308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】
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[ マンションのエントランスが見える頃には、 街中の異変を嫌と言うほど味わっていた。
あちこちから聞こえる悲鳴と破壊音。 大量の血をこびりつかせて、フラフラと歩く人。
私がその間を通り抜けられたのは、運でしかない。
人だかり。パトカー。救急車。 通い慣れたはずの道は喧騒が埋め尽くしていた。 何度か、こちらに向かってくる人を突き飛ばした。 幸い──と言っていいのか。 人の多い朝の住宅街は、私"だけ"を狙う人は いなかった。]
(34) 2020/10/23(Fri) 17時頃
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[ 小走りに足を進めていると、両目からだらだらと 涙が流れる。 足元はまるでグニャグニャのマットレスのようだ。 それでも。]
──アーサー…、アーサー……
[ 帰らないといけない。 どこか自分と違う場所だと思って部屋を出た自分が 本当に恨めしい。 あの茶白の猫の元へ帰らないといけない。]
(35) 2020/10/23(Fri) 17時半頃
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[ 顔を上げた私が見たのは、 白煙を身にまとう我が家だった。]
(36) 2020/10/23(Fri) 17時半頃
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うっ…そだあ……
[ 肩の力が抜け、どさりと通勤かばんが落ちる。 マンションの1階、東側の方から白い煙が湧いている。 映画じみた光景に私はただ立ち尽くしていた。 そのまま32(0..100)x1秒ほど経ったろうか。]
(37) 2020/10/23(Fri) 17時半頃
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[ 手から滑り落ちたスマホが、地面に叩きつけられ、 カシャンと音を立て我に帰った。]
し、消防、119番。
[ 指が震え、うまくタップできない。 一度手をグッと握り、開いて、それでもなお震える 指で119番へコールする。が。]
──何、よ。何でよ──出て!出てよ!!
[ プツプツとコールまではできるのに、呼び出し音は 話中のそれに変わる。 何度も。何回も。]
やだ──やだやだ──何で──
[ 煙は変わらず立ち昇っている。]
(38) 2020/10/23(Fri) 17時半頃
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う…あ…
[ その時の私は多分どうかしてたんだと思う。]
く…そぉあああああああ!!!
[ 悲鳴のように叫びながらマンションのエントランスへ 私は走った。]
(39) 2020/10/23(Fri) 17時半頃
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[ 自分の心臓の鼓動がうるさい。 白煙が苦く肺に突き刺さる。涙で視界もままならない。 息がうまく吸えない。吐けない。それでも。
エントランスのオートロックが開くまでの数秒が、 何時間にも感じた。 ゆっくり開いた扉に割って入るように滑り込み、 階段を駆け上がる。 私の部屋は、2階。]
(40) 2020/10/23(Fri) 17時半頃
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[ 階段を一段とばしで駆け上がり、自分の部屋へ走る。 こんな大きな足音で廊下を通ったことはない。 ]
鍵…かぎ…どこ……
[ 手も足も、身体中がおぼつかない。 すでに廊下は煙で薄ら暗く、光すら届かない。 鍵を回して、いつも見知った玄関ドアを開けて。]
アーサー!!
[ 玄関から呼びかける。声はない。]
アーサー!!どこ!!
[ 悲鳴のように叫びながら、暗い部屋に入る。 靴を脱ごうとして、なかなか脱げずにそのまま 脱走防止の柵を蹴り飛ばして飛び込むと、 弱々しく枯れた声で、みゃあん、と声がした。]
(41) 2020/10/23(Fri) 18時頃
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[ 恐らく煙に気づいて何度となく鳴いたのだろう。 枯れた声の猫は、それでも私の手に頭を摺り寄せた。]
ごめんね…!ごめんね…!!
[ 大人しく抱かれたままじっとしているその猫を抱えて、 私は部屋を出た。
部屋を出ると、徐々に黒くなっている煙が目の前を 埋め尽くしていた。 頭の中は目の前と同じ、真っ白だった。 その場に立ちすくみ、全身の力が抜ける。
「みゃおん」
わずかに身動いだ猫に思考を繋ぎ止める。 大丈夫、いつも通る道だ。いつもの通りに。]
(42) 2020/10/23(Fri) 18時頃
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[ 煙が晴れたと思った瞬間、そこは外だった。]
(43) 2020/10/23(Fri) 18時頃
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[そのまま、走り、走り、走り。 マンション全景が見えるところまで離れて振り返ると マンションの東側の煙は赤い火に変わっていた。]
あ…あ───
[ その場にへたり込むと、猫はジタバタと動いた。]
よかった…アーサー…大丈夫? 怪我してない?
