194 花籠遊里
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/* おうや、おうや、お疲れサマ。
さあさお座敷。
お好きに喋ってくれて構わないよ。
(揺り籠ぎっこんばっこん)
/*
花が花にも、蝶が蝶とも。
咲き乱れてくれるのが、一番。
(揺り籠ギィコギィコ)
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ー数ヵ月後ー
[僕は白のタキシードに身を包んでいた。
手を取る相手も純白のウェディングドレスを身に纏っていて。周りからは花と祝いの言葉が降り注いでいた。
にっこりと笑ってみせる僕の姿はいかにも 『しあわせ』そうだったろう。
けれども二人の式に参列した誰もが本当は知っている。 花嫁は没落しかけていた由緒正しい旧家の令嬢で、姓を売ることで家を持ち直したのだと。 花婿の親の成金は財産の次は地位を欲し、家柄を金で買ったのだと。
格のあるこの家と婚姻関係になるからと商売を贔屓し援助してくれる人間もたくさんいて、それで僕の家の商売は更に大きくなった。
もうどうあっても逃れ得ないのだ。
身を包む純白は陰惨な暗い地下牢でそうであったのと同じように、囚われ人であることの確かな証であった。]
(6) mikenek 2014/09/23(Tue) 21時半頃
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ーさらにそのまた後ー
[巷ではある一冊の恋愛小説が出版され人気を博していた。様々な語に訳され隣国でも評判らしい。
主人公は遊郭で生まれ育った遊女で、ありとあらゆる不幸を体験した後に想い人と無事添い遂げて終わる幸福な物語。
作者曰く、最初は悲劇にしようと思っていたのだけれど気が変わったのだとか。
そんな作者の名前はNicholas Belle。 ペンネームでなら旧姓が使えるだなんて言ってたそうな。]
(7) mikenek 2014/09/23(Tue) 22時頃
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‘Tis better to have loved and lost
than never to have loved at all.
(一度気付いてしまったならば、
知らない頃には戻れません。)
True love never grows old.
(本当の愛は、永遠に育ち続けるのです。)
朧さん。
お願い事をしても、よろしいでしょうか。
もしも、金色をした『蝶』が『櫻』を探しに来たなら。
約束を果たせずにごめんなさい、と。
『櫻』の季節は終わったのですと、お伝え願えますか?
[僕は特別な、櫻色のリボンを渡します。
どうかそれを渡してくださいと、告げて。]
[花籠での約束もまた、たった一夜の泡沫です。
『蝶』は移ろい、『花』は止める手立てを持ちません
そうだとしても僕は───…]
───僕は、『しあわせ』です。
どうか、あなたも『しあわせ』になってください。
お前の頼みを断る筈が無いだろ。
一語一句違わずに伝えると約束しよう。
[そっと櫻色を受け取ると一度席を立ちそれをしまう。
『花籠』での口約束など一つの泡。
時が過ぎれば、ぱちりと弾けて消えてしまう程の脆さではあるが。
それでも朧は『約束』を破る事は無かっただろう。
このくらいでしか、分けて貰った物の恩返しができなかったから。
そして最後に両手をついて礼の形を静かに取り口を開く。
……こうでもしないと、言いたい事は伝えられぬ気がしたから。]
世話になった。どうかお前の行く先に、幸多からんことを。
……元気でやれよ。
/*
丁は素直なんだか素直じゃないんだか。
私に抱かれたいならいつでも部屋においで?
誰よりも高く買ってあげるから。
(揺り籠ぎこぎこ**)
/*
丁助が逃げるのなら、追わなくちゃね?
まあ、私が帰るのを待っていなさい。
真っ白な服なんて着なくてもいい。
一糸纏わぬ姿でお待ち?
