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![]() | 【人】 お針子 ジリヤ[殺したのは“もうひとりのあたし”だ。本郷には、自分が体験したことの一部始終をつたえたが、まもとに受け取ってはもらえなかった。 (73) 2016/10/01(Sat) 14時半頃 |
![]() | 【人】 お針子 ジリヤええ!? (74) 2016/10/01(Sat) 14時半頃 |
![]() | 【人】 お針子 ジリヤ(四ツ谷くん? “シーシャ様”だよ!バカ!) (75) 2016/10/01(Sat) 14時半頃 |
![]() | 【人】 お針子 ジリヤ[電話を切ると即座に食べかけのトーストを口の中にねじこみ、ミルクティーで一気に流し込んだ] (76) 2016/10/01(Sat) 14時半頃 |
![]() | 【人】 お針子 ジリヤ[目の前に出されたスクランブルエッグを (77) 2016/10/01(Sat) 14時半頃 |
![]() | 【人】 お針子 ジリヤあ············っ! (78) 2016/10/01(Sat) 14時半頃 |
─ 出られない駅 ─
[また同じ夢を見た。他愛もない夢だ。
寝床で目を覚ます。見覚えのない天井。
板で出来た天井板は、押せば動く。
動いた先にあるのは真っ黒な闇の迷路だ。
左右も分からずに進む。
どこまでもどこまでも進む。
迷路の先は知らない街だ。
馴染みのある、あの緑深い田舎の町などではありえない。
人の行き交う、雑多でエネルギッシュな街でもあり得ない。
帰っておいでと呼ぶ声は、もう届かない。
そんなつもりじゃなかった。
─── ソンナツモリジャナカッタノニ。
[ふっと意識が覚醒する。
なんだ、眠っていたのか。…眠っていた?この状況で?
ゆるく見渡せば、やっぱりそこは駅構内のようだった。
見覚えがあるような見覚えのない風景。
照明は白々と点いているのに、奥が見渡せない。
辺りは明るいはずなのに、何故だか暗い印象がある。]
俺は、…──違う。違う。
出られないんじゃ…、
[ない?本当に?
自分もヤヘイと、あの狂人と同じじゃないのか。
出ないんじゃない、出られないんじゃないか。
あっちかも知れない。いや、こっちかも。
そっちの先はまだ手繰っていないのかも知れない…]
……違う!!
[違う。自分は彼と同じじゃない。
出られないんじゃない、出たくない。
そう出たくなかっただけだ。どこから?この場所から。
そこまで考えてしまって、一瞬息が止まった。
違う、そうじゃなかった。
絶対に出たくない───…んじゃ、なくて。
そうじゃなくて、今はまだ出られない。このままじゃ帰りたくないだけ。]
*
*
*
[東蓮寺の実家は、ごく田舎の古い寺だった。
歴史の長さばかりが自慢の、禅宗の古い寺である。
昔から馴染んだのは草の匂いと香の匂い。
読経の響きは子守歌より身に沁みついている。
町は皆、代々からの古い知人親戚で、琉衣は昔から「東蓮寺の跡取り息子」であった。何をしてもどこにいても、見知った人の目があった。
寺の跡取り息子、一人息子として、いずれは修行にそして住職に。そうして古い小さな、…居心地のいい狭苦しい優しい町で一生を送ること。そんな決められた未来に反発して東京に出たのは、高校を出て間もなくのこと。]
「俺は寺なんて継がない」
「俺は東京に出て、立派に稼いでいい暮らしをするから」
「だから、こんな古い田舎になんて帰らない───」
[父と大喧嘩をして、母に見栄を切って家を飛び出た。
祖父母は、その後何度も何度も手紙を寄越した。
お前は跡取り息子で、しかも一人息子だ。
お前が帰ってこないでどうするのか。
東京でどうせ大した仕事もなく苦労ばかりするのだろう。
おじいちゃんもおばあちゃんも心配しているから。
早く諦めて戻っておいで。
思わず愚痴を零したくなるほど、幾たびも。
未だに契約社員で、碌に将来も見えやしない力不足の自分を見透かすかの言葉が不甲斐なく情けなく、悔しくて。]
[もう、いいと。
もうやめてくれ────、
俺はここに、この街から今は出たくはないのだから。
せめてもう少し頑張って、
………… いずれ胸を張って帰りたいのだから、と。
それまでは帰らない。
帰りたくないと、意地を張り続けてきたのだけれど。]
*
*
*
[懐のスマホを取り出して画面を操作する。
従妹からの連絡はまだ来ていない。
通話をタップしてみる。やはり繋がらない。
ひょっとしてと思って、叔父と叔母にもかけてみた。
繋がらない。微かな期待はあったのだけれど。
では違うのか。彼らもここに迷い込んでいるわけではないのか。]
ああ…、くそ。澪音ちゃん…ごめん。
[新宿駅ではぐれてしまった従妹のことを思う。
彼女は一体どうしてるだろう。無事だろうか。
それとも同じく、どこかに迷い込んでいるのだろうか。
確かめる術はなく、連絡は相変わらず繋がらない。
あんなに不安そうにしていたのに。
助けてやらないといけないと思っていたのに。
不安と苛立ちで、スマホの"通話"の文字を何度も何度も指先で叩き、]
………っ!
