56 いつか、どこかで――狼と弓のワルツ――
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重荷だなんて考えたことはないからな。
守りたいと思うものがあるから騎士団に入ったんだ。
それにお前はお前で、俺たちの分まで祈ってくれるんだろう?
[精神的に彼を頼っている者もいるだろう。
祈りは力になる。
それは彼から聞いたか、それともトラウマを埋め込んでくれた老神父が言っていたかは覚えてはいない。
しかし、それだけ伝えると。]
……笑っても良いが、誰にも言うなよ。
[少し拗ねたようにそう告げた。]
何をやらないとダメなのか。
そんな事位解ってるよ……。
[僕は、騎士団の人間だ。赤の狼だ。
でも、僕はそれ以上に父さんの子で。
それは、僕の様な適任はそう居ないと言う事]
[イアンに…。僕よりもずっと団長として適任に思えてしまう彼の存在に。
甘えてしまっている]
……最低だ……僕……
[もし彼が今この騎士団に居なければ。
僕以外に適任も居ない騎士団で、僕は言えなかったと思う。
『泣き言』を]
[『「弱さ」とは「恐れ」のヴェールに包まれる』。
赤騎士団の僕ですら何度も聞いた、セドリック副団長の言葉をこんな時に思い出す]
……言わなかったのは…。
…父さんが何も言わなかったのは…。
僕の、僕達の事。
信頼してくれていたからだと思うのに。
[それは、『弱さ』が無ければ、『恐れ』も無いと言う事。
―『恐れ』があると言う事そのものが、『弱さ』の証明だと言う事]
――くそっ……!
[見張り台の欄干はギリリ、と軋む。
まるで弱い狼の鳴き声みたいに、軋む音が虚空に融ける]
最低だ…。
[もう解っている。だから僕はそれを認める。
何て事ない。
僕はただ、その重責を恐れて居るだけだ]
[ 守りたい――! ]
[彼方の平原に揺れる、大きく蠢く獣の姿を前に。
この砦を、この騎士団を、この場所を守りたいと心も体も叫んでるのに。
ただ最後に、『弱さ』だけが振り切れない]
[朝を重ねる程に重く響いてくる、父親の偉大さ。
比例する様に高まる、期待と言う団長の重責]
僕が弱いから…!
[そんな時に、父さんを超える程の剣の腕を持っていた『彼』が居て。
いっそ彼に全て任せてしまいたい。重責を受け止めきる自信がない。
だから今も僕は…]
[父さんから、団長から、重責から、恐れから、弱さから――]
逃げてる。
[一粒に零れた涙だけは、同胞に響いてしまったか]
[やがて狼の咆哮が。同胞の覚悟が響く]
僕が副団長に……?
僕の力が、必要なの……?
[その返答を待っているのは、彼一人だけでは無い。
狼としての同胞皆が、その意志を確かめる様に耳を立てている]
[同胞の言葉に、彼が団長に成ると言う言葉に。
受け入れる僕自信を、不甲斐無いと自嘲してしまう。]
…これが今の 僕に出来る精一杯なんだ。
[お互いの足りない部分を補えば。
ただ一人だけの物では無い重責なら。
―やっぱり、僕はイアンに甘えている…]
[それでも、翠の瞳に宿った青年の意志は。
漸く覚悟を決めた、狼としての咆哮となった**]
はい。それは、もちろん。
[騎士達が戦に赴く時は、彼らの武運を祈るのが役目だ。
命尽きる者を看取ることもだが、今は脇によけて。
守るために騎士になった、と言うヤニクの毅然さは、
憧れのような感覚で受け止められた]
……大丈夫ですよ。もちろん他言無用ですとも。
[ヤニクさんは公女殿下を敬愛する余り、
思わず逃げ出したくなるほど緊張してしまうそうです。
――仮に人に言っても、そう悪し様には思われない、
寧ろ神父個人の感覚では好ましく思われる気もしたが、
本人の意向のことなので頷いた**]
[びり、と肌を緊張させる様な不穏な空気を震わせる同胞の咆哮。
その咆哮を聞いた狼は、す、と緋色の眼を開いた。]
[一瞬、涙が混じった同胞の叫びが聞こえた。
しかし、その後に響いた咆哮は確かに ]
お前の覚悟、受け取った。
[これで、
誰にも文句は言わせない。]
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―夕刻 墓地― [名もない鳥の為に捧げてくれる神父の穏やかな祈りを聞いていると、漸くじわと涙が滲んだ。 ぐじ、と其れを乱暴に袖で拭うと、口を引き結んで小さな体を埋めた塚を見つめた。 それから、倣うように祈ると、空を見上げて言った]
お疲れ様。ありがとうな。 これからは、どこにだって好きなとこ、飛んで行っていいんだからな!
