308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】
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[あっけなく殺されていくゾンビを目の前に 俺は何もいえず、そいつの姿を見ていた。 埃をかぶった机の上には夫婦の写真がある。 卓上カレンダーのとある一日が赤く花丸で囲まれていて 「結婚記念日!」と丸っこい字で書かれている。
倒れた女ゾンビの薬指には、指輪が光ってる。
台所の鍋の中には 食べられないまま腐っていったカレーが満ちていて 冷蔵庫を開ければ、小ぶりなケーキが二つ。
きっと、この女の人は旦那を待ち続けてたんだろう。 ゾンビになっても。
先日リンチにされたサラリーマンを思い出した。]
(+56) 2020/10/25(Sun) 18時半頃
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…………ナイスファイトォ しかしやんなっちゃうわね。 こう……生活感のあるエネミーってやつですかぁ?
生前が偲べちゃうとさあ
「考えんな。基本的にこいつらは俺達の敵だ。 それ以上のことは邪魔になるだけだ」
[言いながら、元帥は おはぎみたいになったゾンビに手を合わせている。 冷蔵庫傍の棚から、缶詰を見繕う。 盗むみたいにしてリュックに詰めた。]
(+57) 2020/10/25(Sun) 18時半頃
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[仲間からこんな話を聞いたことがあるんだ。
ゾンビ騒ぎになってから、 「絶対に離れない」って誓いあった男女が 翌日、女の方が感染してるってわかって 男が激怒した話。
”俺も感染してるなんて冗談じゃない” そう言って男の方は女をリンチにして殺して―― 結局、女とイロイロしてた男の方も感染してた、
そんなオチの笑えない話を 仲間たちは笑い飛ばして、酒の肴にしていた。]
(+58) 2020/10/25(Sun) 18時半頃
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[人間は慣れてしまう生き物だ。 なら、最終的に残酷なのは、 ゾンビと、人間と、どっちなんだろうな。
ゾンビを撲殺しても冷たい目をしたままの元帥に それを眺めながら食料を漁るのをやめない俺に、
そんなことを思っていたよ*]
(+59) 2020/10/25(Sun) 18時半頃
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[例えば、今日のことを予めわかってたなら 人を好きになったりしなかったんだろうか。]
(+68) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[リュックサックの中を八割満たしたところで、 次で最後にしようか、と 元帥と言い交しながら、次の家へ向かう。 気が付けば、なじみ深い場所に来ていた。]
ここでさあ 小さい頃、遊んだんだよね。 子供が遊ぶにはちょっと狭いけど 学校がそばにあって、 帰り道の途中で公園によって……
[思い出話をしながら、 真っ白なアパートに入っていく。 …………見覚えのある建物だ。 沙良とその家族が住んでいる場所だ。
歩むごとに口数が少なくなっていく。 それに気づいてか、元帥が「大丈夫か」と 珍しく声をかけてきたから、首を横に振った。]
(+69) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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でも、いかなきゃなんだろ
[ここは、やめてくれ、とか。 そんな事言えるはずもなかった。 どこに物資があるかわからない状態で えり好みなんかしてられない。
俺は意を決してその一室に入っていく。 ――――鍵は、開いていた。]
(+70) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[まず鼻についたのは、異臭だった。]
(+71) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[玄関先に女の人が倒れている。
沙良の母親だ。
大昔、おばさん、と呼ばわって、 「おばさんって呼ばないで」と 沙良に怒られたっけ。 優しい人だったから、俺の言葉にもころころ笑って それが沙良の顔によく似ていたのを覚えている。
手を合わせながら、その死体をまたいだ。]
(+72) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[リビングに入っていく。 つっかえるものがあったから、 無理やりにこじ開けると、ごろりとまた何かが転がった。
ドアノブを使って男が首を吊っている。 眼鏡をかけた壮年の男性。 沙良の父親だ。 「娘さんを俺にください」って言う妄想はしてたけど 面と向かって話したことは、あんまなかったかも。]
(+73) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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「クシャミ」
……なんすか、元帥
「大丈夫か」
[瞬く。手、と言われて、俺は改めて自分の手を見る。 見た事もないくらいに震えていた。 やだな、と軽薄に回る口を動かして、 いつも通りを演じてみようとするけれど、 やっぱり上滑りで、元帥の目はごまかせない。]
(+74) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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なんでも、ないっすよ ここ誰もいないみたいっすね 元帥は台所漁っててだにゃー
「嘘ついてんじゃねえよ。 とりあえず他の部屋の安全確保できるまで お前から離れたりしねえからな」
なにそれ。男前かよ。惚れて良い?
