207 Werewolves of PIRATE SHIP-2-
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ギリ―、お前は死ぬな。
[自分の肩に刺さったナイフの事は黙ったまま。
もうこの船の秩序は壊れるだろう。
その時、船長の傍にいる事が出来るのは、きっと。]
お前しかいないだろう。
[意識を手放した男の耳を撫でた。
毒の治療もしない自分は……きっと。]
……はあ。
[グレッグのことを殺してしまったと、溜息を吐く。
ホレーショーはきっと私のことを憎んでいるだろう。
だが、しかしこれでミナカが助かるなら。
……物静かな豹からの聲が聞こえないことには、まだ気づかない。]
ヴェラ、そちらの方はどうなった。
返事をしろ。
[先ほど煩い声がどうのと言っていたのを
最後に聲が聞こえない。
確かにヴェラのこちらを刺す冷たい瞳には
いつ裏切られるとも知れない恐怖を覚えてはいた。
だが仮にも同族だ。
いつか彼のことを仲間と言える日が来るのではないかと、
思っていた……]
[ギリ―の治療をしながら船長の聲を思い出す。
そしてギリ―の行動も船内の惨状も。
どれも浅はかな自分の行動が原因だ。
切り捨てる事をしない船長やギリ―、そして単に慣れ合いを嫌い
我関せずなのかも知れないが、だんまりを続けてくれたヴェラ。
彼らに報いなければと、ただおろおろする心を叱咤する。]
ギリ―。死ぬなよ。
[その米神を軽く撫で、溜息を吐いた船長に頭を下げた。]
申し訳ありませんでした。
[あなたにそんな顔をさせた事。]
あんたもギリ―も。護るから。
[どんな形であれ、全力で。
左肩がずくりと痛んだが、笑みだけは変えずに。]
ヴェラも……って……返事が……。
[彼は護る事も護らせる事もしないだろうと、判っていたが。
それでも少しでも歩み寄れたら。
そう思っていた相手が、船長の聲に答えない事に首を傾げた。]
[大丈夫だと思いながらも、胸騒ぎは止まらなかった。]
あんた本当に父親の様だ……。
[黒指輪の呪いかどうかは判らないが、
ヒトで無くなった今が絶望でも恐怖でも無い、全く違う姿になった。
元々それを隠して耐えていただけなのかも知れないが]
大丈夫。あんたのギリ―は生きる。
[ポン、と初めてその肩を叩いた。]
……ニコラスと、ヴェラが……殺された。
[第二甲板で知った事実を、紅い聲は絶句しながらも告げる**]
父親か……。
[肩に置かれた感触に、30年以上前もそうやって父との触れ合いがあったと思い起こす。
少年の名はシャルル・ド・ポンメルシー。
文学をこよなく愛し武芸に長けた内気なそばかすが目立つ愛らしい少年であった。
戯れに芝居などやってみた時には「まるで何かに取り憑かれたかのようだ」と評される別人のような演技を見せることが取り柄であった。
裕福な貴族の家に生まれ優しい母と父に囲まれ少年は幸福であった。……両親が流行病に倒れるその日までは。
両親が死んだ後少年の家は彼の叔父に乗っ取られた。
少年の命は暗闇の内に密かに葬られようとした。
命からがら逃げ延びた少年が辿り着いたのは
一隻の船であった。絶望の髑髏を掲げた。]
[少年はその絶望に自分がそぐうように自らの顔を白粉で塗りたくった。道化を演じている間は自分は恐怖を覚えないでいられるだろうと分かっていたから。
少年の望みは復讐と家の復興。
力と財を得ることが必要だった。
血反吐を吐くような努力をして強くなった。
手っ取り早く権力を得る為に恐怖によって海賊たちを支配していった。
でも、そんなものは長年を生きる間にどうでもよくなっていった。最初から私の欲しかったものは力でも富でもなく復讐でもなく。
安心のできる居場所と家族だったんだ。]
ニコラスとヴェラが……そうか。
[ミナカからの聲に私は顔を歪めた。
私は纏う闇に願いを込めて生きてきた。
生きていればこの先に何かが待っているのではないかと。
その末に起きたこの人狼騒動。
それが私に齎すのは絶望か、希望か。
ただ、瞼の裏に焼き付いた紅い月に祈った。
どうか……と。]
[この状況でグレッグの匂いのするものを持っているとなると、解毒剤か毒そのものだろう。
この船大工が毒という手段を好むような性格だった覚えはないから、解毒剤か……。]
ヴェラ……あんた程の奴が何でこんな事に?
[生き残るとすれば、きっとヴェラだろうとある種確信を持っていた。
情や仲間に心揺さぶられず、孤高に生きて来た彼の経験値と
強さを考えれば当然の様に思えた。
だが目の前のヴェラはその身を変えている。
何が彼をそこまで昂らせたのか判らないまま。]
[こうなった以上、ヴェラに全てを擦り付けて
大人しく身を潜めていれば人狼騒動は過ぎたかもしれない。
だが口にしなかったのは、彼の孤高の強さと美しさを
穢す様な気がしたから。
そして始まった死の連鎖は人狼騒動が終わったとしても
続く様な気がしたから。]
……正解だ。この馬鹿。
[もう転がる様に、人か自分達、どちらかが潰えるまで
殺し合うしかない。
その最初となった事に、少しだけ悔しさを混ぜて悪態を吐く。]
獅子を、殺す。
[無意識か。聲は覚悟の言葉を落とす。]
……船長…ギリ―……。俺は、あんた達の傍を居場所にしたい。
[セシルに口にした事は事実だ。
だが今は、この船よりも居場所と思う場所があると。]
船長!?
[不意に聞こえた思い詰めた聲に、思わず姿を求めてしまった。]
あんたなら無事だと…信じてる。
[姿が無いのは当たり前だと、我に返り。
祈りだけを彼に返す。]
じゃあな……グレッグ。
[扉と共に彼から目を離さなかった瞼を閉じる**]
居場所、帰って良イ場所
ミナカ カシラ、帰る
おれ、待つ
[医務室で大人しく板目を見つめていた時だったか。
聞こえた聲に、少しの間を挟んだ後に応えた。
「待つ」と言ったからには、待つ。
だから獅子を殺るとの聲を受け止め、
ただ信じる念を胸に抱いた。*]
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