231 獣ノ國 - under the ground -
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駄目な時のことなんて、考える必要ないわ。
もがいて、抗って、なんとしてでも、生きて。
生きてなきゃ、ここから出られないのよ。
[覚悟を決めていないのは私だけ。そんなことも知らず、言い放って]
ああ、あぁ、わかってるよ。そうだな、ダメなんてありえねぇ。
…抗ってりゃ、いつかは出れる。だろ?
だから、先に出て待っといてくれよ。アタシは一人で出れるから。
[嘘を重ねる。目の前の人間に言っていることと、まるでチグハグな事を並べる。ジリヤは、この空の下で、生きている。そういう事にして、傷つけたくない。そんな臆病な、ハリネズミ。ちょうどいい距離を、見つけられなかった]
[ かけられた言葉に こころは泣いているのに
笑みがこぼれる。
たぶん、僕の中の針鼠が
変わらず彼女であり続けてくれたからだとおもう。
庭で少しだけなでた手の感触を思い出して
僕はそれを抱え込むように 刻むように胸に当てて
ぼくは彼女の声に 無言の別れを告げた。]
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[ 優しい梟は、ずっとずっと泣いていて 走りながら振り返るたびに、じくりと胸が痛んで詰まる。 けれど 立ち止まる訳にはいかないから 僕はいっそう強く 彼女の手を握って。
振り絞るように覚悟を決めた彼女の目は、 いつもと変わらない眼のはずなのに 決意と涙を乗せて、黒水晶のように光って見えた。 いつの間にか、僕のほうが彼女に助けられている。
知っている、暖炉までの風景。 知らない、ここから先の監獄。
暖炉の闇の中へ我先にと、兄が梯子を無視して飛んでゆく。 先に致命的な脅威があれば きっと教えてくれるだろう。]
……先に行くから、 追いかけてきて。
[ ずっと繋いでいた手を離して 僕は暗闇の中に姿を消した。]
(35) 2015/07/16(Thu) 21時頃
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[ ひとつ ひとつ 梯子を登るたびに変わってゆく 空気のにおい。
どこか甘い、脳を溶かすようなあの香りは 長く身を置きすぎて麻痺していたけど 「外のにおい」は明らかに 僕の記憶を蘇らせる。
どれだけ登っただろう、目指す先が白んで その先に兄さんが、 赤い、鸚哥が みえて。]
『 フィル!フィル! コッチ! 』
[ 大扉の前、羽ばたいているのは――――
( にいさん )
知っている、今迄だってずっとそう呼んできた ”兄さん” にいさん。 なんだろう、視界が歪んで わけもわからないまま 僕は 明に縋って泣いた時みたいに、ぼろっぼろに泣いていた。]
(36) 2015/07/16(Thu) 21時頃
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[ 彼女が現実に引き戻してくれるまで、
多分僕は
赤い鸚哥を見上げたまま呆然と立ち尽くしている。
そんな僕等を迎える者はあっただろうか。 行く道を塞ぐものは。
外の世界の足音は、此処まで届いていただろうか。 **]
(37) 2015/07/16(Thu) 21時頃
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私たち、獣がここを出られる日が来るなんて、思っていなかったわよね。
[私は言う。出られる日が来るなんて思っていない。けれど、願うことは許されるはずだと。
きっと来ないと思いながら、ここを出る日を夢見続けた日々]
鮫の彼だけじゃない。私たちもここを出られるって、証明してみせるから。
待ってるから。
必ず、来るのよ。
[女医の命を奪おうとして、殺されるかもしれないジリヤ。
足を挫いていて、今は逃げられないというジリヤ。
彼女が逃げられる未来なんて、私にはわからなくて。
けれど私には、願うことは許されるはずだ。
信じることは、許されるはずだ。
抗い続けた、そしてこれからも抗い続けるジリヤになら、できるはずだと]
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[ ”兄のほうが唄が上手いから” 僕はいらない ”兄とおなじくらい上手かったら” 僕も居られた? さんにんいっしょに、居られたのかな。
……ねえ、にいさん。
靄の中、兄の背中と赤い鸚哥が並んでいた。]
(41) 2015/07/17(Fri) 00時頃
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[ 遠くから僕を呼ぶ声>>39がして 目の前に、兄と暮らした森の薄闇が広がって ぼやけた視界がようやく像を結んでゆく。]
…………あ、 ぁ………
[ 瑠璃の中の井戸のような虹彩が、ぎゅ、と回って ]
おいてかないで……。
[ 混濁した記憶のまま、子供のような口調で 背中を撫でてくれるひとの前で膝を折る。
しゃがみこんだ僕のむこう、夜目の利く梟の目には 薄暗い廊下の中に彼>>40の姿は見えただろうか。
”普段は”指紋が無ければ開かぬという扉は 閉じているのか、開いているのか。 管理者ならば 知っているだろう。*]
(42) 2015/07/17(Fri) 00時頃
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ああ、必ず…
[一度、嘘をついたなら、エゴで、嘘をついたなら、せめて…突き通す、責任がある]
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[ 彼女の声>>46が僕を此処に呼び戻す。 ぐるぐる廻る記憶と、近寄る警備員の足音に 僕の焦りは増していく。
はやく、はやく、いうことを聞いて 僕の両脚。]
………っは、
[ 何のために僕は彼女からジリヤを奪ったのか この翼を空に届けるためだろう?
