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やだ。
[待って、といわれて言葉では拒否したけれど
見つめてくる瞳にキスはとまる。
不意打ちの様にくちびるが触れれば、
堰が切れたか、その顔に手をそえてお返しを一つ。
こちらからは少し深いものを]
…したい。
[ひどくかすれた声で耳元に囁いて、返事を待つ前にまたその口を塞ぐ。
彼女を泣かせるわけがない。啼くならこの腕の中だけだ
体が沈む。その柔い肌に*]
好きだよ。……紗英
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
[おれはいつものように起きて、いつものようにねりきりとすあまに食事をさせて。
いつものように、仕事をする。]
…そろそろ、槇村くんや本田さんの顔が見たいねえ。
[明日は定休日だから、莉乃ちゃんのショーを見に行く予定だし。]
メモを貼った。
[そうだ、タルトを作ろう。
期間限定の、苺やベリーが過積載気味のあのタルトを。]
人気だからねぇ、これ。
[鼻歌を歌いながら、おれはタルト生地を捏ねる。
そろそろ、女の子のお客さんも来る頃かな。**]
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
[ゆるり、と。まどろみから意識が浮上する。そろそろと瞼をひらけば、隣で寝息を立てている人は無防備で。…思い返した記憶に、おもわず顔を手で覆ってしまう。]
…ずっと一緒にいられたらいいのに。
[しばらくして落ちついた後に、ぽつり、とひとりごちる。確かめるように触れ合って、互いに熱を分けあって。今、胸の中は幸せな気持ちで満ちていて。それでもまだ、ワガママに歯止めが利かない自分がいて。そんな自分に呆れてしまうのだけれど、それを嫌だとは思えなくて]
あいしてるって、こういう時に言えばいいのかな。
[起こさないよう、そっと額に口づけて、微笑む。もう少しだけまどろみの中にいたいのだけれど。仕事休むって、言えない自分がちょっと悔しくて、苦笑い。]
『仕事、行って来るね。また来てもいい?』
[ちょっと悩んで、それだけ書き置き。別にメールでもいいのだけれど、鳴らして起こすのも悪いし。]
…一旦帰って着替えて。
今日は早目に上がらせてもらおうかな。
[週末まで遠いのがもどかしい。余裕が出て来たら一緒にご飯食べに行きたいな…朝早起きすればまた風見鶏で会えるかな。なんて考えを浮かべては、頬が緩んだ。**]
メモを貼った。
[朝、夢とおめざめの間でとろとろしていると
腕の中の温度が動く気配。呟きは音としか聞こえない。
でも暖かくて柔らかい感触を逃したくなくて、
無意識に一度腕の中に引き戻そうと力を込めた
額のキスや「あいしてるって…」に少し幸せそうな表情になったのも無意識だ]
[腕の中から温度が消えて、心なし寒くて毛布に丸まりこむ。
夢の中、あの部屋が短い一生であったかのように、走馬灯として脳裏に映る。
どこかすぅ、と冷えていく感覚を覚えながら、
それでも紗英がいるのだと思えば。
毛布の感触が気持よくて、しばらくもだもだした後、
クッションに顔をうずめて…目が覚めた]
……うぇ?紗英さん…?