[軽口を叩きながら、 俺は沙良の部屋の扉に手をかける。]
(+75) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[入ったのは随分遠い昔だ。 まだ俺達がランドセルを背負っていた頃。
うろおぼえだけど ピンクと水色と白をふんだんにつかった 女の子らしいお部屋だった記憶がある。
入るだけで甘いミルクティーのにおいがして、 女の子ってマジで砂糖でできてんのかなって 錯覚できるような、そういう可愛らしい部屋だった。
この扉を開けたら、変わらない姿の沙良がいて、 昔と変わらない笑顔を浮かべて、 「いらっしゃい、秋くん」って、言ってくれねえかな。
そんなわけねえよな。ウケる。
物音を立てないように扉を開ける。]
(+76) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[途端に襲い来たのは、 強烈な腐臭と、蠅の羽音だった。]
(+77) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[可愛いぬいぐるみが置かれたベッドの上に 白と赤と黒でまぜこぜになった何かが転がっている。 それは人間と同じくらいの大きさで、 背格好は男のものに見えた。
もっと言えば、服装は、 俺が殺した進のものと、おんなじだった。
その人「だったもの」の胸で泣くように 誰かが、ベッドの傍でうずくまっている。 泣いているように見えないのは、 強烈な腐臭と共に響く、粘っこい咀嚼音のせい。]
(+78) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[指通りがよさそうだった亜麻色の髪は乱れて 蠅がまとわりついている。
いつも清潔そうにみえた服に血が滲んでいる。
すべすべだったはずの腕が、 枯れ枝みたいになってる。]
[何。――これは、何。]
(+79) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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う゛
[振り向いたそれと、目が合った。 脳が揺さぶられる感覚。
そいつが扉の前に辿り着く前に、 俺はとっさに扉を閉める。
ばん、ばん、と扉を殴る音が響く。 元帥が太い腕で扉を固定して 鍵を閉めるのが見えた。
我慢できたのはそれまで。
せりあがってきた吐き気をこらえきれずに マスクを外して、俺はトイレに駆け込んだ。]
(+80) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[なんで? 沙良の部屋に進の死体がある。 ゾンビになった沙良がそれを食べてる。 なんで? 俺さ、2人の幸せを願って身を引いた筈なんだよ。 片思いこじらせ童貞だって、身の程を知って 進には当たったけど、沙良に恨み言は言わなかった。
なんで?
明日なんかこなければいいって、 そんな罰当たりなこと願ったから、 二人には幸せな明日はこなかったの?
なんで?]
