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だーってこれを見届けに来たんだろ。
俺も、あんたも。
[ ひょいと踏み出した一歩。”次の句”
僕のロングブーツと一緒に 扉が作った闇に溶ける。
どーせまた落ちるんじゃねーのとは 思っていたけど]
うっわ、可愛い耳して えげつねーのなぁ。
[茨の生け垣に すと、と降り立って
薔薇園で棘にヤられてる姫を見りゃあ、危機感というよりはこんな場所に落とした彼の趣味に感心した。
(手前にもにたよーなブツが付いてる事はあえて無視だ。)
いやまあいい。
僕はそんなことよりも、更に趣味の悪い奴が居るって事を
忘れるべきじゃなかったんだ。]
ぅげ、!!!! っは。
[真上から両肩に乗る”何か”
痛いよりも先ず衝撃に襲われて、微かに前につんのめる。
ひょい、と ”それ”は 僕の肩から軽快に跳ねて
すぐ隣に華麗に着地しやがった。]
…………………。
[怒りだとか呆れだとか色々通り越して、コメントに困る。
ぱんぱん、ぱんぱん、両肩をはたいて
肩口をちょいっと引っ張って足跡の有無を確認。
それから漸く出た言葉は ]
なー、にゃんこちゃん。お前、ともだち居ないだろ。
[そんな歳に見えねー、でけえ、と揶揄ばかりされる目を
横一文字にほっそーくして 長い尻尾をはたいてやった。]
それでも尻尾がぷらーんぷらんしてるなら、先っぽを右手でギュッ。**
[同じ場所から落下したなら、落ちるところも同じだろう。
――というわけで、李の肩を踏んで見事着地したラルフは
うげ、とか、は、とかいう兎を無視して
とんとん、とブーツの底を鳴らしている。]
同じところにつったってるアンタが悪い。
[そう言ったところ、ともだち居ないだろ、
というお小言が返って来たので肩を竦める。
数年前に裏切りましたが何か。]
[大きな瞳をうっすーく横一文字にして
こちらをねめつける様子にしれっと無視を決め込んでいたら
ぺしりと尻尾をはたかれた。
少しだけ痛いのが不思議。
続けざまに先っぽをぎゅっとされれば、]
! っ、も、う、それどこじゃないでショー
見届けるんじゃなかったんすか?
それとももっぺん耳攻められたいの?
[びくっと背筋を震わせながらも、
戦いの方を指差した。]
[鏡が罅割れる音が響く。
何が起こっているのか、
この血の香りが濃い薄暗い薔薇園では
はっきりとは見えなかったものの
アルヤスの髪がふわり、小さなランプの火のように
白金の色を取り戻すのを見た。]
――あ、 あれっ……
[ぎらり、煌めく鏢には見覚えがある。
俺の武器じゃん、と
歯噛みしたい気持ちを隠さずに
ぎゅうと、拳を握った。]
剣だせるなら俺の武器いらんだろ……! ずりィ…
[皿だの剣だのを虚空からとりだす姿を思い出しながら、
むう、とちょっとむくれた顔で言う。
そうしている間にも、白兎とアリスの会話は続く。
覚悟はできてるんだろ、という言葉
ラルフは静かに目を伏せた。**]
………そー… さ、ねぇ。
[ ”見届けるんじゃあなかったのか”
指し示すゆびの先。僕の意識はもんやりと霧がかっていて
返事は精彩を欠く。
あそこで行われてんのが僕に無関係だったなら
(なに、なに、きもちーの?)なーんて茶化したり
(黙れクソ猫噛み切るぞ!)なーんて尻尾をガブリする事も
もしかしたらあったかもしれないけれど
はぁ、と溜息ひとつ、 両膝折ってしゃがみ込む。
( なあ、ばからしーよなあ。 )
( 馬鹿らしい。馬鹿らしい。
妙な期待を半分なくなったあの肩にのっけんのも
妙な感情を白兎の変わらぬ表情の中に探すのも
とーんでもなく 野暮だ。)]
ふうん。 あれがアンタの武器なの。
[畜生勝手に使いやがって、なんて思ってんのかな と
視線と同じ高さできつく握られた拳
( もしも僕のが、って考えたら嫌な寒気した。)
猫を屠ったあいつはきっと 宣言通り大真面目で
猫の命をあの身に抱えて 白兎と戦っているんだろう。
こいつの意図とはかんけーなしに。]
………ははっ。
[ほんとーに、呆れる。 僕以上のばかなんじゃねーかって。
あいつが抱えてる荷物の多さも、重さも見えないけれど
その隙間に おマケみてーに