[呼んでも返事どころか気配もない。
一緒に寝た後相手がいない朝は寂しいものだが
今日は平日だったことを思い出す]
あー…そうか。悪いことしちゃったな…
多分うちの仕事もあるんだろうなぁ。
[時間を見ればまだフレックスでは間に合う時間。
有給使うのもなんか勿体無いし、しょうがないから出勤することにした。
こんな気持でいていいのかな。罪悪感はまだ胸に深く刺さっているけれど]
「勿論喜んで。」
「メモの返事はメールで。今晩はまた風見鶏にいってみようかな
ねりきりとすあままっしぐら*]
[メールを読み終えて、ふ、と口元が緩む。通勤途中の空を見上げれば、薄紅色の桜の向こうに淡い空。朝の澄んだ風に桜が揺れる。
毎日通る、同じ道。
お喋りしながら歩く学生さん、すれ違うサラリーマン、仲睦まじげに手を繋ぐ親子、気ままに欠伸をする野良猫。
見慣れた筈の景色は、どこか色づいて見える。]
[仕事に行くの、前ほど嫌じゃない。
山のような作業も、仕事内容も変わらない。でも、向き直って得た微かな手応えは、きっといつか、やりたい事に繋がっていく。そんな予感がするんだ。
あたし自身ですら気づいてなかった気持ちを、みつけて、掬いあげてくれて。きっかけが、無責任な優しさだったとしても、あたしがその優しさに救われたのは確かで。…その優しさにすら傷ついてしまう、存外不器用な人のことが、あたしは愛おしくてたまらない。]
『ありがとう』
[短いメール返事に篭めた想いは、きっと伝わらない。でも、いいんだ。気にしない。この花や風の香りが消えても、きっと一緒に居られるだろうから。]
[今度、部屋に来てもらおう。
部屋を掃除して、だしっぱなしのこたつを片付けて。春らしいパステルカラーの布を買って、目隠し代わりに棚につけるのも悪くない。
美味しいほうじ茶を淹れるための急須も欲しいな。
和菓子…は流石に難しそうだけど。和食どうかな、嫌いじゃなさそう。お味噌汁とか、卵焼きとか、簡単なものならあたしにも作れるかな。あ、そうだ。前に原稿で見た雑貨屋さんの箸置き、あれ可愛かった。ちょこんとした赤いシーサーの。あれまだ売ってたら欲しいな。]
おっと…急がないと遅刻しちゃう。
[通勤途中にある学校から、予鈴の音が鳴り響く。
満開の桜を名残惜しげに一瞥して走り出せば、地面に散った花びらがふわりと舞った。
終業も、次の休みも待ち遠しいけど、今日一日頑張ろう。職場まではあともう少し。**]
[人間ひとりの違和感など押し流して、世界は回る。
どこかで見たような既視感を覚えた朝の事件も、忙しない社会の流れに乗ってしまえば、同僚との話の種になる程度。
そうして今日も、昨日まとめた資料を鞄に詰め込んで、客先への訪問。
席を暖める暇もなく会社を発って、満員電車。朝一での打ち合わせ。
それを終えれば、もう昼前で。朝が忙しなかったからか、胃がくぅと不満を訴えた]
……会社戻る前に、コンビニ寄ろか。
[サンドイッチに缶コーヒーでも買って、済ませるとしよう]
[コンビニ店内は、昼の時間だからかやや混み合っているようだった。]
『おとーちゃん、わたしツナマヨのがいいー』
[弁当の棚へ迎えば、ハナが主張する。
おにぎりの棚はハナの手が届かないため、代わりに取ってやる。]
――ほら。1個でいいか?
[そんなことを言いながら自分の弁当を取るついでに、そばの温かい飲み物のペットボトルも取った。]
あと何かいるか?何飲むんだ?
[そう声をかけながら昼食を物色する。]
[メールを送った後、棚の上に置いておいた指輪の小箱を手にとった。
これはもう日の目を見ることは無いだろう。
結局、あの後彼女には別れを伝えている。
浮気も勿論だけども…あの指輪を受け取った時の顔が忘れられなくて。
んー、と伸びを一つすると梅昆布茶を飲んで、シャワーで汗を流す。
排水口に吸い込まれる水と一緒に、自分の中のもやもやが吸い込まれていく気がする]
[自転車で通勤する途中、その小箱は駅のゴミ箱に投げ捨てた。
勿論いい値段だったし、惜しさもあったけれど勉強代だと思えば安いくらいだ]
えっと……
[今日のスケジュールを確認する。
あの時、デスクに来いと伝言を頼んだけれど、
しばらく他に構うことはできなさそうだ。
だけど、そんな毎日でも楽しいとか嬉しいとか思えることがあるなら頑張れそうな気がした。
自分は無責任で傲慢で、酒癖も悪いどうしようもない人間だと自覚したけれど、
そんな自分を受け止めてくれる人がいるなら、どうか自分の気持ちがその人の為になりますようにと*]
[真っ白い光の中を、意識だけが漂う。