[ ふと気づくと私の方がひどい状態だった。 服は所々すすで黒く汚れ、あちこち擦り傷もある。 猫はジタバタともがき、私の手を引っ掻いた。]
つっ──!
[ 猫は、そのままこちらに向かって激しく威嚇する。]
(44) 2020/10/23(Fri) 18時頃
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怖くないよ、怖くない…キャリーないや…もう… アーサーごめんね、こっちにきて、お願い。
[ 激しく威嚇する猫を必死に宥めようとする。 しかし猫はこちらを介せず──私の後ろを見ていて]
え。
[ 猫の目線を追って振り返ると、そこにはどろりと濁った 光のない瞳と、濃厚な血の臭いが、あった。 *]
(48) 2020/10/23(Fri) 18時頃
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[ 振り返ると、そこには口元を真っ赤に濡らした、女。 喉の奥がヒュウと音を立てた。]
──あ、あ、あ。
[ 鳥のような鋭い鳴き声を上げて、猫は走り出す。]
や、アーサー、待って。
[ それを見て私も弾かれたように後を追う。 "そいつ"は思ったよりも遅かった。 猫の後を追いかけ、追いかけ、気づいたら。]
アー、サー、まっ……
[ 小さな小さな猫を、私は見失った。]
(96) 2020/10/23(Fri) 21時半頃
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[ 全身が悲鳴を上げている。 気づけば私はビルの隙間の路地にいた。]
う──あ──うあっ──
[ 息を整えようとするが、嗚咽になってしまう。 猫はどこに行ったんだろう。 声を出してはいけない、だってあいつらが。]
──! ───! ────!!
[ 嗚咽を噛み殺しながら、まだかろうじてポケットに 入っていたスマホを出した。]
(98) 2020/10/23(Fri) 22時頃
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[ SNSを更新して、気づいた。 噛まれた後しばらくして消息を断ったアカウント。 人を殺したかも、というアカウント。 不穏な文字列から更新がないアカウント。 動く死体のムービー。
自分にはどこか遠くのことだと思っていた。 しかし、こんなにもすぐそこに迫っていた。]
何…これ……
[ アーサーは戻ってこない。 壁に背をつけたまま、私はずるずると座り込む。
インターネット越しの絶望から私を支えてくれてた 小さな猫は、今はいない。]
(100) 2020/10/23(Fri) 22時頃
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[ 涙が止まらない。 心細い。 スマートフォンを握り締めてそのまま膝に顔を埋める。
家もあの火事では少なくとも無事ではないだろう。 今日の寝床を探したいが、ホテルはあるのだろうか。 そんな思考の渦を、声が切り裂いた。]
「あ"あ"ぁ……」
[ びくりとその方向を向くと、そこには──]
う…えぇ……
[ 大柄な男。 その首はひしゃげ、腕は曲がり、血に塗れている。 私は、その姿に見覚えが、ある。]
(102) 2020/10/23(Fri) 22時半頃
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いやああああああああああ!!!!!
[ 私はそのまま転がるように走り出す。 それは、朝、落ちてきた男だった。]
(103) 2020/10/23(Fri) 22時半頃
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[ 走って、隠れて。走って、隠れて。 距離としてはせいぜい町内をグルグル回っている だけなのだが、どうにも、何も、休まらない。]
──はっ、はっ、あ……お、おえっ
[ 逃げ惑いながら、見た光景を反芻してしまい、 その場にびちゃびちゃと嘔吐する。 転んで倒れた老人に、何人もの人が殺到し。]
うぇっ…おえぇ……
[ がり、がり、ぐちゃり。 悲鳴、嗚咽、断末魔。 怒号、呻き声。
一頻り胃の中のものを出し切ったようだ。 吐き気は止まらないが手の甲で唇を拭う。 家があれば、そこに立て籠ることもできたのに。]
(124) 2020/10/23(Fri) 23時半頃
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[ 私はよろよろと立ち上がって、目の前のビルを見た。 その雑居ビルの非常階段は、"あいつら"はいないようだ。 各階の踊り場にはビールの樽やモップ、ゴミ箱がある。 そのビルのテナントが物置に使っているのだろう。
あたりは薄暗くなっている。 体も走り続けてボロボロだ。 私は非常階段を踏み締め、1段ずつ注意深く登った。 **]
(125) 2020/10/23(Fri) 23時半頃
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