僕のいのちが乗っかってるんだって思ったら
馬鹿らしくて笑えてきた。
今更ひとっつ増えてたって かわんねーんだろう。]
[どこでも扉が出たと思ったら、今度は猫や鏡が出たり。
こんな奇妙な”戦い”は、はじめて見るものだけれど
眼前で交わされる 優しい殺気も
僕にとっちゃあ 初めて目にするものだった。
白兎の声も アリスの声も
殺意だけで相手を屠るものからは どこか遠くにある。
あの2人の合間に何があったのかは知らない。
それなのに
小さく けれど強く紡がれた白兎の言
救いを求める 祈りのように ――聞こえた。**]
[ふと、ベージュ色した三月兎の耳が
視界の端っこで低い位置にくるのを見た。
李の口から溜息が漏れる。
呆れたような虚ろな笑い声がやけに響く。
この男の内心などラルフは知らないが、
彼の命がアルヤスにかかっているらしいから
色々気が気ではないのだろうと考えた。
さきほどのぼやけた答からも、
李が目の前のやりとりに
集中を持っていかれていることは明白だ。
垂れ下がった耳を見ては、
硬く握った掌を解いて、
無言でその黒髪をわしゃりと撫でておいた。
ただの気紛れだ。]
[ふと、遠く遠くで
きらきらとハート型の光線が光るのが見えた。]
…………。でたらめだわ。
[そんなぼやきも風に消える。
今は演者や舞台に、
何の影響も及ぼす事はできない。
何を思ったって、何を言ったって――
見届ける事しかできない。**]
…空気ガ変ワッタナ。
[音が聞こえる訳ではない。
見えている訳でもない。
だけど英雄≪ハカタノ=シオ≫はクスクスと笑っていた。
黒い薔薇園での物語も割れた鏡も何も知らない。
だけど静かに呟くのだ。]
…吾ラノ迷子≪アリス≫ハ立派ナ女王にナッタカネ?
紅茶を飲む。
驚いてカップを投げた。全部塩になっている。**
[ふわり、立っていた耳は
目の前の光景と、僕の中でもやりとする澱んだモノのせいで
ゆっくりゆっくり垂れていって
その先端が隣で握りしめられた拳
僕はそんな事を気にもしていなかったし
あんまり意図して動かしているものじゃあねーもんだから
猫がその耳を見ていたこと
自嘲と不安と漠然とした恐怖を抱えて
ただ真っ直ぐに 真っ黒の目を遠くに投げていた。]
………っちょ、 何する、ん …だ。
[振り払うようでいて届かない、中途半端に上げた腕と
反射的に見上げた視界が 猫の真っ赤な目を捉える。
林檎
[ 糞餓鬼の声が谺する。
「まだ、あえるかもしれないのに、ね。」
あのひとの声がする。
「 」
アタマの上にある掌
本物はもっとでっかいし もっとあったけーし
間違うはずなんて、ないのだけど。
草の上に見えなくなった ホージ茶のさいごのひとくちが
今頃になって からだのなかから湧いてくるようで。]
…………やめろ。
[ 薄い膜を張った黒水晶を くしゃり、 歪めて
僕は赤い目から 逃げるように視線を逸らす。
抱えた膝にかぶさる指は 白くなるほどに
掴めない何かを 届かない何かを
引き留めようとしていた。]
[ 歪む目とは対照的に
目の前の2人を見つめ直した兎の顔は
口元だけがどこかわらっていて。
痛い時 辛い時 泣きてえ時は
笑ぃやぁ 楽になるのだと
持ち上がる口の端っこは 無意識のうち。*]
[何するんだ、という制止の声は聞かない。
振り払うには中途半端な高さで留まった腕にも、
知らん振り。
淡々と見据えた黒耀の瞳には、
自嘲と不安と漠然とした恐怖が
ぐるぐると渦を巻いて、薄い膜を張って、]
[ きっと、どこかの 俺ではない誰かを見た。 ]
[やめろ、という声がして
くる、と逃げるように視線を逸らされてから
漸く、ラルフは李から掌を離す。]
[膝を抱えて小さくなって
耳を垂れ下げて、何かに怯えて]
漸くうさちゃんっぽくなったっすね。
[そんな李に向かって、淡々と叩くのは軽口。
目を潤ませながら下手くそな微笑を浮べたから
ラルフは汚いものでも見た、というように視線を外す]
今、迷子みたいな顔してるよ
なさけねーっすねえ。成人した男が。
[視線をあげれば――
白が、赤に染まる瞬間を目撃した。]
[ああ、そうか、という諦念と、
野郎、とアルヤスに飛びかかりたい思いと
ごちゃり、と混ざり合った思いは、]
――……これで、望みどおり?
