223 豊葦原の花祭
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[一分。一秒。
長く咲きたい。
それは淡墨桜の望みだった。
散ってしまうのは、終わりが来るのは、どうしたって仕方が無い。そういう風に出来ているから。
だが、散ってしまえば自分の姿は人目からは掻き消えてしまう。
理由なんて分からない。けれど、葉桜や、落ち葉や、冬枯れの桜を愛でる者などそうは居ない。
恐らくそういう事なのだ。
そういう、役割、なのだろう。と。
だからこそ、一秒、一瞬、ひと目でも。長く咲いていたかった。散ってしまうのは、終わってしまうのは、仕方が無いことだ。
仕方が無い、けれど、]
[死というものがなんなのか、木である己には分からない。
だから、葉桜の夏も、落ち葉の秋も、木枯らしの冬も。待ち続けた。
途中、違う場所に植え替えられる事になったのは、とても困ったけれど。どうすることも出来ないから、せめて人目につくよう、大きく育ては良いと思った。
慎重に枝葉と根を伸ばし、光を沢山浴びて、色を幹の内に溜め込み、春には精一杯、美しく。
一番きれいに咲いたなら、己を見間違えずにきっと見付けてくれる。
だってあのひとは帰ってくると言ったのだ。
それは、己がこの世に生じて一番最初の約束だったのだ。
そうやって帰りを待つ間に、気が付けばたくさんの人との約束が積み上がっていた。
また来年。
また来年。
きっと見に来よう。
果たされる約束と、果たされない約束。幾重にも積み重なって、そうしてとうとう古木と呼ばれるほど年輪が重なった頃。
自分が『何』なのか、ようやく気が付いた。]
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