226 【突発誰歓】君の瞳に花咲く日【RP村】
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[大丈夫、大丈夫と告げられようとも近付かずに目線を合わせようと屈むくらいはしただろう。 青年の暗赤色の視線がメルヤの鳶色の視線とぶつかってばちんと音を立てた。 瞳に交じるのは懇願の色。 …それを見ていたくなくて、先に視線を逸らしたのは青年の方。]
呼ばねえよ。呼ばねえから、
[メルヤの声が震えている。 きっと、青年の声は逆に非道く平坦なことだろう。 震えてしまわないように、抑え付けて、喋っているから。 逸らした目線の行方はメルヤの右の手の。透明な鱗。>>70
みなまで言わずとも、メルヤの言おうとした先は。>>120 きっと、間違いなく 。]
(125) 2015/06/05(Fri) 23時半頃
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騒いでねぇし、気にスンナって。 …しっかり、休めよ。
[それでも、先を促すことはせずに、 メルヤが立ち去るというのなら、そのぎこちない笑顔を黙って見送ることにした。*]
(126) 2015/06/05(Fri) 23時半頃
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シーシャは、ヒナコに話の続きを促した。
2015/06/06(Sat) 00時頃
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[メルヤが立ち去った図書館で、青年はしばし佇んでいた。 ユリはどうしていただろう。 それも頭の中から抜け落ちるほどに、瞳の奥にチラつくのは、数分前に目にした右手に突き立った透明な鱗。
目の前でメルヤの皮膚を食い破った。 止めることも、鱗の増殖を止めることも、メルヤの苦痛を和らげることもシーシャには出来なかった。 センセーを呼んできたって、出来なかっただろう。 青年には何も出来ない。ただ、見ていること、しか。
( …… )
湧いた衝動は言葉には成りきれず、青年は奥歯を強く噛む。 これまで幾らだって、"見送って"きたはずなのに。 何度経験したところで慣れはしない。
日常の最中、不意に叩きつけられる無力感には。]
(159) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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[めりめり。みし。べき。] [そんな後悔とも悔恨ともつかぬ感情を、青年の頭皮を突き破る角は食べてはくれない。 感情と記憶を青年から吸い上げて育つ"私"は 楽しいとか、嬉しいとか、そういった感情(エサ)が好きで 後悔や悲しい、苦しいといった感情(エサ)には見向きもしない。
メルヤと声を交わす最中の痛み>>109が予兆だったのか、 小さく音を立てて、ほンの少し"伸びた"音がした。]
(160) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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[それを誤魔化すように。……誤魔化せればいいと。
メルヤが本を物色していた棚の端の端の、はみ出した絵本。 その隣の、絵本にしてはやや厚みのある一冊の本に指をかけ取り出して、表紙を見れば、真っ新。 誰も中身を見てはいないのか、それともかなしい話だからと持っては行かなかったのか。>>67
どちらにせよ、それが置いてあることは青年にとっては運のいいことに違いはない。 絵本に紛らわした唯一の青年の記録。>>96
"私"に捨てられてしまう前に、見つかる前に、 誰かに渡してしまえたら。
……それが、例えウソツキのセンセーでも。いいから。]
(161) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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[本の中身をぱらぱらと半端に捲れば中身に変わりはない。 ただ、登場人物の名前が黒く塗り潰されているだけ。 誰がそんなことをしたのだろう。それはわからなかった。
それでも、大事なのは中身で、名前じゃない。
本をぱたんと閉じ、屈めていた背を元に戻す。 ばきばきと音がしたが、不自然な姿勢でいた弊害だろうと気には止めず。
シーシャは、ユリがまだ館内にいたなら邪魔をしないよう、音を立てずに注力して図書館を後にした。*]
(162) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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― 捲られた表紙のない絵本 ―
あるところにとても仲のいい双子の男の子と女の子がいました 男の子のなまえは××××といいました 女の子のなまえは×××といいました
ふたりはとても大事にされてそだちましたが あるとき 女の子がびょうきになってしまいました
それはあたまの中に悪いものがふえていくびょうきでした ふえた悪いものは羊のつののようなかたちをしていて すこしずつ女の子のあたまからはえてくるのでした
女の子はびょうきになる前はとてもやさしく いい子でしたが びょうきにかかってからは 別のにんげんになってしまったように男の子にあたりました
男の子はそのたびに泣きたくなりましたが 女の子のほうがつらいことを知っていたので だれにも見えないところにいって泣いていました
