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この国の人間は月の無い夜には
家に火を放って灯りとするのか……?
[いつの間にか先ほどの屋敷は煌煌と燃え盛っており、
朔の晩をまるで紅い月のように照らしていた。
物陰に隠れて様子を見ていると、二階の窓から二人の人間が身を乗り出すのが見えた。
それはいかにも頼りない危なっかしさで、誰かが手を差し伸べてやらねば今にも命を落としてしまいそうに見えた。
そう考えるや否やこの身は既に動き出しており、
あっという間にその屋敷の元へ。
そして二人が転げ落ちるその寸前に
抱き留めることができた。]
大丈夫か?さあ、安全なところへ行こう……
[屋敷に火が付けられたのを見て、きっとこの二人も自分のように迫害されているのだと思った。
だから手を差し伸べた。二人を虐める屋敷の中から早く連れ出してやらねばならない。
一人は、その手を取った。]
君の手は温かいのだな。
[我が子と比べて私は笑いを漏らす。
だがもう一人の手の温度は痛かった。
彼に向かって差し伸べた手は払われたのだ。
私を見て叫んだ町人のように、
彼はその顔に恐怖を浮かべている。
そんな視線には耐え切れない。人間の顔だ。
二人を繋ぐ紐が目に入った。*]
ー海辺の或る日ー
[今朝の浜は何と騒がしい事か。
先ず喧噪が聞えてきて「こんな朝っぱらから月がどうとか何言ってやがんだ、妖め」と怒鳴る声もした。
どうやら一触即発の空気。其の騒ぎの方を見やるとどうやら何者かが村人たちに囲まれているようであった。
血を吸う化け物、などとの声も聞える。
唯事ではないように感じられて近づくと、
人々の頭の間から紅い瞳の人が見えた。
とても寂しげな色を湛えた紅いお月様。]
待ちな!
[彼の事が他人事に思えなくって、
人の波を無理矢理掻き分け、
彼の前に立ちはだかり盾になる。]
此の人が何をしたんだか知らないけどね、
金をやるから見逃してやっておくれよ。
[自分は何を言ってるんだか。
赤の他人の為に金を使うだなんて。
其れでもあっしは有り金全部渡して紅い瞳の人を助けてしまった。
落ち着いて彼に向き直ってつくづく見ると、長い黒髪がなんとも美しい長身の異国人だった。
彼がぼんやりと此方を見る視線が気に喰わなかったので、思わず眉を顰めてこう言った。]
別に勘違いするんじゃあないよ、
浜が騒がしかったから黙らせただけだ。
……ほれ、怪我はしてないかいぼんやりさん。
[手を差し伸ばしてやる。
あんまりにもぼうっとしてるから下手すると一日中其処にいる侭かもしれないと思ったのだ。
すると彼はやっと事態を理解したかのようにおずおずとあっしの手を取った。
見れば誰もがはっとするような美しい見目をしてる癖して抜けてるものだと、あっしは思わず笑みを漏らした。]
[その瞬間とても厄介で、けれどもこの上なく優しい妖に魅入られてしまったのだとも知らずに。*]
ー海辺の或る日ー
うん?
