― 猫の刷り込み>>*135 ―
[盲者の手が首筋へ触れてくれば、稚児は一瞬止めた息を漣のように吐く。
新しい名を呼ぶ声も、耳を弄う指も、初対面の相手を知ろうとせんもの]
あ…あの、以前…
街、いえ ――街で お見かけした事が…
[しどろもどろな答えに、安堵が混じる。
裏色街の灯、古い夜。泣いて怯えていた幼い少年のことなど最初から覚えていないかもしれないが。
あの優しいお方が視覚に禍を負ったと聞き、今ならばあるいは今一度、お逢い出来るのではとその一念で]
お噂を耳にするにつれ、…いつかお仕えしたい、と…
[水揚げ相手として会った旦那様が、実は風紀取り締まりの為に動かれていたお偉い方だったと知ったのは夜の明けてから。
人攫いと結託していた遊郭はやがて取り潰しにあい、年端もゆかぬ男娼達はあるいは家族の元に帰り、戻る家なき者は寺へ稚児として預けられ―――]
……その。何かお召し上がりになられますか?
(*146) tayu 2015/01/14(Wed) 21時頃