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─回想・数年前─
[出て行く者はあっても、戻ってくる者は、少ない。
それがこの村では在り来たりと言えば
在り来たりなことではあった。
だが、やはり誰が出て行くにしても、悲しむ姿は数は異なれど生じた。
自分よりも三つは歳下の女の子。
ケイトもその一人だった。
おとなしくて本ばかり読んで、遊びに誘っても、ほとんど頷いてくれやしない。
つまらない相手だと思っていた。
日に焼けない白い肌も、好きにはなれないと。
でも、それが。
涙に濡れて反射する様を見た。
残ったのは気紛れ。
腕を掴んだのも、…きっと。]*
[ 生憎にも空は晴れていた。
小さな丘から眺める景色は自然に溢れていて、その間を走る鉄の塊を見送っていた。
ちいさくて、あたたかくて、きずのないきれいな手のひらを。
包み込んでいたことは、覚えている。
────だから。]
似合わないよ。
[あの時、彼女を傷つけた言葉と同じものを投げかける。
だが、何処か声色が大人しいことに彼女は気付いただろうか。
反応がどんなものにしても、掴んでいた腕を離す。
代わりに、指を滑らせて隙間を縫うようにして絡め合わせる。
この物語の行き付く場所が何処かは、分からないけれど。]
行こう、………ふたりで。*
【人】 教え子 シメオン
(98) 2015/05/30(Sat) 02時頃 |
『 嘘吐きね。ケイト。
ふふ。でも、そうね。「わたしたち」の牙がたまたま通ったなんて、村人は想像できるかしら? 』
[もうすっかり耳に馴染んだ赤い囁き。
今ならわかる。それは、自分と同じ声をしている。
そうだ、私は嘘吐きだ。
真実から目を逸らさせようと、他の誰かを平気で犠牲にしようとしている。]
(…でも、それがなに?)
[どこか冴えた瞳で少女は思う。
みんな同じことをしている。信じる≠ネんて綺麗事を口にして、疑わしきを理由にして。自分と自分に都合のいい者だけを護る為に、人の身でありながら人を殺したのだ。]
悪い子のとろこには、雪鬼が来る≠でしょう。
だったら、仕方ないじゃない。
悪い子≠ェみんな居なくならなければ、消えてくれないんでしょう?あなたも、あの人の中にいる誰かも──
(…私、も。)
[自分たちだって、生き物の肉を食う。
人間は、それどころか、食べもしない相手の命を奪うことすらする。
今ここで行われている駆け引きも、命を奪う手段が違うだけだ。
雪鬼だろうと、殺人鬼だろうと、同じ状況下なら人間同士の殺し合いはいずれ行われていたかもしれない。]
[昨夜、少女は自分の身を危険に晒すのを厭わないつもりだった。
婦人ががこっそりと守護者である事を告げた以上、あの場に居た二人の口を封じてしまえば自分が疑われるのは確実だろう。
だが、そうすればあの場を去った金髪の青年に疑惑が掛かる可能性は下がる。
それならそれで、いいと。だから、ランタン職人に会いに行こうと彼を誘ったのだ。しかし。]
……最初の、日と。昨日と。
結局二回も、守ってもらっちゃったもの。
[叔父が自分の首を絞めたとき。
守護者に護られているかもしれないアランを、彼が選んだとき。
こんな酷い状況なのに、少しだけ自惚れるのは、許されるだろうか。]
もう十分だから。
だから今度は、あなたを私に守らせてね。
[昨晩、指を絡めた手は、確かに温かかった。
議論の続く酒場のテーブルの下で、自分の手をそうっと握る。
あの感触を忘れないように記憶に刻んで、少女は疑心暗鬼に溺れる人々の顔を見渡し。
決意を揺らさぬ為に、赤く濡れた声で囁きかける。]
「『 さあ。今日はどの悪い子≠ノ会いに行く? 』」
[重なった声は、確かに少女の意思を持って放たれた。
今夜ケツを凍らされるのも、ケツを焼かれるのも。人間、でなくてはならないのだ。
その為に、彼女は静かに人々へ疑惑の種を撒く。]*
【人】 教え子 シメオン
(138) 2015/05/30(Sat) 21時半頃 |
[誰かの名前が上がり、その度に可能性を掲げていく。
“殺すべきか。生かせるべきか。”
[各々の独断と偏見で贄を選ぶのだ。
勢いを増す争論。
淡々と推理するもの。
怯える者。立ち向かう者。
ふたりとないヒトが、互いに泥を塗りたくっていく度に心臓が凍るような思いになる。]
[ ─────雪鬼は記憶を持つ。
その人のまま本性を、鬼に変えるのだ、と。
─────取り憑かれた奴はもう『入れ替わっちまってる』んだけど当人は自覚がない。
完璧にそいつであるかのように振る舞うんだよ。]