折った膝が 硬い鱗のような脚が 立ち上がろうと硬い床で無機質な音を立てるのと、
近寄る管理者の足音が聞こえて来たのは ほぼ、同時。
夜を斬るように黒衣が舞う。 誰かに向かって放たれた言葉>>43は 氷のような温度で それに混ざる血の芳香が、重い空気をさらに重くした。]
(47) 2015/07/17(Fri) 01時半頃
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[ 目の前の地面に赤い池が現れて その中で蹲る見知らぬ「人間」。
どうして、とマトモな脳があれば問うただろうが 見上げた血の馨を纏った管理者に 目をそらすように 俯いて。
そっぽを向いた僕の頬を、明らかな外の風が撫でれば 急に開く扉へ目を向けて 扉の傍ら、センサーの前で佇む彼>>44へ ようやく ]
……………どうし、て。
[ やっと音にできたのは たったの4文字で 譫言のように あふれた音。
>>44”言われなくとも”と、湧いた疑問を掻き消すように 僕を宥め続けてくれたひとの 手を取ろうと。**]
(48) 2015/07/17(Fri) 01時半頃
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[ 馬鹿で愚直で工夫もできない鳥頭は、 ひたすらに前にすすむばかりで できることといったら …………。 梟に言ったら許して貰えなさそうな手段ばかり。
( ああ…いつだって兄さんがなんとかしてくれてたんだ )
へこたれたまんまの僕のあたまを優しく撫でる手と 肩にとまって鋭い嘴でどつく兄。
( 痛い、痛い。 痛い痛い痛い。)
生きているから、痛い。]
……いきていたい。 生きていたい。 ぼくは空に、行きたい。
[ こちらを静かに見つめて肩を竦める男>>53に 目的を確かめるように呟いて 僕の翼の手を握る。 僕の名>>57と頷きに、僕もこくりと返して。]
(62) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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[「獣を閉じ込めておきたかった」はずの胸の飾り。 翼が無いのに飛んで行ってしまった 彼のたいせつなひと。
( 僕には、翼があるから )
なんて言葉が浮かんだのは どうしてだか。
ふわり、開いた扉が招く風が 床の上で踊る。 血を吸った和装の袂が揺れて ……けれど、靡くはずの長い髪が無い。
切られた髪、彼が鍵に触れた指の意味。]
―――未練は、断ち切れた?
[ 大扉をくぐる直前、卑劣で優しい彼へそれだけ投げかけて 僕は、前を、上を、未だ見ぬそらを 見る。
――――外へ。**]
(63) 2015/07/17(Fri) 11時頃
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[ 太陽というものは、こんなに優しくないものだったっけ。
記憶に靄をかける甘い匂いは、思い出せないくらい遠く 世界に光が満ちるにつれて 塗りつぶされていた記憶に色が差してゆく。
兄は、そんな僕を知ってか知らずか 我慢ならないというように ひとあし?ひと翼?先に 僕等を置いて蒼穹へ餐まれ 見上げた空のまんなかで 紅の星になった。
繋いだ手>>71は 温かい。 向けられた微笑みは、僕を守るように大きく、優しくて 僕はたからものを守るように彼女をつつむ。]
はぐれそうなのは、兄さんのほうじゃないかな。
[ 僕らの頭上、おおきく旋回する兄を茶化して 彼女が翼を広げる感覚に、両腕に力を込めて目を閉じた。]
(72) 2015/07/17(Fri) 15時頃
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[ この躰からも剥がれ落ちてゆく”甘い匂い”が 僕に過去と兄を返すかわりに 大切なそれを奪っていく。
…………もっとも、兄の時とおなじように 奪われたことにすら 僕は気づけないのだけれど。
耳はバタバタとはたく海風に塞がれて 頬を撫でる潮風が、目元にぴりりと滲みる。 細くひらいた瑠璃色の目は それ以上に美しい水面を映し 世界は白砂青松の如く。
「 にゃぁ ミャォ 」
うみねこが自分達の空に 見慣れぬ客人を迎え入れた。**]
(73) 2015/07/17(Fri) 15時頃
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[ 兄が何かに気付いたように進路を定めてから どのくらい飛んだだろう。
傾いた太陽が眼下の森を赤黒く染めて、 沢の水はオレンジの絵の具を溶いたみたいな朱。 高度を下げれば鼻を掠める森の馨は もしかしたら 彼女にも馴染みのある匂いだったかもしれないが。
人里遠く、ひときわ大きな楢の木の上に 蘇ったばかりの思い出と、 夕日を映して真っ赤に燃える兄が 灯る。
彼女の翼がその下に降り立てば 僕は人でない脚で木に宿り 僕の翼を抱きとめるだろう。
僕ともうひとりの兄さんで作った 文字通りの鳥小屋は 住人を失って埃にまみれていたけれど その一角に、我が物顔の お客がひとり。
『 Coucou, coucou, coucou, 』 **]
(75) 2015/07/17(Fri) 18時半頃
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