197 獣ノ國
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[――嗚呼、嗚呼。彼をもしも再び、この腕の中へと迎える事が出来たのならば。
そうしたら、今度こそ。嘘偽り無く、きっと離しはしないのに。
移ろう月のように、この気持ちは決して変わったりはしない。例え彼がここに来るのが十年の後だとしても、百年の後だとしても。
この生ある限りは、焦がれに焦がれながらも彼の姿を待ち続けてやろうと。]
――……我ながら、執念じみている。
だが、余りに来ないようなら…迎えに、行ってしまいそうで怖いよ。
[クツ、と一つ喉を鳴らし、キチリと響いた指からは細い糸がたらりと垂れて。
獲物が巣に掛かるのを待つではなく、待ちきれずに獲物を追い掛けて行くなどと、何とも《蜘蛛》らしくは無いとは思いつつも――それもまた悪くない、と。]
……綺麗な月だ。
[そんな想いを胸に密かに滲ませて、男は部屋の灯りを消す。
窓に見える仄かな月の姿にあの白を重ね、愛おしいあの姿を重ね。
"嗚呼今宵の月は何と美しいのだろう"、と。
――そんな事を、思いながら。]*
ー回想•昨晩、一時過ぎー
[気がついたら銀河鉄道に乗っていた。
(…気がついてみると、さっきから、ごとごとごとごと、ジョバンニの乗っている小さな列車が走りつづけていたのでした。ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながら座すわっていたのです。)
ベネットは窓の外を見た。ああほんとうにまるで銀河鉄道の夜みたいに、ジョバンニみたいに、青白く光る銀河の岸に、銀いろのすすきがもうまるでいちめんさらさら さらさらと波を立てていたので、ここは銀河鉄道だった。
銀河ステーションもカムパネルラも、黒曜石でできたりっぱな地図もないけれど、ここは銀河鉄道だった。
銀河鉄道だった。
銀河鉄道ーーー…?
[はた、とベネットはそこで思いとどまった。そうだ自分は、黒髪の少年と、銀色の少女とバイトの話をして、それから…………それから?
うんうんと思い出そうとしても、しろいもやがかかったようで思い出せない。目をつぶれば暗闇にちりばめられた緑や橙や青の光がじゃまをして、なんにもわからないのだった。
ああでも、容姿がほんとうに少女がカムパネルラで、少年がジョバンニのようだ。二人が来たから、もしかしたら二人の今生の幸いのために自分が代わりに連れ去られてしまつたのかもしれない。
なんて、馬鹿馬鹿しいけれど。
不思議と逃げ出したいとは思わなかった。ただただ、放置して来てしまった二人のことが心配だった。困惑しているだろう。嗚呼ヤニクとの約束も、こちらが破ってしまった。性格がよろしいとは言えない彼だから、怒っているかもしれない。本をどれでもひとつもっていっていいから赦してくれないだろうか。伝える機会もないけれど。
クラリッサは、錠からの連絡を局に帰ってから知ることになるだろう。
2014/10/09(Thu) 00時頃
汽車のなかに自分はひとりだ。
カムパネルラが姿を現さなければ、ジョバンニはずっと、ずうっと、白鳥の停車場にも、プリオシン海岸にもいけず、北十字も見られず、鳥を捕る人にも会えずにくらい銀河のなかを走り続けてゆかねばならないのかもしれなかった。]
ひとは誰もが、自分だけのカムパネルラを探している
[そう喩えたのは誰だっただろう。自分の暗闇を照らす唯一の光を、照らして手を伸ばしてくれる誰かを探している。
そのカムパネルラが、どこまでもゆこうと言った途端に消えてしまうのだ。銀河鉄道は、そうゆうことを表しているのであり、カムパネルラもまた、人間だったのだ。
賢治のカムパネルラは妹のトシだった。
カムパネルラーーー信仰を一つにするたったひとりのみちづれが消えてしまうそのことに、何度胸を打たれただろう。
黄玉(トパーズ)や青宝玉(サファイア)を散りばめたような賢治の世界が、窓の外に広がっている。
孤独の散乱する、綺麗な空だった。
けれども自分には、カムパネルラはいないのだ。
いつだって、いまだって。
このまま何処へゆくんだろう。
大声で泣いた。少しだけ笑った。
このまま何処かへゆくんだろう。
ことんことんと、振動音だけが響いていく。]
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―昼下がり・公園―
[猫を可愛がり可愛がり、端末の画面をボンヤリ眺めながら、金糸雀への文面に頭を悩ませていた。 何分が経っただろうか。公園の時計を見れば、また別の人物が顔を出す。]
ルーカスさんからの返信も来ないのよねぇ……何かあったのかしら。
[と心配をしても、頼りになるのは名刺一枚とアドレス一文。残ったものはサボテンと懐中時計。 おつかいに持って行く物としては、ちょっとな。
彼の知り合いといえば……一人だけ心当たり>>302があった。メールを書いたら、大学まで足を運んでみよう。 端末が震えたのは、ちょうどその時。]
ルーカスさん……?