[誰に向けたものかもわからない、
問いとして零れる。
言葉は只、黒い薔薇と、
白兎が放つ濃い血の匂いにとけていった。*]
メモを貼った。
[ ( うるさい )
アタマの上から降ってくる全然軽くない軽口に
今は反論するだけの気力はなく。
相変わらず膝を抱えたままで
さっき背けた目をちら、と上げるだけ。
明らかな嫌悪を乗せた目
そんな自分から去っていって
自分も目線は「覽るべきもの」へ。]
うさぎでも 迷子でもねーやい。
[すぴ、と鼻が鳴るほどにならなかったのは
隣に猫が居たからで、
そもそもこんなザマになったのも猫のせーだけど
”なさけねー”のは100も150も承知だから、否定しない。
成人どころか30も過ぎてるって言ったのなら
「まさかぁ〜」なんて 馬鹿にされるんだろう。]
[『約束』
それが聞けねば”預かれ”ねーとでもいうような物言いに
それを受け、渋るような寸刻の後 白兎が
『名』と引き換えに握ったナイフを地に落とす。
噫、まるで 預かる命の戻し先を訊くようだ。
自身が死した後に成された名乗り
僕の体を奪っていったあの双剣は、
名をくれることはなかったな、と思い出した。]
[咳き込む兎
薄暗い中でもはっきりわかる 夥しい命の赤は
周囲の薔薇を色めき立たせる。
むせ返るような鉄の芳香は 薔薇の臭気とあいまって
あたり一面 血の海のような
あたり一面 大理石のロビーのような
僕の旧い 旧い 記憶の扉を掘り起こす。
まるで 白兎が開いた 魔法の扉のように。]
[猫の声
僕は ”悪夢”から”悪夢”へ 呼び戻される。
赤く染まった兎から目を離さぬまま]
この夢が終わってねーから
少なくとも俺の望みは叶っちゃいねーです。
[微かな安堵は確かにあれど、
まだあと何人居るのかも
アリスがあと何人の命を”預かれば ”終わりが来るのかなど
一匹の三月兎にゃわからぬこと。
絶望までの期日が伸びたような感覚ばかりが
澱みきった胸を埋める。]
[ ”アルヤス”が死ぬ傍でほくそ笑みたい
そう言っていた彼の望みはひとつ 遠のいて
そのぶん、僕の細い希望はひとつ 近付いて
それを悪いと思うよーなことは、残念さらさら無いけども]
やっぱりさ、帰りてーよなぁ。
[ぼやく声は 大きく吐いた吐息とともに。
自分にまだ「帰れる目」が残っているらしいことは
猫に対するちょっとした引け目になってることは事実で
それを紛らわすように立ち上がる。
”伸びた”と思った僕の絶望の時が
今度はいつ来るのだろうと 周囲を見渡し。
先刻までピンク色のキラッキラが舞っていたあたりが
やけに静かに *燃えていた。* ]
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
["観客の役"。振り返るその顔に微笑みを湛えながら、彼女は確かにそう言った
緩やかに揺れる漆黒の髪。妖艶なまでのその眼差しを受けながらも、その赤い唇が"蝶"の名を紡いだのなら。
覚えたのは、煮える程の嫌悪感。]
……ご心配有難い、が。
君に心配されるのは……、何故だろうな。非常に勘にさわる。
出来る事なら、二度と口にしないで頂きたい。
[向けた眼差しを僅かに鋭いものに変え、彼女の瞳の向く先――舞台へと自分もまた、目を向ける。
そうすれば舞台の上で演じるのは見知らぬ男が一人、女装した男が一人、あの時森で見たアリスと、そして――時計ウサギ。
