
メモを貼った。
[呼びかける声。扉の外から、響いてくる。
「おきゃくさま……」
「ごゆうしょく の、したくが……」
「かつきさま も おいで、で……」
……聞こえてはきたけれど、まだ浅い眠りの中に居たものだから。
夢の中でだけ、なんとなく呼び声に応じた気になってしまっていた。
きっと目が覚めた瞬間に忘れてしまうような夢の中で。]
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
―自室らしき部屋―
[肩に回される腕も、謝る声も、眠りを妨げるには至らない。
消耗もあったし、安堵もあった。とかく疲れていたし、蓮端が最低でも傍にいること。規則的な呼吸音だけさせて、ただ、ただ、静かに眠っていただろう。
はじめの、うちは。]
[そのうち深い眠りは、知らぬ世界の夢を呼び起こした。
この屋敷の、野薔薇の絡むトンネル。まだ踏み入ってもいないそこに、自分は立っていた。
甘い薔薇の香り。濃いけれど、まだ青い茂りの瑞々しさも残すそれは、野薔薇特有のものなのだろう。
花に詳しくない自分はよく知らないが、きっとそうなのだと思った。
そして、そう思うからこそこれが夢だとも思った。
晴れた庭。知らない香り。薔薇咲くトンネル。そこに立っていて。
その、野いばらの蔓に、絡めとられる。
息苦しくて、呼吸が浅くなる。
手を、伸ばして、そこにあるものを、つかむ。]
[つかんだものは、何だっただろう。温かくて、近くにある、もの。
悪夢に魘されるように、すぐ傍らの蓮端の身体に縋りつく。
苦しげに、強く、目の前の細い身体に力をこめた。]
[ふと、意識にはっきりとしたものが戻った。
それは緩やかに寄り添っていたところだったのが……急に、強く縋られたためだった。]
テ、ツ?
[瞼を開いた。苦しげな哲人の姿が判った。
思わず、瞬いてしまった。
いつかのあの時、おれは哲人に繋ぎとめて貰いたくて、ぎゅっとして、と願った。
けれど今は逆に、彼の方から求められているような……。]
……テツ、大丈夫。
[だから、肩に回していた方の手で、その背中を、緩く擦った。
握っていた甘味の袋が、掌から零れてベッドの下に落ちた。]
大丈夫……おれ、ここにいるよ。
う、ぁ……
[小さく呻いて、は、と荒く息を吐いて。
背中に触れる感覚に、意識が覚醒する。
目を見開いて、肩で息をして、しばらく、そのままで。]
[それからもう一度、ぎゅう、と強く縋った。
行くな、ではなくて、いる。その確認に似た、体温の絡め合い。]
【人】 子守り 日向[ ――そんな楓馬の少し先 ] (241) 2011/05/20(Fri) 23時半頃 |
[彼の目が覚めた。そう、思った。
だから、少し弱弱しくではあったけれど、笑ってみせた。
怖いことなんてないから、と示すように。
もう一度、縋られた。
今度はおれも、哲人をぎゅっとした。強く、抱き締めた。]
……だいじょう、ぶ。
[……吐く息が身体に触れる度、ぞくっとして、熱い。
もうそろそろ熱っぽいのも引いてきたと思ってたところでの、そんな感覚。
手は無意識に彼の顎の方に伸びて……顔と顔を合わせるような形になるように、軽く力を加えた。]
ゆう、き……
[力なく唇から漏れるのは、蓮端、でなく。
荒い吐息交じりのそれは、艶を帯びて、広い部屋の空気に消えていく。]
[縋りを抱き締め返されて、ようやく、少し落ち着いた。
呼吸も緩やかに規則性を取り戻し始めたところで、顎に手が触れる。
拒否する意識もない、その顔は簡単に上向くだろう。]
[名前を、呼ばれた。
前までであれば、哲人からはこのように呼ばれた覚えがなかった。
嬉しかった。嬉しくて……煽られも、した。]
テツ。
……良かった。ちょっと楽になったのかな。
[彼が落ち着いてきたところで、顎に触れたまま、その瞳を見つめた。
どきどきした。それは哲人に対しても、自分の行動に対しても。
少しの間の後、そっと、唇を寄せた。]
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