231 獣ノ國 - under the ground -
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僕を、食べる気?
[ レンズ越し。 僕は唇を開いて、彼に声を投げた。 届くかどうかすら不安な声を。―――ヒトの言葉を。 ]**
(147) 2015/07/11(Sat) 02時半頃
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[そう、本当は勘付いていた。 彼女が何故死ぬまで放置されなければならなかったのか。 原罪を唆したといわれる蛇の鱗は、 彼女に「異端」という罪を押し着せたことを。
彼と我とが同じものであったなら、 屹度「外」はもっと優しかったのだろうが。]
[事実から目をそらしながら、誰かの涙を拭う。 他人の涙で袖を濡らし、 彼はただ悲しみを湛えた湖を眺める。
外が怖いのかと問いかければ、 フィリップは 悲しみに、くしゅりと顔をゆがめた後
ふ、と翠の腕をこちらに伸ばしてきた。
背筋が一瞬強張った。拒む事はしなかった。 彼は目を見開いては、すぐに睫を下げて、 聞こえるうわ言のような嘆きに眉尻を下げる。]
(148) 2015/07/11(Sat) 03時頃
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( どうしてそんな「ことをする」? ……でも、そとは兄さんを「奪った」)
[彼はちらり、赤い鸚哥に視線をやる。 あれは本当の「兄」ではないのだろう。恐らくは。 それでも、フィリップは あの生き物に縋らざるをえなかったのか。]
――、 あゝ、…………
[小さなうわ言は、彼の心を大きく抉る。 それは目の前の獣人の腕が 子供のように伸ばされているからかもしれない。]
(『……おれは卵をやぶつた。 愛と悦びとを殺して悲しみと呪ひとにみちた仕事をした。 くらい不愉快なおこなひをした。……』)
[脳裏に過ぎるは一片の詩]
(149) 2015/07/11(Sat) 03時頃
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……すまないな …………ごめんなあ、
[口をついて出たのは謝罪の言葉だった。
こんな場所に閉じ込めたのは他ならぬ人で 彼自身、獣人に自分を許して欲しいとは思っていない。 (それはあまりにもおこがましい願いだ) それなのに、謝罪の言葉しか出ないのは。 こんなにも「外」に怯え、「外」に焦がれる仔の手をとり 「外」に連れ出すことは”ならぬ”としっているから。
( ――檻の中に手を差し伸べすぎてはいけない ) ( 壊れてしまうから ) ( お互いが苦しいだけだから )
冷静に警鐘を鳴らす脳を無視して、 彼は、縋るフィリップの背を片腕で抱くと、 もう片方の掌で、そっとその髪を撫でた。]
(150) 2015/07/11(Sat) 03時頃
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[ 熱が篭れば人と獣の境は曖昧になる。]
『 どうしてそんな顔をしているのかな 』
[問いは鏡のように返る。] [答えは水面のように震える。]
私は、
([平等を掲げた彼女の事を知りながら、 獣人を管理し彼らから平等を奪う施設に勤める。 その矛盾を選んだのは、ただ己が狂っているからだ])
……くるっているから
[ごくごく簡単な理由をこじつけて、唇をゆがめ笑うと、 彼は、ようやく、心の平静を取り戻して]
(151) 2015/07/11(Sat) 03時頃
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そして、なにも、できないから。 君らや他の人が哀しんでいても、 こうしていることしかできないから。
[だから笑っているのだと、 自嘲をひとつ、零した。]
……こんな卑怯な人間に、 泣き顔を曝すのはおやめなさい。 私は君の兄の居場所を知らない。 ――森に帰してやることもまた、できないのだから。
[そう言葉だけで突き放して、 ひとつ、その背を撫でた。*]
(152) 2015/07/11(Sat) 03時頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2015/07/11(Sat) 03時頃
落胤 明之進は、メモを貼った。
2015/07/11(Sat) 03時頃
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[ 伸ばした2つの翆の手は 彼の黒い髪の向こうに隠れて 落とした熱い雫のかわりに いつぶりだかわからぬ「誰かの体温」を拾い上げる。
抱き寄せた「ひと」は 陰鬱な顔をして地面を眺め 彼が見るそこに 輝く小石や硝子はあっただろうか。
それとも、僕がその小石のひとつだろうか。
”ごめんな” と詫びる声>>150は 僕にある種の絶望をくれる。
彼が他でもないヒトであること 森へも還れないこと 兄にも会えぬこと。 すでに痛いほど知っていた筈なのに、 奪われるよりも詫びられるほうが 余程 辛くて。
首元で ひっく、と ひとつ 喉を鳴らした。]
(153) 2015/07/11(Sat) 05時頃
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[ 兄のものではない手が 背中を抱いて 兄のものではない指が 髪を梳いてゆく。>>150
