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『触るな、と、言った、はずだ』
[頬に寄せられる指先が嫌で、首を横に振る。
蜜の甘い匂いは、指が塗り込めるたびに感じられる。
絡める指と、薬の効果は確実に、少しずつ性の形を変えていった。
気分が悪くて、耐えられない。けれど思い通りになんかなりたくない。
喉に重なる歯の感覚に、微かに体が震えた]
…っ
[聞こえる宣言に、硬翠が微かに揺れる。
其れは恐怖でしかなかった。
このまま弱い火で焙られたような感覚に耐え続けながら、
一生、このままだなんてそれこそ拷問に等しいけれど]
『お前、に…頭を、下げる、くらいなら……
耐えるほう、が、ずっと、マシだ』
[相手の瞳の気配なんか、関係ない。
硬翠は、それでもまだ睨み返すことを選ぶ]
触るな、って言いながら
此処は期待してるみたいだけど?
[後ろの機具は止まらないまま。
少しずつ空間に振動音の他、水音が混じり始める。
絡めた指は確実に追い詰めていった]
怖い? まあ、そうだろうけど。
そのまま放置されたらどうなるか、教えてあげようか?
機具が外せないと排泄が出来ない
張り付いた蜜で皮膚が爛れるかもしれない。
ああ、ついでに蟲でも放置してやろうか?
身体中を蟻が這い回り蝿が飛び交うのは耐えられるかな。
此処は物音も光もとどかない。
まあ、間違いなく気が触れるね。
どれだけ御前が強情でも、24時間持てば奇蹟さ。
本屋 ベネットの喉元を歯で擽りながら、吐息交じりに残酷な未来を告げた。
───ッ
[不快感を訴えるかのように鎖が小さく鳴いた。
聞こえるのは粘質な音、それが自分の体が関わっていると解れば
余計に不快でたまらない。
耳に届くのは睦言なんてものとは程遠い不愉快な囁き。
蜂蜜は肌に塗るくらいだから心配はないが薬が入っているとなれば話は別。
排泄は、胃も空っぽだからあと二日くらいはどうにか耐えられるだろう。
虫が一番耐えられないと思った。蠅よりも蟻だ。
体を動かせば飛んでいくものとは違って這うのを落とすには労力がいる]
『……っ』
[喉元から伝わる振動に、眉をひそめたまま息を飲みこんだ。
ただでさえ薬と不快感でぼうっとする頭に、余計な事を考えさせないでほしかった]
[息を呑む気配を感じ、男は吐息を漏らした。
触れている指先には熱も伝わっていて
少しずつ思考力が曖昧になっているのは観察していればわかる。
だからこそ、脳裏に描きやすいようわざわざ声にしていた]
どうするかい?
此処も随分辛そうだね。
[滑る肉棒の先を爪で弾き、男は問う]
逆らい続けるのも、悪くないけどね。
何処かで折れる所を覚えてくれないと困るなぁ。
一言服従すれば済む話じゃない。
強情ばかり張っていても良い事は何もないよ?
[頭がぐらぐらする。
熱のこもった溜息が自然と零れた]
『うる、さい……ッ』
[爪ではじかれれば流石に表情が大きく歪んだ。
ゆっくりと息を吸って、どうにか思考力を取り返そうと足掻く]
『良い事、なんか、どちらに転んだって、
ありもしない、こと、くらい、わかっている』
[痺れ切った手を、握り締める。
意識のあるまま屈するのは己の矜持に反すること。
苛立ちは、掌に傷を作って赤を滲ませた]
[少しずつ相手が追い詰められているのは
指を絡めた其処の反応と、もれる吐息で感じている]
俺だってただ虐めたいだけじゃない。
御前にとって良い事ではないが
少しマシな待遇は用意しているんだよ?