(164) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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『 どうして ×××× じゃ なくて わたし なの 』
『 ねえ どうして 』
女の子のしつもんに男の子はいつもこたえられませんでした おてつだいもべんきょうもパパやママに好かれるのだって 女の子のほうが ずっと ずっと 上手にできるのに びょうきに好かれたのも 男の子ではなく女の子でした
なんども飽きるくらいにおなじ春がやってきて けんかをしてなかなおりをして 大人になっていくんだろうね と 笑ったそのばしょに つぎの春はやってはきませんでした
(165) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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ながい 冬がきました いつもよりもずっと ながいながい冬でした ゆきがつもり 風がこごえる冬でした
その日も男の子はだれにも見つからないばしょで泣いていました ものおきのたなのした こどもふたりがやっとはいれる大きさのばしょ 男の子と女の子しかしらないひみつのばしょでした
『 びょういんに あずけ ようと おもう 』
『 あのこ きみが わるいわ 』
そのとき 聞こえるはずのないこえがきこえました そっと のぞくとそこには《 パパ 》と《 ママ 》がいました
(166) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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びょういん にどと かおを みなくて すむ とぎれとぎれの端っこからそんなことばが聞こえました
女の子はどんどんと大事なことをわすれていました 男の子の名前と《 パパ 》 《 ママ 》 それと ひみつのばしょのこと それいがいは むかし見たはなの名前も まどのそとを飛ぶちょうの名前も ぜんぶ わすれてしまいました
びょういんに あずければ いつか あのこ は ぜんぶ わすれてしまうから
わたしたちには ×××× が いる から
男の子はいきをひそめて 聞いていました なみだが流れていましたが こえを出さないようにしました
(167) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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そして 《 パパ 》と《 ママ 》がいなくなるまで ひみつのばしょでいきをころして泣きました どうして泣いているのかわからなくなるくらい 泣きました
それから 女の子のへやにいきました きいたことを すべて 話すつもりでした
女の子のへやへおとずれたとき 女の子は 男の子のよくしっているやさしいかおでした
男の子は話すことをためらいましたが 女の子に《 ハパ 》と《 ママ 》が話していたことを すっかりそのまま話しました
女の子はなにも言わずに聞いていました
(168) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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『 ×××× ねえ ×××× 』
『 一生のおねがいがあるの 』
すべてをつたえたとき 女の子が言いました 女の子はぎらりとひかる銀のナイフを手にしていました
『 わたしが わたしのままでいるうちに 』
首にかけられたぎんいろの鎖を女の子ははずします それを男の子の首にかけてにっこりと笑いました
『 』*
(169) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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*[ 止められた 半端な結末は 女の子の一言でおしまい。 ]*
(170) 2015/06/06(Sat) 01時半頃
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シーシャは、ケイトはどうしているだろうと考えた。
2015/06/06(Sat) 02時頃
シーシャは、キルロイにも会っていないような気がする。
2015/06/06(Sat) 02時頃
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[青年の手にした本の表紙には、題名も作者の名前も書かれてはいない。 本の中身には挿絵もない。 ただ、取り留めなく拙い字で「おはなし」が書いてあるだけ。
むかしむかし。そう始まるけれど、 めでたしめでたし。では終わらない本。
御伽噺の中では悲しいことや辛いことが起きたとき、神様が現れて助けてくれるなんて、そんな都合のいいことが起きたりする。
でも、現実に神様というものがいるのなら、きっと完全無欠に立派で公平な人格者で、強い者にも弱い者にも、お金持ちにも貧乏人にも、病気のある者にもない者にも、死に逝く者にも生きる者にも、ただ平等に見守るだけで決してどちらか一方をえこひいきして手を差し伸べるなんてことはしないのだ。 なんてありがたいんだろう。死んじゃえ。]
(195) 2015/06/06(Sat) 06時半頃
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[ぱたり。ぱた。] [本を開いては閉じて、階段を上がる。 爪をこれ以上傷つけないようにと言われた>>0:189ことなどどこか遠くへ消えてしまった。 指先に巻かれた包帯だけがそれを覚えている。