『どうしてそんな顔をしているのか』
居なくなってしまった「兄」に蓋をし続け 姿も記憶も見えなくして、ようやく 穏やかに この白い世界の中で死んだように生きていたのに。
人工の庭で僕に触れた ひんやりとした手が>>75 闇夜に浮かぶ月のような優しい彼の瞳が 僕に 外 と 兄 を 思い出させるから
多分。 ぼくはずっと、 ―――どうかやめてくれと 嘆願していたんだ。]
(154) 2015/07/11(Sat) 05時頃
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[ ヒトよりも高い僕の体温が 境界を埋めて 彼の抱える自戒>>150など想像だにせぬまま 腕のなかの「ひと」に縋りつく。
「ひと」が獣如きに手を差し伸べる理由を問えば 自分は狂っているのだと 歪んだ笑いと共に吐く姿に どこか僕とおなじ「諦め」を感じ取る。
( ……そうでもしなければ 生きてゆけない? )
獣を管理する側のくせ 手を差し伸べて けれど連れてはゆけぬと 手を離す。 それなのに、背中を伝う温度は>>152
――噫、確かに。与えられる優しさは、ひどく狡い。]
(155) 2015/07/11(Sat) 05時頃
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[ ずるり、と 力の入らない両腕を滑らせて 重い音と共に なにもないベッドの上へ落とす。
僕はすっかり腫れてしまった目を向けて ]
……できないから。 できないのだから。
じゃあアキラは なにができるの。 アキラは、何をするために此処に居るの。
……卑怯なのは、ぼくもおなじだ。
[ 兄の記憶と向き合わずに 逃げているんだから。
おやめなさい、と言われてしまったから 今度は 彼と鸚哥から隠れるように、ベッドへ倒れ込み
赤い爪が 白いシーツへ食い込んだ。*]
(156) 2015/07/11(Sat) 05時頃
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センセ! フィル ドウシテ ココニイル? ニイサン! ツレテキテ! ツレテキテ!
[ ベッドの無機質なパイプの上 ] [ 赤い鸚哥は なおも 僕の本心を吐き続ける。**]
(157) 2015/07/11(Sat) 05時頃
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[ひく、としゃくりあげる音がする。 それをなだめるように彼は熱を与え、頭を撫でる。
即席の優しさで取り繕い、 握り締めた拳の指を一本一本を解いて 殴れなくするような卑劣なやり口に、 彼自身反吐が出そうになりながら、 それでも、優しさを与え続ける。>>155]
[赤い鸚哥>>157の言葉が彼の心を抉っていく。 くりかえし、くりかえし、くりかえし。抉っていく。
即席で設置した心のバリケードは今や見るも無残な様子。 内心の汚いものを流さぬよう押し留めるので精一杯]
(158) 2015/07/11(Sat) 08時半頃
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『じゃあアキラは なにができるの。 アキラは、何をするために此処に居るの。 ……卑怯なのは、ぼくもおなじだ。』
[その言葉を皮切りに ベッドへと丸くなるフィリップを見て (離れる己より熱い体温に小さく息をつき)
彼は部屋の床に座り込むと、ベッドの側面に背を預け 立てた片膝に片腕をぞんざいにおいた。 シーツが擦れる音がした。
ふと わらう。]
何をするために、か …………未練だよ。 それも酷く個人的で、自分勝手な未練の為だ。
(159) 2015/07/11(Sat) 08時半頃
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[兄さんをつれてきて、といわれても、 この施設内でフィリップの兄はあの赤い鸚哥しかいない。 ならば、どうしようもない。 彼は息を吐いて、]
君はどうして自分を卑怯だと思う……。
[高らかに唄を歌う姿を思い出しては、 卑怯と云う言葉の似合わぬ男に向けて、 問いをぽつりと落とした。*]
(160) 2015/07/11(Sat) 08時半頃
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― ― [(「わたしはみんなが等しく幸せであれる世界がいい」 )
( ―― 私は、君を人でも獣でもなく、 ただ君としてみていた。 それでは足りないのか。) (私は君を視ているのに) ……浅ましい疑問は、口にすることができなかった。 (彼女に軽蔑されるのが怖かった) だからできるだけそばにいたのだけれど。]
[あの時彼女を引き止められなかった私は、 今ここで獣人達を施設内から逃がさぬよう、 管理人をしている。 けれども、ここの獣人達はあのひとではなく 私自身、これで何が満たされるわけでもない事を よく、知っていた。」
(161) 2015/07/11(Sat) 08時半頃
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[何か高邁な理想ゆえに心を鬼にするでもなく、 偽善ですらなく、未練を引きずる 浅ましき愚劣漢。 その癖獣人達が「外」に焦がれるのを見れば、 その悲痛さに心を揺さぶられる。 ――それでも、彼らを解き放つ事は無い。
( だって、ひきとめなければいってしまうのだろう?)
