126 生贄と救済の果てに〜雨尽きぬ廃村・ノア〜
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― 回想・弟を糧にした日 ―
[2年前。
仲のよさそうな家族が何組も殺されるという猟奇事件があった。
それはどう見ても人の仕業ではなく、人型の魔物の仕業だという。
対処の為に、俺とヴェスパタインは派遣された。
初めて見たその時にはそれが弟だとは分からなかった。
分かりたくなかったのかもしれない。
弟が、魔物になってしまったなんて―…。]
[弟は、孤児院にいた時によく読んでやった童話の動物が融合したキメラの姿をしていた。
とうさん
かあさん
どこにいるの?
…どこにもいない。
僕の家族を返して!!
暴走して襲い掛かって来た‘魔物’をヴェスパタインと二人で対処した。
けれど戦っている内に分かった。
―これは俺の弟だと。
瀕死の状態となって人間に戻った弟を、ヴェスパタインは俺の糧にしろと言った。
普段から、率先して人型の魔物を生贄にしようとしない俺に譲ったのだと思う。
けれど。
生贄にするには、あまりに残酷な相手だった。]
[弟に向かって右手をかざす。
躊躇している俺に、ヴェスパタインが声を掛けてきた。
「―イアン。分かっているとは思うが、魔物の救済は重罪だぞ。」
びくり、と肩が揺れる。
頭をよぎった事を見透かされたような気がした。
「早くしろ。息絶えてしまう前に、お前の糧に。」
俺は目を固く閉じて、弟を生贄にした。
目を閉じる寸前、あいつは微かに笑っていた。
にいさん、と唇が動いた気が、した。
―その顔は、今も目に焼き付いて離れない。]
[頭では理解している。
魔物は死ななければ、絶える事のない渇きに襲われ続ける。
自分達に狩られる事が、彼にとっての‘救済’だったのだと。
それでも、弟を自分の糧にした事を正当化する事は出来なかった。
何故、弟を生贄にしなければならなかった。
何故、魔物だった人間を救済してはならない。
アヴァロンの掟を憎んだ。*]
― そして、魔性に ―
[アヴァロンの為に働く事に迷いを抱えたまま、一人で臨んだ任務に苦戦し。
普段は後れを取らない魔物に覆い被さられ。
無茶な戦い方をした所為で魔力の尽きた俺の前に‘それ’は現れた。
宙に浮かぶ白く輝く杯。
―頭に直接届く言葉。
『代償を捧げよ。さらば汝の望みを叶えてやろう。』
俺が望み、捧げたものは。]
[望んだものは、あんな不条理な掟をねじ伏せる事の出来る強い力。
捧げたものは、この身の成長。]
[気が付いた時には、狩る対象の魔物を自分の中に取り込んでいた。
生贄にするのとはまた違う、自分の身体と融合させるような感覚。
俺は、針のような毛と固い甲羅のような装甲を纏った魔物になっていた。*]
でも、今回の任務は俺達を殺す事なんだろ。
[それなら一緒ではないか、と告げる声は、廃屋で聞いたのと変わらぬ響きだっただろう。]
ふーん。そう。
何かあったら言ってよ。
取り敢えず俺、ヴェスさんのところに行ってくるんで。
[彼の事をまだよく知らない故、突き放した口調は彼の地なのだろうと。
返す言葉は仲間に対するものと変わらない。]
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