[神職に祈って貰う事で、鳥の魂も迷わずに済むに違いない。 そんな想いが、少年にひとつの区切りをつける。 葬儀はいつだって生者が前を向くための儀式だ。 悲しいけれど、悲しんでばかりいられない。]
うん…。 ありがとう、ムパ兄! …ムパ兄が思ってるより、皆ムパ兄に救われてるんだよ。
[戻ろうと促され、頷いた少年の表情は普段の明るい笑み。 どうにも謙遜が過ぎる人の多い砦の中、その中の一人であるムパムピスの背をぱしっと叩いたのだった]
(167) 2011/06/30(Thu) 22時半頃
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―厩舎― [班長から休んで良いとは言われたものの、動物たちの顔が見たくなって厩舎に戻る。 だから、赤騎士団の団長や副団長が決まったこと、緑騎士団の休息命令のことはまだ知らなかった。 ミッシェルとペラジーの姿を見つけて瞬いた]
あ、ミッシェルさんと、ペラジーさん。 アモネスに会いに来てくれたんだね。 よかったな、アモネス。
[嬉しそうにしている白馬に目を細めて、少年も嬉しそうにした。]
ペラジーは、その荷物、なんだい?
[ペラジーの持っている荷物を見て首を傾げた]
(168) 2011/06/30(Thu) 22時半頃
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[ミーティングに参加する前。
彼がわざわざ言いふらす奴ではないと思ってはいたが、それでも口止めしたのは気恥ずかしさから。
他言無用と言っていたその返事に、安心したように息を吐いてその時はそのままその話題は続けなかったが。
そしてそのままミーティングに参加し、告げられた命令。]
……休眠命令が出た。
明日にも本格的に戦が始まるだろうな。
お前さんも休める内に休んでおけ。……始まったら、いつ休めるか分からないしな。
[自騎士団の参謀を探す前、ムパムピスにそう伝える。
彼が休めなくなる可能性、それは祈る以外のことで忙しくなってしまう可能性。
そんなことが無いようにと思いたいが、どうなるかはわからないのだ。]
― 夜:赤騎士団執務室 ―
…俺、偵察に行ってくる。
[普段は任務以外の時には団長の傍を離れずいるが、今日ばかりはイアンとベネットが団長と副団長に任命されたばかりとあって。
ここに居ると煩わしそうだと、そっと部屋を抜け出した。]
[……ムパムピスに休息命令の知らせをもたらしたのは、
他でもないヤニクの心の声だった]
休眠命令……
[繰り返し述べた声は、茫然として響いたかも知れない]
わ、分かりました。知らせて下さってありがとうございます。
……いよいよなんですね。
[覚悟していたつもりだが、臆病な自分にはやはり怖いもの。
俄か緊張に喉を鳴らして、頷いた]
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[改まって礼を言うミッシェルに、手を振って慌てる]
ど、どうしたんですか、急にそんな、改まって! はは、これが僕の仕事だから。 お礼を言われるようなことじゃないですよ。 でも、この子たちの世話をちゃんとできてるって認めてもらえてのことなら、嬉しいです。 ありがとうございます。
[少年は明るく笑ってそうこたえた。]
(187) 2011/06/30(Thu) 23時頃
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――あっ、オスカーさん。
[普段任務以外の時は、父親に……今はイアンの傍に着くオスカーだが、今晩ばかりはさすがに色々と煩わしそうだからか。
偵察にと部屋を抜け出すオスカーを直前に呼び止めて]
…気を付けて。
[特段理由も無かったが、その言葉だけ投げかけて]
[茫然としたような声の響きに、小さく息を吐く。
安心させるように、己自身に言い聞かせるように、呟いた。]
お前の役割は、仲間の不安を少しでも和らげることなんだろ。
不安がってたらダメだろうが。
お前の不安は俺たちが、射落としてやる。
その代わり、祈っていてくれ。俺たちの勝利を、さ。
[それは領主公女の願いとは逆のことだとは知らない。
ただ、純粋に勝利を望む。
それが、彼女たちを守ることだと信じているが為に。]
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[ペラジーに鞄を渡され、両手でそれを受け取った。 中を覗けば、手作りの包帯や薬。]
わっ、と。 あっ…! ペラジーさん、いつもありがとうございます!
[鞄を抱えて、深深と頭を下げる]
すみません、物資の数には入ってない所を遣り繰りしてもらって。 よかったな、お前たち。 僕も、何かペラジーさんのお手伝いができればいいんだけど。
[馬は特にその脚を負傷し立て無くなれば、殆ど生きていけない。 負傷する時は軽傷か致命傷かほぼどちらか。軽傷の馬に使うことになるだろう。 それでも、動物たちも騎士団の一員としてこうして手当の心配をしてくれることが嬉しかった。]
(197) 2011/06/30(Thu) 23時半頃
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[オスカーが訪れたことに気づき、挨拶をする。 先ほど会った時よりもどこか晴れやかな表情に見えて、ほっとした]
お疲れ様です、オスカーさん。
[愛馬の元へ行く様子には、嬉しそうに目を細めた。 主に会えて嬉しくない馬はいない。さぞ喜ぶだろうと。 そうして、イアンとベネットのことを聞けば、目を見開いた]
そうですか、イアンさんが団長で、ベネットさんが副団長に! 嬉しいなあ。お祝いが出来ないのが、残念です。
[イアンも、ベネットも、悩んでいたことを思い、少年は安堵の表情をした。]
(201) 2011/06/30(Thu) 23時半頃
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