224 Cнег дьявол〜凍ったケツ村〜
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―???・4人目と、ひとり―
[パキン。
もう何度目だろう。
凍り付いた時間の中で少女は立ち尽くす。ゴトン、と重たい音がして、煙を吐き出す途中の銃が床へと落ちた。
同時に、少女の膝が勝手に、折れる。
選べる手段は他になかったのか?
ランタン職人が言った通り、その場で残りを撃ってしまえば、彼を助けることは出来たんじゃないのか。
自問自答が脳を巡るも、体の内に溶け込んだ獣が言うのだ。『 ルールよ、ケイト。 』そう。何故だか、そのルールに逆らう思考が、生まれない。
膝を着いたすぐ傍に、もうこの凍った時間の中で動けなくなった青年の身体。
手を伸ばして、髪を、頬を、そっと撫でてみる。]
……すこし、まってて。
あなたの魂を、他の誰にも見せたりしない、から。
[手のひらで瞼を降ろして、幽鬼のように立ち上がる。
その足で向かった先は————熟女のケツ。]
メルヤさんの方が、おいしそうなんだけれど。
——困るの。あの人が『何』か、ペラペラ喋られるのは。
[細い腕が、氷の刃となって躊躇なく熟女のケツに突き込まれる。引き裂かれたケツから引き抜かれた果実が、ぐしゅりと潰れそうに柔らかいのは熟女ゆえか。
パキン。未だ立ったままの夫人のケツ周りに、氷の欠片と冷気が纏い付く。
時間が溶け出すのと反比例して、彼女のケツは凍り始めるだろう。
済んでしまえばそちらには一瞥もくれず、手の中の果実をひと口、齧る。
どこかだらしがない甘さと舌に残る苦みは、甥の死を引き金にした恨みの味だろうか。
ブーツを鳴らして、床の上の青年のそばに戻る。
傍らに跪くと、その口元に熟れた桃の実を寄せた。]
シメオン。…食べて…?
[優しく、労わるような声音。
無理なのも、無駄なのも、分からない筈がない。自ら命を奪った青年が、動く事は二度と無い。
自然、手に籠った力で、果実がぐしゅりと潰れる。
『泣き虫ケイト』。
いつか呼ばれた声が聞こえた気がして、喉の震えと目頭の熱さを必死でやり過ごした。
泣く資格なんて、ない。せめて、すべてを終えるまでは。
血の気の失せた青年の唇に落ちた果汁を指の腹でそうっと拭う。
舌先で舐め取ってから、雪鬼の少女は、しっかりと床を踏みしめ立ち上がった。]*
[喉がひり付く。握った拳が痛い。
それでも、指の間に残るあの指の感触を、忘れてない。
『諦めないで、騙すんだ』
彼がそう言ったから。
彼の命を奪った自分は、彼に守られた自分は、そう、しなくちゃいけない。]
それこそ、あなたに分かるはずなんて、ない。
[もう自分と獣の区別もつかなくなった赤い思考で、少女は嗤う。]
寂しい?悲しい?────私は、
結局、なにも出来なくて、ごめんなさい。頑張ってみたけど、ひとりじゃ、やっぱりダメみたい。
[もう聞く者のいない赤い闇へ語りかける。
もうすぐだ。もうすぐ、彼のそばへ、行ける。
目を閉じると、克明に思い出せる。
この三年、土曜日の午後に、ほとんど毎週登った駅の東の丘。
あの丘で会おう。
最後に聞こえたのは、別れじゃなくて再会の約束だった。
果たされるなら、どんなに良いだろう。もう一度、小さかったあの頃みたいに、手を繋いで。]
(ああ、でも。叶うなら、)
[そうして少女は、もうすっかり馴染んでしまった呼び掛けを、最期にもう一度、*繰り返す。*]
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