[私が吸血鬼となったのは、四十手前の齢の事だった。吸血鬼となってからも、二十余年、私は作家として活動を続けた。その間、担当の編集者は、変わる事なく同じ男だった。
にわかに太陽から離れた私を、何より長年が経っても老いる気配のない私を、いつからだろうか、彼も疑問に思ったのに違いない。けれどもそれでありながら、彼は私から離れようとはしなかった。叶うまで私の担当でいようとするらしい、ありようだった。
だから私は――思えばまだ「若かった」のだ――彼ならば私と長い時を文学の追求に生きてくれるのではないかと思い、正体を打ち明けて――それには彼はやはり得心から受容の姿勢を見せたが――彼はそれでも人外に身を窶す事は是としなかったのだった]
[思えばそれが私にとって最たる、
人と人外との隔絶を、
己の逸脱を、思い知らされた時だったかもしれない]
[かつて甘い血を具えていた、
残骸の髑髏を見て、おもう]
(-37) mimu175r 2016/12/09(Fri) 04時半頃