[平静を取り戻そうとしている相手に気付くと
男は空いた手で頬を撫ぜる。
拳に滲んだ朱に気付いて片手の掌を開かせ、
指先を絡めて握りこむ]
駄目じゃないか
俺に無断で傷を付けちゃ。
[その間にも後ろを犯す細い機具も、
彼の中心を擦り上げる手も止まる事は無い]
[駆動音が、虫の羽音の用で酷く煩わしい。
頬に触れる手に硬翠は睨むけれど、ずっと弱くなってしまっている]
『…マシ。
よく、言う。物は言いよう、だろう。
どうなったって、そう、変わらんだろう、さ』
[吐いて捨てるかのように、言葉を作る。
あてにしてなどいない。信用もしていない。
その感情が、口元に嘲りの笑みを作る]
『…俺の体は、俺の、物だ。
誰の…指図も、受け、ない…ッ』
[大きく息を吸い込んで、吐き出す。
持て余した熱で上がる体温が、酷く気持ち悪い]
[此方へ向けられる視線が熱に侵されているのがわかる。
歪んだ口元を見遣り
男の声は甘くも冷えた音を漏らした]
――…先ず教えてやるよ。
[追い詰める手は止めない。
息を吸おうとする唇を塞ぐように、男は自らの薄い唇を重ねた。
強く吸い上げると同時、擦りあげていた中心を根元から握り射精に到達出来ぬように締め付ける]
Jade
未だ立場が理解出来ていないようだね。
いいかい、お姫様
御前は俺に買われて此処にいる。
御前の身体は頭の先から爪先まで全て俺の管理下にある。
俺の指図なしじゃ、この拘束すら解けないのさ。
其れでも俺が一度望みをかなえてやろうって言うのに
……イラナイんだね。
なら、俺は俺の好きなようにするけど。
[顔を上げた男が先ずこの薄暗く寒い地下室で
目に付けたのは、まだ冷えた鏝]
その生意気な口
喋れなくしてやろうか。
[薄甘い声が、聞こえた。
追い上げてくる手に、それでも、嫌で声だけはこぼさなかった。
次に口を塞がれたのを理解する。薄くて冷たい唇。
噛みついてやろうと思ったけれど、締めつける痛みによって叶わなかった。
漸くまともに吸いこんだ酸素も、薄く鉄錆の味がした。
落とされる言葉も、声も、もう半分ぐらい理解できていない。
ただ、持て余した熱と不快感だけで視線がまた少し弱くなる]
…、……?
[問いかける言葉さえ、今は口に出すのが億劫だった。
まだ体に直接響いてくる虫の羽音に煩わしさを感じながら]
『喋れ…なく……?』
[何をする気なのだろう。
自分の位置からでは、今の視界からでは、そこに何があるのか見えない]
[男は一度彼の身から離れる。
羽虫のような音は少し威力を弱めていた。
電池の切れる時間が近い。
穏やかになった動きは逆に彼へその納まっている機具の形を感じさせる事になるだろう]
そう、良い声で鳴かないなら
声はいらないだろう?
[冷えた鏝を手に、再び彼の前に立つ。
見せ付けるように、威力をなくした瞳の前へ翳してやった]
熱して御前の口に突っ込んであげる。
折角召使に用意させてるご飯が無駄になるけど、仕方ないね。
簡単に死なないように、点滴で栄養だけは送ってあげるから。
[褐色の瞳を細めて、鏝から伸びるコードをコンセントに差し込んだ。電源が入りじわじわと鉄が赤く色を変えていく]
最後にもう一度だけ聞いてあげよう。
お願いする気は、あるかい?
