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[どちらにしたって、自分達を追い詰める存在は、]
[ ────殺すしかないのだ。 ]
[『わたしたちが、生き延びるための、方法が。』]
『…ケイト、ドロテアさんと先生の話、聞いてて。』
[音を介さず頭の中に響く声。
立ち去る間際の彼の目が
自分と彼の思考が繋がってしまっている。
それが『どういう』事なのか、少女にはもう分かってしまっていた。
時折脊椎を駆け上がって、強制的に介入する、他人の意識。
それがおそらく「雪鬼に憑かれる」という事なのだろう。
つい先刻まで夢だと思っていた全ては、おそらく曖昧になった記憶の断片で。
認めたくはないけれど、すべて、現実に起こった事なのだ。]
ねえ、……シメオン。
[その場を去った彼に、囁いてみる。届くのかどうかは分からない。
けれど、どうしても、どうしても、不安に思う事があった。
本当は駆け寄って、彼の瞳を見て確かめたい。けれど、そうすることが今の状況を悪くするのが分かっているから。]
あなたは、私の声を聞いてるあなたは、『シメオン』なのよね?
[私が知ってる、私を知ってる、あなたなのよね?
祈るような気持ちのその問いに、果たして答える声はあったのか。]**
【人】 洗濯婦 ドロシーそう……。 (151) 2015/05/28(Thu) 18時頃 |
【人】 洗濯婦 ドロシー知っておいてほしいの。 (152) 2015/05/28(Thu) 18時頃 |
【人】 洗濯婦 ドロシーそれから、……それから、こっちも、重たいのだけど。 (153) 2015/05/28(Thu) 18時頃 |
【人】 洗濯婦 ドロシー……どうして、って思うかしら。 (154) 2015/05/28(Thu) 18時頃 |
【人】 洗濯婦 ドロシー……これで、大事なことは、全部のはず。 (155) 2015/05/28(Thu) 18時頃 |
[ 殺さなければ。
脅迫概念のように頭に渦巻く一文字を打破する声があった。 ]
俺は、……俺だよ。
[大衆の前で言葉を浴びせながら、胸の内で囁く。
意図などしていないのに掠れた声色は自分の精神状態に影響しているのだろうか。分からない。]
………なぁ。
[ ケイト。
あれ程、馬が合わないと思っていた人物に呼びかける声は情けない。]
お腹が、……空いたんだ。
[何でだろう。
絶望に呟きは溶けていく。
やり切れなさの混ざった囁き。
虚栄心の合間に潜り込む思考は爪先から忍び寄り、嗤った。]
『 キミの聞いた“おはなし”を教えてよ。
今日は誰を仕合わせに仕立ててあげよう? 』*
『 ────みつけたわ、「あなた」。 』
[ざらざらと思考のノイズがまた背後から忍び寄る。
能力者。邪魔者。
目の前の洗濯婦を見詰める視界が赤く染まってゆく。
最初の頃のように、割り込まれたという感覚は無かった。混じり合い、端から、溶け合っていく、感情。]
『 能力者は、ご婦人よ。
──でも、ね。小賢しい、せんせい。
コレも、生かしておいては、きっと邪魔だわ。 』
[とろとろと、蜜のような甘さで謳う声。
どうする?「あなた」の、望むまま。
けれど、ざらつく獣の感触は、ふいに聞こえた弱々しい声に一瞬で霧散した。
ケイト。名前を呼ばれる。お腹が、空いたんだ。
なんて悲しそうな、やり切れない声。
空気を震わすことなく伝わる筈の声なのに、少女の唇が戦慄く。シメオン。]
(……私は、お姫様なんかになりたいんじゃ、ない。)
[彼には伝えない言葉と、決意。]
あなたは、どう思う?
真実に一番近い誰かに──今夜、『会いに』いきましょう。
[それが、彼女の意思で吐かれた言葉だと知るのは彼女だけ。]*
[ そう。
“何も知らないふり”をしている。 ]
[ 唐突に紛れ込む声はもうすっかりと耳に馴染んでいた。
周囲の喧騒が何処か遠くに聞こえる。
脳に直接語りかける音に瞬きをやめた。]
『 …そう。「先生」……? 』
あの人は“昔から勘が鋭いから”。
[ どうしようか。
「キミ」の望むままではあるけれど、その情報を知り得るのは、婦人が能力者だと知るのは、当人と先生と───キミだ。]
『 本物かどうかは分からないけれど、肌に触れただけで人かどうか見極めることのできる男もいいんじゃないかな。 』
[大衆の前で公言した男だ。
その分、失敗するリスクもかね揃えてはいるけれど。
意識がしっかりと附着する間際まで、鬼は嗤っていた。]
[憔悴仕切った声は弱々しい。
誰かを疑うばかりで、変に視線を集めてしまっただけに思える。
このままなら、遅かれ早かれ命を落とすのは、]
………情けないな。
[ケイトの反応に薄ら笑い。
地につく足は冷えてきている。
緊張によるものなのか、それとも雪鬼としての能力によるものなのかは分からなくなってきている。 ]
………『 先生にご挨拶に行こうか。 』
[答えてから、息が詰まったことを自覚した。]
[ ──────俺は雪鬼だから。 ]
『 肌に触れただけで、わたしたちを嗅ぎ分けるおとこ 』
[ざわり、ノイズがまた混じる。
能力者に反応しているのか。強烈な憎悪が腹の底を焼く感覚。]
『 なんて邪魔者。はやく、はやく、──喰ってしまいたいわ 』
[赤い囁きの合間を縫って、思考する。
守護者が誰なのかは分からない。けれど、アランが公言をした以上、そこを守護する可能性は高いのかもしれない。]
……せんせいの、ポケットにね。
メモが、入ってるの。
おばさまが、魂を見分ける人だって。
[その呼び方が、彼女本来のものであったと彼は気付いただろうか。
その必要は無いのに、息を吸って、吐いて。震えを押し殺した。]
だから、それさえ見つかれば、知ってるのは『私だけじゃなくなる』。
大丈夫よ、なんてこと、無いわ。
[叔父を手に掛けたその日と同じ言葉で、少女は彼の背を押すのだった。]
【人】 洗濯婦 ドロシー……考えたわ。 (250) 2015/05/29(Fri) 00時半頃 |
【人】 洗濯婦 ドロシー[なにを聞かされるよりも前に、人の死を知る。 (253) 2015/05/29(Fri) 00時半頃 |
【人】 洗濯婦 ドロシー[ただ。ケイトの提案を受ければ、少しだけ躊躇う。 (254) 2015/05/29(Fri) 00時半頃 |
【人】 洗濯婦 ドロシー[紙に名前を書く。 (258) 2015/05/29(Fri) 01時頃 |
【人】 洗濯婦 ドロシー[血の繋がった少年を見つめる。 (260) 2015/05/29(Fri) 01時頃 |
[ ケイトの声が聞こえる。
よく知った口調は、顔と顔を合わせていない筈なのに鮮明にその人を想像出来た。
だが、表情だけはうまく描けないのだ。
自分の知るケイトの顔は、泣き顔と、怒った顔と、澄ました顔だったから。]
………嘘つけ。
あんなに、泣いてた癖に。
[けれど、実の叔父の死に涙に暮れた姿を忘れやしない。
それさえも、もしかしたら嘘なのだとしても、]
………、ごめん。
[また、自分の言葉がどういった意味を放つのか、自覚していても。
ここで“知らないふり”をするのは最後だ。]
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