[衝動的に画面を消して、端末を握る手を振り下ろす。]
はあ────、
[深くため息をついて、その場に座り込んだ。
普段なら座ることなど思いもしない駅の通路だが、今はもう気にする気にもなれやしない。
なんでこうなった。
どうしてこうなった。
こんなつもりじゃなかった。
こんな風に出たくないというのでなかった。
同じような言葉が、頭の中をぐるぐると回っている。
そんな時、ふと柔らかな声が耳の奥に蘇った。]
『人って、いろいろねえ』
[フルーツ飴の、甘い微かな記憶と共に。]
[ここには、どこかは分からないけど入口があった。
あったんだろうと思う…多分。
では出口は?出口もあるんじゃないのか。
縋りたいのは微かな希望。僅かな望み。
まだ手繰らぬ先の道の向こう側。
『出口も入口も、名前が違うだけかもしれないのに』
淡い、不思議なものを見つめるかの瞳で彼女は言った。
鈴里 みよ子。
その名前を選んで、さして期待もせずに通話ボタンをタップする。
やがて初めて反応を見せたコールの表示を、東蓮寺は手の中に凝然として*見下ろしていた*]
メモを貼った。
![]() | 【人】 お針子 ジリヤ― 午前:表参道・美容院 ― (105) 2016/10/01(Sat) 20時半頃 |
─ 出られない駅 ─
[呼び出しは随分と長く続いた。
普段なら諦めて切ってしまっただろう程の長さ。けれど今は、祈るような思いで呼び出しの表示を見つめている。この回線の向こう、声が、届くことを願って。]
あっ………………
[自ら掛けたにもかかわらず、それでも。
実際に声が聞こえた時、あまりの意外さに、一瞬どう反応していいのかが分からなくなり、東蓮寺は狼狽えたように画面を見つめて息をのんだ。
ごくのんびりとした声が聞こえる>>*9
あたかも今が、常と変わらぬ日常の中にあるような声が。
呆然と「通話中」になった表示を眺め、そしてまた慌てて端末を耳に当てた。ひょっとしたらすぐにまた、切れてしまうかも知れないから。]
あの、みよ子さん、ですか?
東蓮寺です。これ、聞こえていますか…!?
あっ、すみません。いきなり。
えっと…俺、今ここが何時か分からなくて。
駅にいるはずなんですけど………、…おかしなところで。
ここがどこか良く分からなくて。
いきなり電話して変なこと言ってすみません。
悪戯とかじゃないですよ!
でも誰にも連絡が取れなくて。
どうしたらここから出られるかも分からなくて、そしたら、みよ子さんにだけ連絡が付いたんで…!
…っ、すみません。
出来ればどこかに通報とか捜索とか、何か………
[空いた左手を額に当てて、ぐるりと辺りを見回す。
目印になりそうなものも、見覚えのあるものもない。
ただここが、何かの駅であることは間違いがないように思う。
焦りと苛立ちが相半ばした表情で、手掛かりを探す。
何度見渡しても、そのようなものは何もないけど。]
何か、お願い出来ませんか。
ここは新宿のどこかかとは思うんですけど。
駅からどこか、おかしなところに来ちゃったみたいで。
ほんと全然、電話とかも繋がらなくて。
[実際、こんな話をされても相手は困惑するばかりだろう。そう理性は告げるものの、他にどういえばいいというのだ。状況と、道を失った自分自身への焦り、苛立ち、不可思議な状況への戸惑い、恐怖。そうした雑多な感情が言葉の端に滲む。]
お願いします、みよ子さん。
今までで連絡が付いたのは、みよ子さんだけなんです。
いきなりこんなの、信じられないかも知れないんですけど…っ!
[垣間見えた一筋の救いを手放すまい。そんな必死さで、漸く繋がった一本の電話の向こうに*訴えかけた*]
![]() | 【人】 お針子 ジリヤ[『ドッペルゲンガー』とは、医学的には「自己像幻視」という自分自身の姿を見る幻覚の一種であり、脳腫瘍によって引き起こされるケースが多いという。 (116) 2016/10/01(Sat) 21時半頃 |
![]() | 【人】 お針子 ジリヤ[ドッペルゲンガーを扱った文学作品は数多い。かの芥川龍之介は、短編『二つの手紙』の中で、自分と妻のドッペルゲンガー現象に苦悩し、正気を失っていく青年の狂気を描いている。 (118) 2016/10/01(Sat) 21時半頃 |
![]() | 【人】 お針子 ジリヤ[第三者を殺害するドッペルゲンガーが登場する文学作品として 『プラーグの大学生』があり、悪魔により奪われた青年の影が、影法師となり、青年が恋する女性の許婚を殺害する。結果、苦境に立たされた青年はこの影法師を射殺するが、魂を共有する影を破壊したことで青年もまた命を落としてしまう。 (119) 2016/10/01(Sat) 22時頃 |
![]() |
![]() | 【人】 お針子 ジリヤ[美容師の呼びかけに、反射的に顔をあげた。 (123) 2016/10/01(Sat) 22時半頃 |
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