194 花籠遊里
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[ただ黙したまま、頭を垂れたまま。
面白がってか協力的なのか、よく解らないままだったが、望みが叶うのなら何でも構わない。
ただ黙って降り積もる紙吹雪をかき集め拾い集め。
藤の間、には流石に肩を揺らし反応を示すが。
それ以上花主様を楽しませられるような事は無かっただろう。]
……できますとも。
鮮やかな色彩の花にも、朝露を纏った清らかで美しい花にも。
劣らぬ程見事に咲き乱れてみせましょう。
花主様が折角用意してくれた場なのですから。
[意地の悪い指示に、従う以外の選択肢は無く]
本当に、ご覧頂けていないと……?
貴方様のご命令、にて。
男、として、役割を果たせる大きさに育ちました。
[は、と熱の篭る息を吐き。
言われる通りに、指先に雫を掬い下に乗せる。]
甘い蜜とは程遠い味、ですね。
[知っている。
嘲笑じみて歪む唇。
それが自分にか、それとも目の前の主へのものなのか、認識することも拒み。
ぬるついた欲情から逃げ出したく思うのに、それを許さぬ冷えた言葉に、指先は止まる。]
男としての役割?
[男は単語を拾い上げる。
歪んだ唇が開いて、嗤う。]
くふっ
ふ、は、ははは!!
笑わせることだねえ。
“男としての”?
違うだろう?
[ぎしりと音立て、立ち上がる。
蛇が離れた揺り籠が揺れる。]
[眉根による皺に這う舌。
歪め歪めと、言葉が丁助を締め付ける。]
お前が望んでいるのは。
組み敷かれ、
尻の孔を突かれ、
淫らに喘ぎ、
女のように果てること。
そうだろう?
[舌は這う這う。
耳を嬲り、首筋に歯を立てて
朱の咬み痕を痛みと共に残し。]
甘い蜜でなければ、苦い毒かな?
[氷のように冷たい指先。
触れるのは熱ではなく、
扱くのをやめたその手へ。]
果てるなとは言ったが、休めとは言っていないよ?
さあ、お続け。
私が手伝いをしてやろう。
[根本を握るなどしてやらぬ。
休む指先をそっと撫で、動かさせ。
声をお聞かせと、耳に囁く。]
[近付く宵闇色に、焔は半歩後ずさる。
堪えるのが花としての生き様か。
触れる距離に飲み込まれ、記憶に焼け付いた痕が身体を強張らせた。]
決して、そのような……ッ。
[否定は僅かに悲鳴の音色を帯びる。
淫靡に委ね始めるべきまで張った熱が、怯えに急速に包まれて、混乱する。
笑みは薄れ、侵食する水音に跳ね、首筋への痛みに息を呑み、唾液に濡れた眉根をさらに寄せ。]
……手伝い、など、
花、主様、お、やめください……
[肌に触れる黒い絹さえ冷えて感じる。
別の生き物のような指先に動かされ、熱くなり過ぎた全身が震える。
羞恥と快楽に上がる小さな声が、花主様の耳元へ。
余裕は剥がれ、剥がされて。]
あ、……あっ、駄目です、
花主、さ、まっ、もう……
[退路は絶たぬ。
けれども逃がさぬ。
否定紡ぐ口許に笑みは消え、
本来の“丁助”が露にされていく。]
素直で可愛い、丁助。
ほうら、男に見られながら
ほうら、男に詰られながら
ほうら、己の芯を己で持って
お前の熱はどうなっている?
[下部からも耳からも犯すは水音。
やがて堪えきれず飛沫をあげるか。]
[果てたのなら、リヤサに白が飛び散ろう。
厭わず、構わず。
次には果てたばかりの肉棒に直に触れ。]
果てていいなんて誰が言った?
初めも我慢ならずに吐き出していたなあ。
その後、私に突かれて狂い悶えたのだったか。
けれども、あの時は甘やかした。
今日はちゃんと“仕置き”が必要だ。
[そうして落とす、優しい口付け。
啄み、吸い、絡めては嘗め。
まるで愛しいものに落とすそれ。]
さあ、丁助。
私によおく見えるよう。
―――机に乗って、足をお開き。
[揺り椅子には座らず。
こんこんと重厚な机を鳴らす。
自ら座れ、自ら開け。
深く濁った闇夜が見詰める。]
や……ぁっ、あ……
素直なん、かじゃ……
あぅ、あつくかた、の……が、もう……ッ!