[男は最終宣告を突きつけた。
これでまだ折れぬなら、熱した鏝は確実に彼の咽を使い物にならなくさせる]
【人】 良家の息子 ルーカス― ルーカス客室/回想から現在に至るまで ― (113) 2010/04/06(Tue) 21時半頃 |
【人】 良家の息子 ルーカス[確かに、行為を強いてはいるが……。 (114) 2010/04/06(Tue) 21時半頃 |
【人】 良家の息子 ルーカス[唇と唇が重なろうとしていた。 (115) 2010/04/06(Tue) 21時半頃 |
【人】 良家の息子 ルーカス――さて、ね。 (116) 2010/04/06(Tue) 21時半頃 |
【人】 良家の息子 ルーカス君の準備は、私がしてあげよう。 (117) 2010/04/06(Tue) 21時半頃 |
[伝わる響きが弱くなる。まるで、焦らされているみたいだった。
これ以上、耐えられる自信はないけれど、
けれど屈するつもりがないからこそ、余計に耐えなくてはならない]
…ッ
[声。喉を潰すのだろうか。でもどうやって。
薬や何かというわけではないように思えた。
少し霞のかかった視界に、何かが映った。
金属の塊。それで、何をするのか。
そんな事を考えているよりも先に聞こえた使い方。
硬翠の瞳には嫌悪よりも先に怯えが浮かんだ]
『何───』
[虚勢を張ろうと思ったが、もう遅かった。
歯が、小さくかちりと音を立てた。震えだと解るまで時間はかからない。
ゆっくりと赤くなっていく其の熱はもう恐怖の対象でしかない]
[認めたくない。けれど、それは怖い。
その言葉を出してしまえばきっと、今目の前の恐怖からは逃れられる。
でも、屈したくない。それだけが今の自分を繋ぎとめる感情。
どれぐらい時間がかかっただろう。
後ろから聞こえてくる羽音も随分弱くなった]
『──…ッ、──』
[震える。涙が落ちる。
でも、もう、限界だった。
赦して、と。
本当に。本当に小さな、声が零れた]
さあ……どうする?
御前が俺に跪いて助けを請うなら、止めてあげても良いよ。
ああ、ごめんこの鎖の長さじゃそれは無理だね。
[じわじわと鉄芯が熱を帯びて紅く色を変えていく。
鏝を彼の目前に指し示したまま、震えだす青年を眺めていた。
ゆっくり優しく囁く声音は余計に彼の恐怖を煽ったのだろう]
―――…
[羽音はもう聞こえない。
しゃくりあげるような音に続いて
小さな声が聞こえたが]
聞こえないよ。
それに肝心な言葉が抜けている。
[首を振って、男は彼の顎に手をかけた。
まだ力は込めていないが
無理矢理に口を開かされた過去が思い出される筈]
【人】 ランタン職人 ヴェスパタイン[不意に部屋内に電話の硬質な音が響く。 (118) 2010/04/06(Tue) 22時頃 |
【人】 琴弾き 志乃― ルーカスの部屋・現在に至るまで ― (119) 2010/04/06(Tue) 22時半頃 |
【人】 琴弾き 志乃――― ちりん。 (120) 2010/04/06(Tue) 22時半頃 |
[鎖の中途半端な長さは膝をつくことも出来ない。
かけられた言葉に、今だけは縋ってしまいたくもあった。
縋ったところで楽になれるかなんて分からないけれど、でも]
『──ッ』
[やっとの思いで出した言葉も許されない。
悔しさで喉が震える。顎を捕らえられて、涙がまた落ちた]
『お願い、です』
[自分の中から、大切なものが失われて、
剥がれ落ちていくみたいだった。
幼い子供みたいに、涙が止まらなかった]
『……ごしゅじん、さま』
【人】 琴弾き 志乃[ベッドは青年の重みに小さく声を上げた。 (121) 2010/04/06(Tue) 22時半頃 |
【人】 琴弾き 志乃…っ、はぁ……んんっ! (122) 2010/04/06(Tue) 22時半頃 |
硬翠の瞳を伏せて、また掌に一つ傷を作った。
【人】 琴弾き 志乃[青年の指は、熱い軌跡を残して徐々に下へと降りて。 (123) 2010/04/06(Tue) 22時半頃 |
【人】 道化師 ネイサン―― 控え室 ―― (124) 2010/04/06(Tue) 22時半頃 |
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