上も下も進んでいるのか戻っているのかも分からない。自分の形を認識出来ないような無感覚の世界で、けれど、この先が帰りたかった場所に繋がっているのだけは分かる。
一緒に青い扉をくぐった少女は、無事に戻れただろうか。
緩やかに混濁と明滅を繰り返す意識が、彼女の痕跡を探して。ちょっと前まで左手だった箇所が、まだ繋いだ手の温もりを覚えている。
扉をくぐる前、何度も何度も確認した。
お互いが死んだ理由。場所。
あの日に戻ったら絶対に絶対に、一人で帰っちゃ駄目だよ。彼女は呆れただろうか。そのくらい、しつこいくらいに念を押した。
忘れてもいい。
白い部屋での事を覚えていなくたっていい。
生きていてくれさえすれば、それ以上なんてない。
例えば、同じ世界で自分がもう一度死んだとしても。]
[そうやって弁当を取り、振り返るとサンドイッチを取ろうとしていた女性に当たりそうになった。]
――っと、すんません。
[そう言って会釈をし、レジへ向かう前。
―――振り返る。]
[――何の変哲もないコンビニエンス・ストア。
開いた扉は音もなく、昼前の混み合った店内に、ヒールの軽く高い音が加わった。
さっと、店内に目を走らせる。
季節商品や、キャンペーン。最近流行っているらしい漫画だかアニメだかのグッズが当たるくじなんていうのもある。
世間の動向には、目を配る。これは仕事柄、重要だ。
どこに商売のチャンスがあるか判らないし、それに、お客さんとの会話の種にもなる。
客層はやはり、自分のような会社員がほとんどで、一組の子連れが、目立っていた]
……んー……、
[そうして、三秒で店内に目を走らせて。
サンドイッチの棚の前に移動して。悩むこと、二秒。
トマトサンドに手を伸ばそうとしたところで、危うく、人とぶつかりかけた]
あ……いえ、こちらこそ。
[軽く頭を下げ、サンドイッチを取って――朝のような既視感を覚えた]
[ぼやけた朝の夢にピントが合う。
―――自分は、その人を知っている。
いや――]
………あの。
[とっさに女性に声をかけたが、そのあとの言葉が続かない。
あったのだ、伝えたいことが山ほど。
――でもそれは夢の中の出来事。]
あ――いや……
[うまく言葉が出ない。]
……どこかで、あったことありませんっけ。
[やっと出てきた言葉は非常に間抜けだった。]
『ユーが本当に聞きたいこと、わかってるよ♬』
『でも、惜しかったね!
ユー、一瞬躊躇しちゃったからね♫』
『そうだねぇ、バタフライエフェクトって知ってる?』
[いつかの、赤い獣の声がぐるぐると回る。]
『――あと、5秒早かったらどうなってただろうね?』
(見せてやるっつーの。5秒先の世界、)
……、え?
[声をかけられて、困ったよう、小首をかしげた。
たぶん、取引先の社員、ではないと思う。
対面でやり取りするような部署の相手なら、ほぼ頭に入っている。
もちろん、先方の他部署の社員が、自分を目にしている可能性はないでもないけれど。
いずれにしても、こんな時間に子連れというのは、よく判らない。
しかし、言われてみれば、親子とも、なんとなく覚えがあるような気もして]
……そうですね、すいません。
覚えがあるような、ないような……、ええと。
[会ったことがあるとすれば、営業職としては失態だ。
偶然に顧客と出会ったときでも、愛想のひとつも振りまかないといけないのだから。
だから、人の顔と名前を覚えるのは、営業の大事な才能で――……、
――そんなことを、口にした気がした]
…る、…つの………、あぇ…?
[ジリリリリリリリリリ。
部屋中鳴り響く目覚ましそっくりのアラーム音で目を覚ました。
のそのそと起き上がり、手探りで毛布の中に紛れた携帯電話をつまみ上げる。
3月14日。午前9時、過ぎ。]
………あー…、ちこく…
[それは、ある街の道端で遊園地で階段で道路傍で事務所で駅で路地裏で歩道で公園でプラットフォームで。
どこかの誰かが、死ぬ筈だった日の朝。]
[戸惑う女性に、言葉が詰まる。
その目に、その唇には、確かに見覚えがあって。
でも、その夢はくっきりと形をなぞろうとすると途端にぼやけてしまう。]
――あ…すんません。
[ふいに脳内に、あったことないはずの目の前の女性の声がよみがえる。
青いドア、ささやく言葉、光。
……覚えてるかなと、思った。
小さく口からそんな言葉が出た。
何を覚えているのか自分でもわからないのに、自分自身に首をひねる。]
あ――いや、会ったこと、ないっすよね、すんません。
[そう言って会釈をする。]
[――覚えてる?