(ふふふふふっ**)
お前も……しあわせに。
おうじとして今、感じているしあわせも本当のことだろうと思う。
けれど、今度は、花籠の外に生きる者として。
[きっとまた、別のしあわせを。]
――花主様、丁で遊んでくださいませ。
[御伽話を片手に。
天秤にかけた未来と悪夢。
顔を上げ。
いっとう艶めき微笑むのは、心を壊さぬよう仕舞い込んだ所為*]
嗚呼。
人に成るとかだったか。
―――好きにするが善いさ。
[男には興味もない。
花でも蝶でもないのなら。]
―――お前だけを愛してやろう、“丁助”。
[艶めく顔に、返すは歪な笑みひとつ。
さあさ、焔とひとつ戯れようか。
御伽噺なぞ、始まる狂宴に燃やしてしまえ*]
―奥の部屋―
[一階奥の部屋にて、揺り椅子がゆらゆらと揺れる。
座っていながらにして、まるで見下す男の瞳。
焔を捕らえたのなら、微笑み告げよう。]
立ったまま。
自分で自分の雄を勃たせてごらん。
指を絡め、扱き。
[さあ、と動かすは顎ひとつ。
きぃきぃと揺り椅子が啼いている。]
蝶が花を買いにやってきても
善しと言うまで、自慰をお続け。
[まだ見ていてやろうと、足を組む。]
― 未来の話 ―
[冬も終わりに近づくある晴れた日、
鳥篭へと一通のファンレターが届く。
出版社経由ではないそれは、
シーリングに異国の文様を刻む異質なもの。
封を切れば、癖の強い文字が躍り、
彼の捕われた籠の中へ、何処か懐かしい香りを拡げた。]
Cher Belle ―――
突然の手紙をお赦しください。
貴方の著書を読み、筆を取らずにはいられませんでした。
貴方の書かれた物語は大変美しく、我が国でも老若男女がこぞって貴方の世界に恋をしています。不幸の末に結ばれる結末は万民の心に訴えるものがあったのでしょう。
けれど、私は貴書を拝読し、胸を高鳴らせる少女等とは別の思いを抱きました。
貴方にとっては取るに足らないものかと思いますが、何卒このまま読み進めてください。
風の噂で、この物語の結末は最初悲劇だったと聞きました。
悲劇を変えた筆はなにを想い、結末を足したのでしょうか。
幸福と言うのは私のような若輩者が語るものではありませんが、酷く多面的なものだと思っています。幸福な結末を迎えた物語の主人公は貴方から見て、幸せでしたか?
私は貴方を知った気でいましたが、まだまだ足りないようです。
興味と言っても差し支えないこの感情は、いずれ貴方の傍に寄るでしょう。
貴方の一筆には才気が宿るのは周知の事実。
ですが、貴方を満たすには長い時間が掛かるのだと思います。
いずれ訪れる歪んで、何処か歪な幸いこそが、貴方の求めるものではないかと、そんな風に考えるのです。
続刊を楽しみにしています。次は貴方の悲劇を、―――貴方から見えた結末を教えてください。
―――…そうそう、来週、櫻を連れて観光に邪魔をします。
貴方の見つけた美しいものと、あまいショコラを用意してくだされば幸いです。
………また、貴方を識りに参ります。
――― Votre grand fan .... Amitié **
アイして下さいますか、花主様。
[言葉に何の意味があろうか。
枕元で囁くべきは、蝶へ、蛇への媚ばかりの筈。
本心が其処に含まれるとは、誰も期待などしないもの。
――魅せるべきものは主の期待をなぞり、唯唯快楽に溺れれば良い。
羞恥を目元に、吐息を震えさせ、望まれるまま。
着物をたくし、自慰を見せ、蝶の視線を遮るべく瞼を閉じて。]
ー未来の話ー
[ファンレターが来た。珍しいことではない。
隣国からのファンレターだということも、しばしばあることだ。
だが出版社経由ではなく直接僕の住まいに届くというのはなかなかあったもんじゃない。この鳥籠までわざわざ誰が…?
僕は封を切って中身を読んだ。
そして最後まで読み終えた僕はまた手紙の最初に戻って"Cher Belle"の文字を目に入れ、苦笑した。]
美しいものとショコラね…はは。
はいはい分かりましたよ。
[歪な幸い、ね。
手紙の主の来訪を待ち望んで歪められた口許は楽しみのためか、それとも愉しみのためか……
僕は指を節くれ立たせる筆胼胝に無意識に触れながら、さて美しいものとショコラは何を用意したらいいだろうかと考えた。]
―――丁助、誰が目を瞑れと?
[たくしあげられる着物の隙間に揺れる雄。
触れなどしない。
嬲りつけるように触れるのは視線。]
こんなにも愛してあげているんだ。
ほうら、その瞳を私にむけておくれ?
[やがて蜜でも溢し始めるだろう。
触れることなく、男は揺り籠の上。
痴態をしかりと、その目に刻む。]
――畏まり、ました。
[赤褐色を、愉悦を浮かべているだろう花主様へと。
眉に快楽と戸惑いが毀れる。
アイしてくださるお方への余興。
自身のモノを扱く手付きは、早く終われと滲む雫に構わずに。]
お前のものはどうなっている?
よく見えないんだ、教えておくれ。
[鬱蒼とした髪を晒し、垂らし。
その手が扱う肉欲の状況を示せと唄う。]
はしたない蜜が垂れているね。
甘い味か、口に入れて試してごらん?
[先から溢れる透明な滴を
自分の口へ運べと告げる。
抗うことなど赦さぬ、強制。]
―――まだ、果ててはいけないよ?
[早くなど終わらせぬ。
悪夢を、君に。]
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