青年の目に入るのは、波紋のようにキズアトの拡がった壁。 ココへ青年がやって来てからもう十年ほどが過ぎた。 その間に積み上げられたキズアトのひとつひとつ。 "いたい"という感情で閉じた記憶の痕跡。
壁を目の前にすれば、気持ちが僅かに安らぐような気がした。]
(196) 2015/06/06(Sat) 06時半頃
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[それでも、その場所に留まることをせず、更に階段を昇る。 白い扉の無数に並ぶ場所。 もっと上へ続く階段の前には"立ち入り禁止"のプレート。
青年はそちらへは目も呉れず、歩みを進める。 今日訪れたばかりの部屋>>0:188の場所はさすがに覚えていた。
コン…コン。扉を叩いても返事はない。 ドアノブを掴めば、隣の部屋と違わぬ作りの部屋。 鍵はかかっていなかったのか、難なく開いて。
――――果たして、中にセンセーはいなかった。
直ぐに戻ってくるのかもしれないし、 直ぐには戻ってこないのかもしれない。
大人しく待っているには不安が少々大きくて。]
(197) 2015/06/06(Sat) 06時半頃
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[本をその場へ置いていくのも気が引けたため、やって来たのと何ら変わりなく、青年は身を翻す。 昼間のうちならば、そこかしこに人が居るのだから、"私"になってしまっても動ける範囲は限られるだろうからと。
部屋の外へ出て、扉を閉める。 その時、]
[ ぎぃ。 ]
[隣の扉>>0:182が音を立てて、細く細く、開いた。**]
(198) 2015/06/06(Sat) 06時半頃
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[隙間の空いた扉のドアノブは歪んでいて。 捻りすぎて>>0:187壊してしまったのかと青年の背を冷たいものが滑り落ちた。 センセーにバレれば叱られるのは間違いない。
…その時は、最初から壊れていたことにして誤魔化そう。 そんなことを考えながら、一歩、二歩と近付いて、ドアノブに触れれば力を込めずとも、ぎぃ。と歪な音を立てて扉が――開く。]
(228) 2015/06/06(Sat) 17時頃
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[青年はその部屋には入ったことがない。 センセーの部屋ではなくて、具合の悪化したヒトを閉じ込めるための部屋。――保護室とは名ばかりの。
シーシャや、他の誰かの私室とは違う。 窓もない。内側からは出ることを選べない。 簡素な白いベッドと床と壁とで構成された部屋。
白い。何もない部屋は青年の記憶の端にチラつく白い影と似て。
( な に も な い )
胸の奥でナニカがぞわぞわと泡立つようで、開けたばかりの白い場所に扉で蓋をしようとした
……その、目の端に。]
(229) 2015/06/06(Sat) 17時頃
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[ 誰かの忘れ物か、落し物か。引っかかるのは鈍色の鍵。 ]
(230) 2015/06/06(Sat) 17時頃
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[鍵には何処かに繋がれる紐も使う場所を示す文字も何もない。 ただ鈍色が薄暗い部屋の中で一瞬、ぎらりと瞬いただけ。 …それを。青年の目はどうしたことか拾ってしまった。]
落し物 なら …センセーに渡さないと。
[そう口にした言葉の白々しいこと。 口を開くよりも先に、青年の長い指が鍵を掬い上げていた。
…ある種の確信めいた推測。 ココへ連れてこられるような"誰か"の落としものなら、あのセンセーが見"落とす"ハズがないという。推測。
根拠なんて無い。 もしかしたら、本当に誰かの忘れ物かもしれなくて。 センセーのものなら失くして困っているかもしれなくて。 最後はセンセーに返すのが一番いいコトなのだろうと。 青年は、思いながらも拾い上げた鍵を服の中へ滑り込ませる。]
(231) 2015/06/06(Sat) 17時頃
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( だって、センセーは今はいないんだから。 )
[言い訳めいた呟きは自分だけに課したもの。 …本も渡せなかった。だから、仕方ない。シカタナイ。
気持ちに蓋をする。 それと同じくして、壊れた扉を元通りに閉める。
嗚呼、鍵の件はセンセーに気付かれなければいい。 この部屋に入ったことも。…扉を壊したことも。
廊下に出れば、…やっぱりセンセーの姿はなくて。 よかった、なんて。思ったのは、直ぐに忘れたフリをした。]
(232) 2015/06/06(Sat) 17時頃
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[それから。 階段を降りれば――今日は本当に幾度見たことやら――キズついた壁が青年の目に入った。]
……っ…あァ、もう。
[壁の代わりにがりがりと。 髪を掻き混ぜれば、青年は嘆息した。 壁につけたキズは治らない。でも、人の体は違う。 望むと望まずに関わらず、傷付けば治ろうとする。
痕が残るほどに深いキズでも何時かは癒えてしまう。 それが堪らなく厭だ。嫌だ。…イヤだ。
忘れたくない。自分が自分であること。 "私"ではなくシーシャであるということ。 シーシャは"私"ではないということを。]
(233) 2015/06/06(Sat) 17時頃
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――…つかれた。
[直後、青年は目を遣った床を睨むようにして、声を落とした。 今日は、普段のシーシャの基準では多過ぎるほどに動いて その上、センセーを二度も訪ねるなんてコトまでした。