「『 さあ。今日はどの悪い子≠ノ会いに行く? 』」
[悪い子。わるいこ。わるい、こ。
それは誰だ。
人を殺めたことか。嘘を吐いたことか。それとも。知らないふりをしていることか。
誰なんだろう。
罪を背負うべきものは。
そして、俺は────、]
「 護り手は、決して脅威じゃない。
リーも、味方につけられるなら大きな戦力になる。
何しろお墨付きなんだから。
ただ、ドロテアさんの結果次第では次に容疑がかかる可能性がある。
………ケツを焼くのも殺すのも、俺たちが疑われ過ぎない位置。 」
[無慈悲にも囁く声に温度はない。
目尻が濡れることも、ない。
もしかしたら、ケツを凍らせる度にその破片ごと瞼の裏側に飲み込んでしまったのかもしれない。]
「 頭が冴えるという意味なら、先生だ。
確実に一から芽をとるなら、オスカー。
大丈夫。みんな人をころした人殺しだからね。
「『悪い子は、みんな罰を受けないと。』」
【人】 教え子 シメオン
(158) 2015/05/30(Sat) 23時頃 |
「 そうね。確かに守護者はまだ子供。大した脅威には、成り得ない。 」
[背中にぴったりと張り付いた獣の声が、耳元で囁く。
無意識に、少女はテーブルの下の手に力を込める。忘れないように、確かめて。]
…あの子がおばさまを護るのなら、今夜はあの子でもいい、と思う。
[す、と細められる目。
まだ15歳の、年若い狩人の少年。
その肩に押し掛かる重圧は、どれ程のものだろう。
それでも。馬鹿な子。と、思う。
それが逆恨みなのは、分かっている。
彼に昨夜放った恨み言は、確かに本心でもあった。]
あなただったら。
あなたとアランさんがいたら、『わたし』を止められたかもしれないのに。
[小さな囁きが、テーブル向こうの彼に届いたか馬鹿な分からない。]
【人】 教え子 シメオン
(175) 2015/05/30(Sat) 23時半頃 |
【人】 教え子 シメオン
(176) 2015/05/30(Sat) 23時半頃 |
[守護者のケツが凍ったら、余所者の少女はどう思うのだろう。
仄かな恋心が、妬ましいのかもしれない。
なんの説得力もなく結ばれる弱い信頼が、羨ましいのかもしれない。
その結束を砕いてしまいたいと思うのは、確かに背後の獣だった筈なのに。
今の少女には、もうそれが自分の声なのか他人の声なのかが、分からない。]
大切なものが、あるの。
もうそれしか、無いの。いいえ、違う。
私、最初から持ってなかった。だから、手に入れたものを離したくないのよ。絶対。ぜったいに。
[誰かの魂が実を結んだ果実を口にするたび、自分が狂っていくのが分かる。それでも、止めようがない。
止められないのだ。それが出来るものは、昨夜。そして、今夜、消えてしまう。]
────シメオン。
オスカーに会いにいきましょう。
[言い切った声に、迷いは、無い。]*
【人】 教え子 シメオン
(183) 2015/05/31(Sun) 00時頃 |
[たとえ話ほど、キリのないものはない。]
なるべくしてなったんだよ。
……そう思わないと、生きていられない。
[どうして。こんなことって。
二人して零した言葉。
塩辛い涙を頬に滑らせてまだ数日だというのに、随分と長い間こうしていたような感覚。
息を吐いた。重苦しく太い息。
一度、指先に力を入れる。
空っぽの手のひらに、収まるものは、ない。
でもまだ覚えてはいる。
怯えているだけではなくて、自分を支え押してくれた彼女の指先の名残が。
それだけで、今は───……]
『 嘘吐き 』
[誰かの命を奪う腕。
それが、誰かの命を救う腕ならば。
もしも話は不毛だ。
分かっている。分かっている。だけど。
堂々と胸を張って、護れたのなら?]
困るんだよ、オスカー。
………一人でも、護られたら、さぁ。
[冷ややかな猫撫で声。
魂を喰らう度に麻痺する理性と罪悪感とは引き換えに、生まれたのは、羨望。]
いいよ。ケイト。
オスカーはアラン兄を見殺しにしたんだから、…せっかく人を護れる力があるのに。
可哀想だなぁ。………好きな女の子だっていただろうに。
[ 呟けば静かにほくそ笑んで、 ]
でも、そんな腕はいらない。
綺麗事なんて、聞きたくない。
[言い切れば、一人の名を口にする。]
…ジリヤに入れるよ。
せめて、人の手で。*
【人】 教え子 シメオン
(215) 2015/05/31(Sun) 01時頃 |
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