[ 鸚鵡返しに落とされた“なまえ”>>*8の響きに、音程にふ、と意識を持ち上げる。先ほどのじわりと警戒を帯びたそれとも。平生の聡明なくうきとも、どこか異なるいろだった。
黒い瞳の奥底で、警鐘が鳴らされているとも知らず。同じ声音から溢れたそれにやはり、聞き間違いではなかった、と思いながら。
容量を超えた水があふれるよう、つづいたあらたな“なまえ”を、自らも口内で転がす。とうさま。*
だれかの名前だろうか。
もし彼女が少しでも、己の踏み込みじみた言葉を避けるようであれば。と、面体の下口を噤み。
――それでも、彼女が未だ耳に自分の声を届かせたなら。本に触れ、“おおく”をしる梟へ純粋に尋ねるように。
“ かあさま ”“ とうさま ”
と、微かに低い己の声に反芻しては、
――それは誰のこと? と、初めてしる“なまえ”に、首を傾げただろう。ここのだれかだろうか、それとも、と。レンズ越しの目を細めながら。]
(*10) 2015/07/12(Sun) 19時頃