(+81) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[あの日。進を殺したあの日。 俺が保身にかられて逃げ出さなければ。 沙良を説得していれば。
ああいうことには、なんなかったのかもしれない。 そう思うだけでもう俺は死んでしまいたい。 何が英雄だ。何が。 大事な友達だって好きな女の子だって 誰一人守れやしないんだ。
生きてる価値一番ないやつが なんで生きてるんだよ。
なんで。]
(+82) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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「クシャミ。……クシャミ。おい、串谷秋!」
[揺さぶられる感覚に我を取り戻す。 珍しく焦った目をした元帥が、 俺をのぞき込んでいた。]
元帥。
[そういえばこいつの本名、知らないんだよな。 って、どうでもいいことを考えた後、 へらりと笑って、俺は声をあげて泣いた。]
(+83) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[どうすればよかったんだよ。]*
(+84) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[どれだけ泣いていただろう。]
(+134) 2020/10/25(Sun) 22時頃
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[ばん、ばん、と扉を殴る音は止んでいた。 ただ、俺の引きつった嗚咽と 押し殺すような元帥の呼吸音だけが聞こえた。
「素手で目を擦るな」って言って、 元帥が差し出してきたタオルを容赦なく使って 漸く、俺は人間らしい思考を取り戻す。]
「恋人か?」
……片思いの相手。振られたけど。
「ここは、やめとくか? あのゾンビを俺が倒してきてもいい」
何それ。やさしいな。 ありがと。でも。
[首を横に振った。]
(+135) 2020/10/25(Sun) 22時頃
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俺が終わりにしてやらなきゃ。
[そう言い放った俺の目を、 元帥は、ひどく複雑そうに見ていた。]
(+136) 2020/10/25(Sun) 22時頃
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[咀嚼音の響く部屋に耳を澄ます。 たぶん、食べるものがないから 沙良は仕方なく進の遺体を貪っているのだろう。 最初どんなきっかけでそうなったのかは、 わからないけれど。
大丈夫か、って元帥が俺を見てる。 大丈夫だって、と俺はただ頷いた。
頭の中がすっかり冷え切ってしまって 自分が自分じゃないみたいだ。 金属バットの柄を強く握る。 鍵を静かに開けて、 沙良の部屋の扉を、開けた。]
(+137) 2020/10/25(Sun) 22時頃
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――沙良。
[名前を呼ぶ。 死体を貪るゾンビが振り返る。 名前を呼ばれたのがわかったから?
……ちがう。物音に反応しているだけだ。]
ごめんな。
[こっちに走ってこようとする沙良に笑う。 バットをまっすぐに突きだした。 沙良のみぞおちがべこりとへこむ。 ゾンビといえど元は人間だから、 俺の一撃でよろめかないはずもない。
そのまま怯んだ彼女の頭に、バットを振り上げた。]
(+138) 2020/10/25(Sun) 22時半頃
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ごめんな
[嫌な音がする。 進を殺した時よりも明確に 俺は人の頭蓋を砕いている。]
ごめん。
[沙良の喉から聞いたこともないような きたない声が出てる。
痛い、助けて、おなかすいた、 そんな風に言っているようにも聞こえたけれど ゾンビは喋れないんだから、全部俺の幻聴だ。
そのまま、大好きだった小さな顔にバットを叩き込む。 こうしないと何度だって蘇ってくる。]
(+139) 2020/10/25(Sun) 22時半頃
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……ほんとに、ごめん
[誰に謝ってるんだろうな。
うめき声さえも聞こえなくなって、 ばたばたと虫みたいに暴れていた手足が かよわく床を掻くだけになっても、 俺はバットを振り下ろした。
これしか、俺が沙良にしてやれることはない。 抱きしめてやることも、キスすることも なんにもできないんだ。 ――ゾンビになってしまうから。]
(+140) 2020/10/25(Sun) 22時半頃
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[クシャミ、と元帥の声が後ろからする。 なに、と投げやりに問い返す。
もう死んでる、と言われて、 ようやく、俺は、沙良の顔を見下ろした。 鳥の巣みたいに散らばる亜麻色の髪。 枯れ枝のようにやせ細った手足に、血濡れた手。 潰れてしまった顔面。
もうぴくりとも動かなかった。]
(+141) 2020/10/25(Sun) 22時半頃
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沙良。大好きだったよ。 天国で進と仲良くして。
……俺は結婚式に呼ばなくていいから。
[ほとんど掠れた声でその亡骸に手を合わせた。
この世に天国と地獄があるなら、 俺は必ず地獄に行くだろう。
その日まで、俺は、2人の死を背負い続けるんだ。**]
(+142) 2020/10/25(Sun) 22時半頃
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