[浜辺を歩いていると人間の血を吸うという妖の人相(?)書きにお前が似ていると言って呼び止められた。
あっという間に周りを数人に取り囲まれ厳しい視線が向けられる。
血を貰う際には命までは奪わないが、立ち塞がる者には容赦なくその胸に紅い花を咲かせてきた。
この者たちも同じようにすればいいだけだ。
別に悲しいことなどない……]
こんなに月も紅いから、愉しい夜になりそうだ。
[人間たちにとっては不気味な印象を与える程に穏やかな笑みを浮かべてそう言い放つ。
私の瞳に浮かぶ満月は紅く染まり、人間達を手にかけようと]
“待ちな。”
[血に塗れた月見が訪れようとしたのを紅葉の紅が止める。
剣呑な空気を押し止める声が響いた。見ると赤毛の者が私を囲む輪を割ってこちらに向かってくる。
人間たちの眉が釣り上がり「赤毛頭が」などの文句を吐く者がある。
赤毛の者は私の前に立つと、くるりと向き直り人間たちを睨みつける。見ていると彼は懐に手を突っ込んで金子を取り出し突き出した。
周りの人間達は彼の金子を入れていた袋が空になってしまうまでそれを受け取ると、去っていった。
どうやら彼は私のことを助けたのだと一拍遅れて気づく。
何しろ「助けてもらう」なんて体験は初めてだったから。
赤毛の者は私に向き直ると、顰め面で「別に」とか「勘違いがどうの」と言いながらも最後にこちらに手を差し伸ばしてきた。
手を差し出されるのも初めてのことで、私は戸惑いながら彼の手を取った。すると彼はふっと微かに微笑みを浮かべ、その紅い髪が揺れる。
同じ紅でもその椛の如き紅のなんと優しげなことか。
その心安らぐ紅をずっと眺めていたくて、気がつくと私はこう口にしていた。]
どうやら君は私と同じ存在のようだ。
助けてもらった恩もある。君を私の城に招待しよう……*
![]() | 【人】 石工 ボリス[抱き締めた相手が胸に何の違和を覚えているとも知らず。 (32) anbito 2015/01/01(Thu) 00時頃 |
![]() | 【人】 石工 ボリス─ヒューの部屋─ (33) anbito 2015/01/01(Thu) 00時頃 |
![]() | 【人】 石工 ボリス[赤い瞳を見つめていれば、やがてその瞳は閉じられる。 (35) anbito 2015/01/01(Thu) 02時半頃 |
―はじめての食事―
[吸血鬼の手料理は最初それはそれは酷いものだった。
満面の笑みで出された炭化した魚のなれの果てを、
『やっぱり俺は此処で死ぬのだろうか』
曇り顔になり見つめて]
料理なら俺が……。
[作った方がマシだろうと謂いかけて、
彼の、料理中の真剣な横顔と今目の前にある笑顔に、
結局それ以上言葉を続けることができず、
肩竦め嘆息することになる]
有難う。食べる。
[出会ったときの、孤独な眸。
思い出してしまったのだから仕方ない]
……だ が、不味くて死にそう だ……っ。
次はまともなもの作ってくれ……。
[不平不満ははっきりと、口付けた後で主張した*]
![]() | 【人】 石工 ボリス んな、可愛いこといいなさんな。 (37) anbito 2015/01/01(Thu) 13時頃 |
ー羊飼いの或る日ー
[道をゆくと右手に広がる草原に羊の群れと白髪で老年の羊飼いがいるのが見える。眩しい日光に顔を顰めながらその牧歌的な風景を通り過ぎる。
夜にその道を戻る。草原からは濃厚な血の臭いがした。
私はそこをそのまま通り過ぎようとしたが微かな呻き声が聞えた。その声は確かに「助けてくれ」と言っていた。
私は草原に足を踏み入れて声の主を探し始めた。
声は最初に聞えてから途切れた。
もう死んでしまったのだろうか?
辺りには羊の死体が転がっているようで避けながら歩く。
人間なら、すわ野党にやられたか狼か傭兵集団かと推理するところであろうが、吸血鬼である私にはそんなことは興味なく、ただ救いを求める声の主を探す。
やがて胸から大量の血を流して仰向けに倒れている人間を見つけた。まだ息はあるようだがこのままにしておけば死ぬだろう。勿論草原は街から遠く離れており、医者など近くにいる訳はない。]
助かりたいのか……?