……。気狂いの所業だ。**]
(162) 2015/07/11(Sat) 08時半頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2015/07/11(Sat) 08時半頃
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そうですね。 風邪でお世話になるのは……不本意です。
[ごめんです、と毒舌を吐きかけて、飲み込んだ。 今現在面倒をかけている私の言うことではないだろう。 いけない。眠気で頭が緩んでいるようだ]
懐かしい、という感覚は私にはわかりませんが。
[懐かしむような思い出が、私にはないから。 しかし、どうやら禁止されている本もあるらしい>>132。随分ずさんなことだと思う。 今私が読んでいる百科事典は、どうなんだろう]
お手数をおかけしました。
[部屋に着くと、辛うじて残っていた理性でそんな謝罪をする。 感謝の言葉は言いたくなかった。 頭を撫でられると眉を寄せて、怪訝そうに一つ瞬き。 不快だった、訳ではない。慣れない感覚だと思っただけだ。それなのに、同時に、目が覚めた時消えてしまったはずの夢の欠片がよぎったような気がしたのだ。 それも、扉を閉めてベッドに倒れこめば、今度こそ跡形もなく消えてしまうのだけれど**]
(163) 2015/07/11(Sat) 10時半頃
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[先生は優しいかおでこちらに語りかける。そこには、ジリヤの言うような"イカレ女医"の姿は無い]
はい。わかりました。
[私にとって、従順である、ということはそれ自体が既に日常だ。
....いや、それ以外のやり方を知らないと言った方が正しいか。それが当たり前の物として育ってきた私には、もうそれ以外の方法は取れない。
だからこそ。マユミや、ジリヤのように、人間に怒りを覚えるようなこともない。私にとって管理されることは、決して負の感情を与えるものではないのだから]
行きましょう。
[そう答えると、先生と並んで歩き出した]
(164) 2015/07/11(Sat) 12時半頃
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――プール――
[ 乱れた調子で聞こえた声>>146に、小さく首を傾げつつ。おれのなまえ。どうしてしってるのか、つまりは、なんてことも。水気の滲む室内に掻き消える。
――ひたりと壁へと寄せる体ははり付けたまま。 “ほんもの”の血のにおいを探るよう、硬い面体ごと顔を近づければ、地上の獣のように嗅ぎこする。]
た…?、――
[ 間。 たべると怪我をする。するのも、させるのも。気をつけなくてはならない。わずかに“マトモ”な頭が、ふらりとその体を後退らせる。我慢、我慢しないと。
――文字のさめはえさを食べても、罰せられたりしないのに。
シャワーヘッドから、はたりと水滴の落ちる音は届いたか。おれの“領分”だ、と、深い宙なんて1度も知らない動物めいた瞳が、面体の下焦点を暈す。
空腹のひとが、湯気のたつご飯をのぞきこむように。*]
おなか、へってて、
(165) 2015/07/11(Sat) 13時半頃
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…たべたら、ダメ?
[ 心底から疑問というように。“きみもいっしょなら、”わかるだろ、と尾の先に触れかかる。
留め具の緩んだ面体がずり、と動いた。この前も「くつわ」を壊し剥がして、ひとにかみついてしまったのだったか。
――しかられる。あのときは弱いところを捻られて、怯んで。“マトモ”にさせられて、
今度しかられたら処分されるだろうか、とパーカーのフードをぱさりと下ろす。空腹はあまいにおいを閉ざしていく。手袋を外しつつ、短く、目と同じに黒いひとの髪を掻き分けて、マスクのベルトを弄った。]
…、はずしてくれる?