成る程、今舞台に残っているのはこの四人と言う事だろうか。そうなれば、浮かぶのはあの時の山羊の声。
嗚呼、…そうか。彼女の言う"観客の役"というのは、即ち。]
私は、観劇が好きでね。
休みの日には色々な劇を見に行くのが趣味だった、が。
――こんなにもつまらない劇は初めてだよ。実にいい趣味をしている。
[吐き捨てるように呟いた言葉は、果たして彼女に届いただろうか。
届いたとしても、届かなかったとしても。男はもう話すことは無いとばかりに、苛立ちの篭る顔をそっと逸らしはしただろうが。]**
[そうしてまた、舞台を見つめ。
始まろうとしている戦いの予兆を眺めていれば、ふと返された声
……"知っていた"、か。
それは私としては不満なんだがね…、死に際は、誰にも見られたくはなかった。
[こんな席があると言う事は、少なくともあの"観客の役"には全てを観られていたのだろう。
嗚呼、嗚呼。何と口惜しい。
死に際の無様で惨めなその姿を、"お前"以外の誰かに見られる事があってたまるかと。
その思いだけで、壊れかけた身体をひきずり息絶えてやったというのに――それも全て、無駄だったのかと。
その事に奥歯を噛みつつも、表情には出さず。
彼が自分への招待状の話をしたのなら、"それじゃあ書かれた会場の名も読めそうにないな"、と軽口を返したりなんかして。
しかし、彼の死に際の話
……、へぇ。あの時計ウサギが?
それは意外だな、あれは誰も殺せないと思っていたよ。
[自分はあの時計ウサギの事をそう知っている訳じゃあない。
この夢で出会い、そして少し言葉を交わした程度。名も知らなければら語れるだけの情報なんて持ってはいない。
しかしそれでも、その時に話した雰囲気から。あまりそういった事とは縁のない者だという印象を受けていたものだから。
だから小さな驚きに目を見張りつつ、肩を竦めて。そして差し出されたポップコーンには、ほんの少しだけ笑って見せた。]
あぁ、頂こう。塩かキャラメルかどっちかな。
ついでに飲み物も貰いたいが……ポップコーンと言えば、コーラは無いのか。
[そうして冗談のように言葉を紡ぎ。差し出されたポップコーンを一つ摘めば、口の中へと放り込む。
嗚呼、そう言えば。"お前"と映画に行った時にも、確かポップコーンを食べたんだったかな、なんて。
先程から胸にのし掛かる、沈んだ気持ちを拭いされる事は無く。
それからはそのまま、舞台の上をぼんやりと眺めるばかり。]*
[舞台の上では、二つの戦いが繰り広げられる。
その両方を、さもつまらなさそうに見つめながら、指は自然と手にした時計の文字盤へと。
この時計は、自分の一番のお気に入りの時計。集めるのが趣味だった時計も、嗚呼今はこの一つだけあれば良いとすら思う程に。
舞台の上では、物語は既に終焉に近付いており。
時計ウサギの喉が掻き切られる様を――その時に紡がれた言葉
それを聞いたのなら、男は観客席の端っこで、自嘲気味に低く、低く嗤った。]*
……あっそ。
[まだ叶ってない、といわれて小さく相槌をうつ。
視線はどこか遠くを見ている。
只今上演中の悪夢では、焔を纏った双剣が、
遠く見える女王の体を貫いたところ。
ラルフはそっちに駆け出しそうになって
――目の前で横たわる白兎と、
未だに生きているアルヤスの姿に釘付けになって
動けず]
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