[それとも、さっき送信ボタンを押したシメオン君? 目に飛び込んだ件名に、思わず眉を顰める。 約束を果たしに……後ろ……後ろ?]
(324) 2014/10/09(Thu) 00時頃
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––––––––……っ!
[降って湧いた声>>306>>307に背筋に針金が張った。猫もビックリして何処かへ逃げ出してしまう。 血がなみなみ注がれ始めた心臓を抑えて、後ろを振り向く。]
……ちょっと、そこまでお使いに行く所だったの。
[半ば睨むように見上げた顔は、見慣れてしまった顔。]
昨日は傘をありがとう。それとお使いも、今金糸雀さんへの手紙に何て書こうか悩んでいた所よ。
……今日も耳が生えているのね。
[最早隠す気はないらしい、その耳を少し柔らかくなった目で見つめた。]
それ、いつ取れるの?……誰かにあげる事とかできないのかしら?
[さり気なくベンチの隣を空けたけれど、相手は座るだろうか。]
(325) 2014/10/09(Thu) 00時頃
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クラリッサは、カリュクス(カナリア)への文面をどうしようか思案中。
2014/10/09(Thu) 00時半頃
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[引き結ばれた口元。視線の先>>330を辿っても逃げる白い後ろ姿があるだけだ。]
そんなに怖い顔しないでちょうだい。せっかく被ったおばあさんの皮が剥がれるわよ、狼失格ね。
誰かれ構わず手紙を振りまく程尻軽ではないので……これで充分です。
[悪戯そうな笑みを浮かべて、端末の後ろに付いているレンズを相手に向ける。
パシャ。水溜りに態と踏み込んだ時と似た音が響く。…から見える液晶画面には、相手の顔が映り込んでいるだろうか。 映り込んでいたのなら、端末をそそくさとポケットに隠してしまって。……後でこの写真をカナリアさんに送ろう。 下手な文章よりも、何倍もいい筈だ。
恐らく、相手の顔は嘘ではないだろうから。]
[写真が撮れようが撮れまいが、端末は仕舞う。 言い訳が欲しいのか>>332という問いに、浅く息を吐き出した。 目の前では、噴水が落ちてはけたたましい音を立てている。]
言い訳が欲しいのは貴方なんじゃないの? もう耳を隠さないのは、誰かに自分の事を糾弾して貰いたいから?
(344) 2014/10/09(Thu) 01時頃
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目に見える呪いを貴方は手に入れたのよ。誰にも解けない呪い。 たぶん貴方だけでは、貴方の望む物では、もしかしたら他の誰にもどうすることも出来ない………
[言い過ぎた、と。 視線を伏せて隣を見る。]
………代わりたいわ、貴方の全てと。 貴方は、今、その姿で幸せ?
(345) 2014/10/09(Thu) 01時頃
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[月の光の差し込める薄闇の中、ぼんやりと月を眺めてどれ程の時間が経っただろう。
傍に置いた懐中時計の針を見たのなら、思いの外時間が過ぎていて――"とんだ時間泥棒だ"、と月に喩えたかの人へと捧げる恨み言を胸に。
そうして漸く、その月から目を離したのであれば。図ったように、携帯端末が音を立てて震えはしただろうか。]
……、土産か。
それは嬉しい。どんな時計を…贈ってくれる?
[そろそろ見慣れたその名とアドレスに、知らずのうちに顔を綻ばせ。返信の代わりにぽつりと言葉を零しながら、眉を寄せて目を伏せる。
――嗚呼、折角。今宵の月が、恋しさをほんの僅かにだけ慰めてくれたと言うのに。
このタイミングで送って来るとは…これじゃあ本当に、ひと時たりとも彼を浮かべぬ事など出来ないじゃあないか。]
………、あの時は、太陽が昇らなければ良いと思ったものだが。
[あの夢の一夜へと、想いを馳せて。あの時話したささやかな趣味の話を、彼が覚えてくれていた事に歓びを。
彼のくれるという時計は、果たして如何なるものなのだろう。年甲斐も無く踊る心を宥める気など、今はとてもありはしなくて。
全て置いて来たあの時計達も、また集め直さねばなるまい。そしてその最初の一つが…彼からの土産であるのなら。
それは何と、幸せな事だろう。]
……今は、太陽が昇るのが…何よりも、待ち遠しいよ。
[呟いた声に、最早皮肉も余裕もありはしない。只々その身を焦がす恋しさだけを滲ませて、最後にひとつ呟いた名は、月明かりの中へと溶けて行きはしただろうか。]*
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