253 『はじまりの むら』
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『どーした、坊主。腹でも減ったか』
辛子色のシャツを着たこの男は、村の植木屋サイモン。便利屋ザックとは目つきの悪い親友同士、こちらはザックほど穏やかな気性でもなく、子供たちからはやや恐れられている。仕事の途中か、腰には大きな鋏が提げられ、肩まである長い髪は後ろで括られていた。
『ほれ、弁当食うか。パンしかねーけど うちの婆さま特製の香草パンだ。 なんかに効くらしいぞ、なんだか知らねーが』
適当なことを言いながらサイモンはカルヴィンの横に腰を下ろし、巾着からあまり食欲をそそらない青緑色のパンを取り出し、自分もひとつ齧りながらもうひとつをカルヴィンに差し出した。
(2) 2016/09/17(Sat) 18時半頃
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『しかし、平和だな』
パンを齧りながら、サイモンは呟いた。
『オスカーが出てってから、もうひと月にもなるか。そろそろ噂のひとつも聞こえてきたって良さそうなモンだけどな』
あれ以来、彼の行方は杳として知れない。仕事で近隣の街まで出向く機会のあるサイモンにも、オスカーが今どこでどうしているのかは、風の噂にも聞くことができなかった。
『無沙汰は無事の便り、とは言うが……ザックんとこの爺さんみたいなことになってなきゃいいんだが』
ザックの祖父はこの辺りでは名の知れた盗賊団の頭だったのだが、ダンジョンを探索中に運悪く龍の巣を引き当ててしまった。サイモンやザックが生まれるよりずっと前のことだ。*
(3) 2016/09/17(Sat) 19時頃
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『あ、この話ザックには振るなよ。 平気そうにしてっけどあいつ相当、心配してっから』
ふたつめのパンを平らげて、サイモンは早口に言った。
『んなことよりお前、ガストンのおっさんに剣術習ってんだって?村の周りでウロウロしてたスライムをさっぱり見かけなくなったが、ありゃお前の仕事か。おっさんがアイツは筋がいいって、褒めてたぞ』
村の用心棒、兼、魔除けの結界の番人であるガストンは、若い頃相当に腕の立つ剣士であったらしい。元々は王都の生まれであるという噂もあるが、ともかくいつの頃からか村に流れ着き、今は村の近くに時折現れる魔獣退治を生業としている。
(4) 2016/09/17(Sat) 20時頃
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『良い剣が欲しいなら、隣村に腕の立つ鍛冶屋のダチがいるんだ。なんなら紹介してやるぜ。ちっとばかし値は張るけどな』
サイモンは指で丸を作り、肩をすくめた。それから立ち上がってズボンの埃を払う。
『よし、俺はそろそろ仕事に戻るぜ。……ああ、そうだ。スライムの中によ、たまに体ん中に光る石を持ってるやつがいるんだ。アレかっさばいて拾っとけ。いい値がつくぞ。外から見ても銀色に光ってるから、すぐわかる』
(5) 2016/09/17(Sat) 20時頃
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じゃあな、と手を振り、植木屋は街道を歩いて行った。歩きながら、ガストンの言葉を思い出していた。
"あれは筋がいいぞ、 お 前 さ ん と は 違 っ て な"
ガハハと豪快に笑う元・師範の目の前ではもちろん何も言い返せなかったが。
『クソッ、あンのクソオヤジ……どーせ、俺は才能ありませんでしたよ……トホホ』
夢破れた中年男は、がっくりと肩を落とすのであった。**
(6) 2016/09/17(Sat) 20時頃
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『心配すんなって。あいつぁ強くなるぜ、俺らと違ってさ。おっさんの太鼓判は伊達じゃない。それに』
サイモンはタバサの顔を覗き込むように、自分の顔をぐいと近づけた。
『 俺は、お前の側から離れねえよ』
……が、タバサは意に介さず。サイモンの横をするりと抜けて、カルヴィンの方へ行ってしまった。ついでのように仕事を投げつけて。
『へーい、後で行きやーす……』
(13) 2016/09/18(Sun) 07時半頃
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曇り空の下、辛子色の背中はさらにしょぼくれてしまうのだった。
(14) 2016/09/18(Sun) 08時頃
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