[私はこの者の命を救えるかもしれない方法を一つだけ知っていて彼にそう尋ねた。その者はもう声も発せなかったが、瞳が問いを肯定するかのように一回だけ瞬いた。]
では……
[私は彼の元に屈み込む。
危険過ぎて我が子にはとても試せない方法だが、
死にかけなら死んで元々だろう。
私の血を大量に流れ込ませて治癒能力を上げさせるのだ。
大抵は拒絶反応が起こって命を落とす。
だから我が子達には一晩に薬は一錠だけを厳守させている。
だが生き残れればクランに入ったばかりのチョウスケよりも血が濃くなるだろうなと思いながら口を開け牙を剥き出す。
牙を自分の舌に立てて傷を作り、それから、胸から血を流す老爺の口を開けさせて唇を合わせた。
彼の舌に噛み付き吸う。
やがて吸血鬼の血と人間の血が咥内で混ざり合い、血流の道が出来る。老爺の体内に向かって吸血鬼の紅い血が注ぎ込まれ始めた……
その吸血鬼の試みが成功したか否か。
それは現在吸血鬼の傍らに白髪の執事が控えていることから察せられる。*]
この私に次があると思うのか……ニコラス。
[また誰かと共にあることを望んでいいのだろうか。*]
![]() | 【人】 石工 ボリス[はらり、簡単に解けていく包帯。 (64) anbito 2015/01/01(Thu) 22時頃 |
![]() | 【人】 石工 ボリス さあて。 (65) anbito 2015/01/01(Thu) 22時頃 |
![]() | 【人】 石工 ボリス いいの。 (69) anbito 2015/01/02(Fri) 00時頃 |
![]() | 【人】 石工 ボリス じゃあ、『お願い』しても…ええ? (70) anbito 2015/01/02(Fri) 00時頃 |
……愛して、る。
愛してる、……クアトロ、
[ひゅ、と、息を一つ吸う音の後。]
……、……ボリス、……?
[確かめるように、名前を呼んだ。]
![]() | 【人】 石工 ボリス たく、……かわええヤツ。 (73) anbito 2015/01/02(Fri) 01時半頃 |
……、っ…ひゅ
[返される言葉は『初めて』の『愛してる』。
返されたことのない、愛の囁き。]
ん?
……はは、うん…ヒュー。
[呼ばれる名は二つ。
どっちも呼ばれて嬉しいだなんて、贅沢であろうか。
幽閉される前のものだった【ボリス】も
この施設に来る前に殺されたはずの【クアトロ】も
愛しい彼が紡ぐなら。
零れ落ちそうになる涙が、薄っすらと青い瞳を滲ませた。]
…ヒュー、―――愛しとる よ。
[やがて繋がる為に、一つになる為にと
指を抜いた場所に硬い熱を宛がいながら、囁いた。]
[かつて、誰の腕で抱かれたのか。
それらを覚えていられないのは、これが最後になるように。
これからは、言葉の一つ一つを覚えていられるように。
そういう決心では、この行為は『初めて』となるのではないだろうか。
そんな思いつきを口にしては、甘いと笑われてしまうだろうか。
涙を薄ら滲ませるその頬に、そっと指を添わせる。
唇を、寄せて。]
……ごめん、
愛してる、 ……ありがとう、
[宛てがわれる熱を迎え入れるように、息を深く吐いて。
自ら唇を寄せれば、目を閉じた。]
![]() | 【人】 石工 ボリス[指先が中を擦りながら、思い出すのは浴場でのこと。 (75) anbito 2015/01/02(Fri) 02時半頃 |
[もう二度と『忘れてもいい』なんて嘘は吐かない。
自分が傷付くのも、彼が傷付くのも。
そんな永遠は、嫌だから。
はたりと、耐え切れず涙が落ちた。
ただ一度だけ情けない顔を晒したのは
彼がごめんなんて、有難うなんて謂うものだから。]
……阿、呆。
もう…忘れんな。
忘れんく、しちゃるけ。
[頬に添えられた手に手を重ね、指先を絡めたなら。
ぎゅ、と強くその手を握る。
もう二度と離さないと、謂えない代わりに強く。]
ヒュー…、っ
[力を抜くように吐かれた息にあわせて、腰をぐっと進めた。
熱の切っ先は、慣れているだろう『初めて』のそこへ
ゆっくりと押し入っていく。
吐き出す吐息は、甘い。
繋いだ手は離さずに、もう片方の手で頭を抱きしめた。]
……何泣いてんだ、ばか、……
[青を滲ませた雫が、頬へと触れた掌へと落ちる。
掌を滑らせるようにその雫を拭えば、身体を寄せて刺青の瞼に口付ける。
その涙に濡れた掌は取られ、指と指が絡みあい。]
ん、……忘れない、……忘れないで、……思い、出していくから、
[過ごした時間の、一つ一つを。
少しずつでいい、思い出していきたい。
その決心を、誓うように、掌を握り返す。
指が快楽を齎していた時間は、本当に僅かだった。
指の代わりに押し入る熱に、く、と喉が反る。
それを捕まえるかのように伸びてきた手に導かれるように、再び顔を寄せて。]
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