[ 手間取れば、面体の下で人と同じに、幼く困ったような顔で問いかける。 過敏すぎる意識は音や作業に散りやすく、管理者であるなら連絡端末の類いは持っていたかもしれないし、使う隙すらあったかもしれない。
――また外されなかったとして、暫くして自分で外し壊せば。まずは、と鋭利な歯先で衣服を噛み剥がし、一息に胴体へかみつこうと。マスクを取り去り、ひとと似た――それでも獣の特徴として、“弱点”の鼻先を無防備に晒したまま。]
(166) 2015/07/11(Sat) 13時半頃
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―→ 第一棟 医療室 ―
[医療室に到着すると、 手早くアマルテアは“薬”の準備を始めた。 毎回サンプルの配合を変えてクラリッサに投与、記録している。 今のところ、彼女で過剰反応が起きたことはない。 クラリッサはアマルテアにとって、優秀な“被験体”だった]
……クラリッサ。 あなた、ここから外に出たいって思わない?
[先程の喧騒とは打って変わって、静謐な時が流れる医療室に。 アマルテアの声は穏やかに響き渡った。 白いカーテン。白い壁。窓から差し込む柔らかな人口光。 ここは、すべてがニセモノめいていて。 でも。クラリッサはここしか知らないのだ、と。 独善的なアマルテアは。それを、ただ不憫に思う]
(167) 2015/07/11(Sat) 14時頃
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[この問いを、“被験体”にするのは何度目だろうか。 あるいは、クラリッサには初めてだったかもしれない]
外には自由があるわ。
[棚から注射器と、遮光性の薬瓶を取り出しながら。 アマルテアは思いを巡らせる。 自分が仕事に行き詰った時。悩んだ時。困った時。 つい口から零れ落ちる、懇願にも似た問い。 自分の信念は間違っていないと、確認したいがための問い]
興味は、ない?
[もしも、“実験”が成功をして。 あなたがヒトになることができれば。あるいは、と**]
(168) 2015/07/11(Sat) 14時頃
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[ひたすらに白い医療室に入れば、先生はすぐに作業を始める。それが私の為なのか、彼女自身の為なのかは分からない。おそらくは彼女自身も分かっていないのだろう。
人工の光も、白いカーテンも、白い壁も。 例えニセモノのようなそれらも、真を知らない者にとっては真実となんら変わりない。
それでも、投げられた問いに私はこう答える]
興味は、あります。
[知らない世界に、興味など無い。
それでも、"先生"が。私に、興味を持っていて欲しいと願うなら。
私の中でそれは、興味を持っていることと同義。私の意思など、所詮その程度のものだ]
私を....ヒトにしてください。
(169) 2015/07/11(Sat) 14時半頃
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……そう、ヒトに。 させてあげる。私が。絶対に。
[クラリッサの口から零れ落ちた言葉>>169は。 アマルテアが最も望んでいた答え。 にっこりと満足げに微笑むと、注射器を手に取った。 彼女は気付けない。クラリッサの真意に。気付こうとしない]
外の世界を。見させてあげる。
[いつか。必ず。 注射器の中で、禍々しい色の液体が煌めいた]
(170) 2015/07/11(Sat) 15時頃
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痛くないわ。大丈夫。
[穏やかな声音の中に、微かな狂気が混じっていた。 この“薬”を投与したとき、 果たしてクラリッサはどういう反応を示すだろう。 成功するだろうか。それとも]
少し我慢してね。
[クラリッサの腕を取り、注射器を刺した。 知的好奇心と、興奮が。自身の中に渦巻いているのが分かる。 薬を投与しを得ると、じっとクラリッサの様子を伺った。 アマルテアにとって“実験”の結果を待つこのときは、 何にも代えがたい瞬間だった**]
(171) 2015/07/11(Sat) 15時頃
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―昔の話―
[10年前、私がここにやってきた時、私は泣き喚き、大暴れし、それはそれは手がつけられない有様だったらしい。そう教えてくれたのは、誰だったか。 過去の自分の中に、そんな激情があったなんて信じられなくて、私にとってどこかその話は他人事めいていた。 薬を打たれて昏倒した私は、その後高熱を出して数日の間寝込み、そして目を覚ました時にはそれまでのことを全く覚えていなかったらしい。 それほどの衝撃を受けたのか、それとも自己防衛本能が働いてそれまでの記憶を自分で封印してしまったのか、それはわからない。 どちらにしても、それは幸せなことだ、と言われた。懐かしみたくなるような幸せな思い出は、覚えていた方がきっと辛いと。だっていくら懐かしんでも、もう帰ることは出来ないから。 そう言われたということは、ここに来る前、きっと私は幸せだったのだろう。 寝込んでいた数日間、うなされた私は何かを口走っていたようだったけれど、そのことについては教えてもらえなかった。きっと、失った記憶に関することなのだと思う。
覚えていないのは幸せなことなのか、それとも不幸せなことなのか、私にはわからない]
(172) 2015/07/11(Sat) 15時半頃
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[差し出した腕に、針が射し込まれる感触。ピストンを押す指の動きに呼応して、体内に薬液が入り込む。
侵入した液体は心臓の鼓動に合わせて全身に拡散し、その効果を発揮し始めた]
く、ぅうう!