[いやだと頭を振り、蕩けた声を響かせる。
身を震わせ、白に弾けた熱が黒い布地を汚す。
呆けていられたのは僅かな合間。
白濁が垂れたものに触れ、冷えた指先が音を立てる。]
もうし、わけ……ご、ざ、ませ……
[舌を絡ませ、黒に触れ、思い出す。
唾液の甘さ。
受け入れる絶望。
弄ばれる悦び。
抗う感情と堕ちる身体が鬩ぐ。
そして狡猾に、自らに対して理由を差し出すのだ。
"望まれたから従うしかない"のだと。]
[布団の上では決して無い感触の上に腰掛け、おずおずと足を広げる。
恥らいと共にあるもう一つの自分から目を背けながら。]
……丁を、躾けてくださいませ、花主様。
[着物を肌蹴けさせ。
萎えぬ中心を見せるよう腰を浮かせ。
笑みを削ぎ落とすかのように、切なげな貌が媚を吐く。]
[今に還るは、強請る声。
自分を躾けろと足開く姿。
そこに咲く色は、朱。
揺れくゆる、焔。]
お前は、“丁”。
私の可愛い、“ちょう”。
[狡猾に理由を差し出しては
色を重ねているのだと言い聞かす。
そこにある色が別と分かりながら。
二度と狂い咲かぬよう。]
[懐から取り出すは、豪奢な万年筆。
丸みを帯びた細い棒。
先端汚した蜜を絡めとり、
開かれた足の奥へと滑り込ませ。]
さあ、自分で動かしてごらん。
ほぐすついでだ、できるだろう?
お前が飲み込むそれは
私が普段使っているものだよ?
ペン一本、すぐに飲み込むはしたなさよ。
中はどんなふうに締め付けている?
[言葉で詰り、行為で嬲り。
自らで動かせと手を離す。]
お前が自ら欲しいというまでだ。
見ていてあげよう。
私の可愛い―――…
[身体は花の所業に染まり、抵抗無く細いものを飲み込んだ。
白に濡れた先端は、面白いほどに滑る。
与えられた其れを握り、くちりくちりと淫音を奏で。]
形……を、覚えるよう、に。
ナカ、が、ッ……
きゅうと、なって……
[自らの身体を知る指先が、刺激を求め揺れ動く。
はしたなく、快楽に浸るべく。
嬌声を滲ませながら。]
っ……
嫌だ、嫌です、足りません……
このようなものでは、もう。
[満足できぬ身体なのです。
堪え切れずに、根を上げるのは、きっとすぐの事。
再び熱をもたげる雄から、とろりと蜜を滴らせ。
まるで涙のように。
認め、腕を伸ばし、求めたのは、――。]
[ けれど、僕は あの御方に逢うことが出来たのです。 ]
おかあさんのように
ぼくを
おいて、おいていかないで。
いいこにするから
わらっているから
なかないから。
はしたない、淫らな“ちょう”よ。
十分喜んでいるというのに、足らんと言うかい?
欲張りなものだねえ。
[嬌声滲ませ揺れ動く体。
痴態を晒す、焔花。
中を犯すは人の熱でなく、
無機質で冷ややかな万年筆。
男はゆらりと立ち上がる。
蝶が花を買い付けに訪れたなら
その秘所晒すように言いつけよう。
時には指先で溢れる蜜を掬い上げ。
喚く口の中へと運んでやろう。]
[知っている。
重ねる色が違うこと。
知っている。
造花の振りを望むこと。
―――“私”と“お前”は背中合わせ。
向かい合うことなど在りはしない。
あってはならない。
“ちょう”になりたい男と。
“花主”たる男なのだから。]
―――おいで、丁助。
[おいでと言いながら。
圧し入る熱は硬く。
初日花開かせたのと同じよう。
否、それよりも荒さは増そう。]
丁助。
[耳に落とす冷たい声。
氷の微笑は、歪んだ想い。]
“ちょう”。
[重ね合わせてすり合わせ。
穿ち貫いては、内へと爆ぜる。]
[雁字搦めの錆びた楔。
幾度も打ちつけ。
花を *手折る*]
あゝ。
煩わしさなんて、滅相もありません。
『花』でいられると謂うのなら。
僕はなんでもいたしましょう。
[その時の僕はどんな顔をしていたのでしょう。]
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