なにが、だろう。判るような、判らないような。でも、何故か]
……あの。
[去りかけた背に]
……これからお昼、みたいですけれど。
もし宜しかったら、その辺で、ご一緒しませんか。
以前にお会いしていたなら、思い出すかもしれませんし……、
[そんなことを、口走っていた]
[予期しない食事の誘いに、思わず止まる。]
――え、あ…ああ、はい。
[見ず知らずの相手の誘いに、何故か口からは承諾の言葉がするりと出て。]
『おとーちゃん、この人だれー?』
[小さな声でハナがこちらを見上げる。]
……ああ、えーと。
[ハナにどう説明するか、と考えながら、会計を済ませる。
答えは今はでないけど、なぜかすぐにわかる気が、した。]
[コンビニを出て。近くの公園、ベンチに座って]
――その……すいません、突然。
私も、どこかでお会いしたような気はしていて。
ご迷惑でなかったら、いいんですが。
[引っかかったままでは、なんとも気持ちが悪い。
だから、こんなことをしたのだろう、たぶん。
ぱりぱりと、トマトサンドの包装を剥がしながら、そんなことを思い]
――ああ。
私、白石といいます。白石真由美――、です。
[真っ先にするべき名乗りを、ここまでしていなかったのは、何故なんだろう。とってつけたように、名乗って]
――ハナちゃんとは初めまして、かな。宜しくね。
[知らないはずの名前が口から出たことに気付かず、トマトサンドの端を齧った**]
『ミルも、応援してくれる?』
[唐突な問いに、はっと意識を呼び戻される。]
…え?
[えっと、あたし今、何してたんだっけ。
思わず足を止めたあたしを、隣のるりは不思議そうに見た。]
『どうしたの?』
[尋ねるるりに、何故だかとてつもない懐かしさを覚えた。
思わず伸ばした手の先が震えた。
きょとん、とした顔のるりの頭を、そっと撫でて。
…あぁ、戻ってきたんだ。]
…るり…ッ
[目の前の少女に、映像越しに最後に見た姿が重なる。
抱きしめたあたしに、るりは驚いた声を上げた。]
[あの未来は、変えられるんだろうか。
先輩は、帰ってくるのだろうか。
分からない。
あたしの腕の中でじたばたともがく少女を話、その両頬をむに、とつまんでやる。]
『い、いはい!あにふんの!!』
[文句を言う少女の頬から指を話して、今度は逆に、その柔らかい頬を指で押しつぶした。]
応援は、するけど…ダメよ?るり。
[たしなめるように言えば、るりは、ぎくりとした後、目を泳がせる。
やっぱり、と予想を確信に変え、あたしは続ける。]
こんな夜に押しかけたら、好かれるものも嫌われちゃうよ?
[ばつの悪そうな顔で笑う少女を正面から見据え。
あたしは冗談を交えるように、少し笑って見せる。
少女は、ミルにはかなわないなぁ、と言って笑うのだった。]
[その後別れたるりは、どうしただろう。
くぎを刺したとはいえ、ちょっと破天荒な所のある子だ。
やっぱり特攻をかけるかもしれないし、今晩は諦めるかもしれない。
それを違和感なく制御することは、あたしにはできないけれど…少しでも未来が変わっていればいいと思う。
電車に乗って14分。
ガタン、タタンと揺れる車内で、あたしは青い扉の前、最後に重なった右の掌を眺める。
あの一瞬、触れた手のひらの温もりを、もう一度、求めても良いだろうか。
願っても、良いだろうか。]
…会いたい、な…
[もう一度、いや何度でも。
出会い、想いを重ねることができたなら。]
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