[まず私を襲ったのは、猛烈な痛み。薬液が、血管の中で針になったかのように全身を苛む。液が身体に広がるのに合わせて、痛みを感じる範囲も増していった]
あ、あああ....!
[堪え切れず、座っていた椅子から転げ落ちて床を這う私に、頭までもが痛みに侵される。全身が内側から割れてしまいそうな感覚。こちらを見ていたであろう先生の姿が、三重にも四重にも重なって映る。
それでも。もし、彼女が私を心配して、声をかけるようなことがあれば。 痛みの中ででも笑顔を浮かべ、"大丈夫です"と。そう告げるだろう]**
(173) 2015/07/11(Sat) 15時半頃
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いつかどこかのおはなし
あるところに丘がありました。 その丘には一匹のメスのハリネズミが住んでいました。 ハリネズミは愛を求め、他の動物と関わりを持とうとしました。 そして、ハリネズミは自分の丘をおり、谷にやってくるようになりました。 そして、ある晩ハリネズミはつよ〜〜くつよ〜〜く他の動物と抱き合おうとするのですが、彼女のハリが体に刺さってとても痛がったのです。 仕方がないので、二匹の間に距離を置くのですが、愛が欲しいハリネズミは少しでも近くにいたいという思いから近寄ります。 でも近寄るとやっぱりハリが体にささっていたいのです。 そんなこんなを繰り替えしてようやくハリネズミは愛をあきらめる事が出来たのです
(174) 2015/07/11(Sat) 16時半頃
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―第一棟・自室―
[目が覚めたのは、空腹のせいだった。 うつぶせで眠っていた私は、ころりと横向けに転がると、ポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認する。 眠った時間が遅かったから、目を覚ました時間も、いつもより遅い。けれど、まだ夕食にはだいぶ早い時間だ。この時間なら、食堂に行く人も少ないだろう]
今のうち、ね。
[呟いて、私はゆっくり立ち上がる。 自分の姿を見下ろして、そういえば寝間着に着替えていなかったことに気づいた。当然、皺になっている。 まあ、それ以前に、床に座り込んで眠ってしまったりもしたのだし。着替えるべきだろう]
……あ、ふ。
[あくびを漏らしながら着替えを済ませて、私は部屋を後にした**]
(175) 2015/07/11(Sat) 17時頃
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[ 久しく見ていなかった兄の影は なかなか瞼の裏から消えてくれなくて 涙を仕舞えと言われたって 自分勝手に溢れてくる。
きっと 彼は僕に呆れて 立ち上がる衣擦れの音と 戸が閉まる音が頭の後ろからするのだろうと、 白いシーツに埋まって待っていたのに
僕の耳を撫でたのは 直ぐ隣でシーツが擦れる音>>159
くる、と首を回す。 束ねられた黒髪の背中は ふと、わらっていた。
自嘲しながらも 彼が抱える「未練」とは何だろう。
飛んでいってしまった彼女のまぼろしを 今なお 此処で探しているのだろうか。]
(176) 2015/07/11(Sat) 17時半頃
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