嘘を吐かれるなんて日に一度で十分。 …二度目は徒労に終わったばかり。
センセーに本を渡すことも叶わなかったから、シーシャは、どうしようと歩きながらに思案する。 図書室へ行って元の通りに戻してもよいが、あまり中身を見られたいものでもない。 ユリがまだ居るのなら>>211顔を合わせるのも気まずいと。
結局、足を向けるのは自室の方角。 辿り着けば取りあえずは本の置き場所を考えるつもり。**]
(234) 2015/06/06(Sat) 17時頃
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― 自室:窓辺に佇んで ―
[自室へ戻る道すがら、青年が誰かとすれ違うことがあったとしても>>263仏頂面で手を上げるくらいに止めただろう。
自室の扉を開けば階段の近くのキズついた壁とそっくりな光景。 床から壁まで隙間なくびっしりと付いたキズアト。
唯一違うのは、廊下を這うキズとは比べられないほどに青年の自室の傷跡は深いコト。 椅子で、机で、可能ならば何を使ってでも付けた傷。
…自分が傷つかなければ躊躇うこともない。 幾らだってキズをつけることが出来たのだから。
だから、青年の私室に置かれているのはベッドだけ。 ベッドと、動かないように固定された机がひとつ。 机の上には書きかけの絵本。それと、日記。 続きを綴るためのペンは、ない。
あとは何冊か本が床の上に転がる殺風景な部屋。 その中から誰かに貸した>>261こともあったっけ。]
(273) 2015/06/07(Sun) 01時頃
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[退屈凌ぎになるのもソラで中身を言えるようになるまで。 話を覚えてしまえば、本の末路は枕代わりか椅子代わり。
さすがに青年が自分でも文を書くともなれば、本で壁や床に"記録"するわけにもいかなかった。 散らばる本は絵本が大半。 少年の頃にここへ持ってきたものや、気紛れに青年が書いたものも混ざっていたかもしれない。 "私"が捨ててしまっていなければ。もしかしたら――。
…感傷に浸りかけた青年は、意図的に感慨に耽ることをやめる。 思い出語りはすべきことを終えてからでもいい。
――…手にした本に鍵を掛けて。誰にも渡らないように。]
(274) 2015/06/07(Sun) 01時頃
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[床に固く固定された机には引き出しがふたつ。
片方は鍵のかからないもの。 片方は鍵のかかるもの。
鍵のかかる引き出しには小さな鍵が刺さったまま。 開けるたび軋んだ音を立てるそこには何も入ってはいない。
開いても、閉まっても中身が空っぽなら変わらないのだから。 そう思っていたから。 今まで木の匂いだけを閉まっていた場所。
その中に手にした本をそっと入れて、鍵を回す。]
[ がちゃん。 ]
[微かな金属音が聞こえれば、何度か引き出しの動かないことを確認して、青年は漸く安堵の息を吐いた。
小さな鍵と鈍色の鍵。 青年の服の中に隠れているのはふたつの秘密。*]
(275) 2015/06/07(Sun) 01時頃
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― 砂時計から零れた砂粒のひとつ ―
[青年がまだ紙にペンで字を書く事を許されていた頃。 ――壁に記録を刻むことはもう覚えていたのだったか。
頭の中から取り出せることを取り出して、空白の頁に記していたことがある。 それは日記と呼べるほどには纏まったものでなく。 単語の集まりというほど散らばってもいなかった。
ただ、その日に起きたこと。 誰と話しただとか、食堂のメニューとか。 そんな取り留めもないことを真っ白な絵本に書いていた。
昔話は別の本に書いていたから、ビョーインに来てから起きたこと。怒ったこと。笑ったこと。泣いたこと。
ある種の記録といえば記録だったかもしれない。 それは、感情の絵本だった。]
(299) 2015/06/07(Sun) 02時頃
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[それが、唐突に"消えた"。>>279
また、"私"が捨ててしまったのだろう。
そのことに気付いた青年はそう思った。 "私"にとって邪魔なもの。要らないもの。
消えていく"シーシャ"の記憶。残される記録。 シーシャでない"私"は"私"でないシーシャのことがきらい。
"私"にならないシーシャがだいきらい。
だから、シーシャのほンの一部でも残ろうとするのなら、 捨ててしまう。消してしまう。
"私"の時には、
何も間違ったことなんかしていない
そう、思っているから。]
(300) 2015/06/07(Sun) 02時頃
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[その頃には、むかしのことを書いた表紙のない絵本はもう図書室に置き去りになってしまっていた。
むかしのこと。 いまのこと。 あしたのこと。
むかしのことは形になって残っている。 でも、いまのことは無くなってしまった。そう、思った。
だから、廊下の壁にだけ付けていたキズを。 痛みと同時に残していたキズを。 代わりに、部屋に置いてある手に取れるもの全てを使って青年の部屋の壁に。床に。刻み込んだ。>>273
爪で刻むキズはいつだって悲鳴のような音を出した。 けれど、その時は壁の代わりに青年が哭いた。
この場所に来てから最初で最後の慟哭だった。]*
(301) 2015/06/07(Sun) 02時頃
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