[とん、とブーツ越しに蹄を軽く鳴らして立ち上がり。ゆらりと少し首を傾け、広まった身長差を僅かに埋めつつ、見下ろす。]
……お誘いはいつか。一回でいいですけど。
良い食事覚えて、今の生活に戻れなくなったら、困るんで。
ありがと、 …ございます。
[――少しだけ、いつもの日常だと思えました。
傾げた首を元に戻し、両頬をマフラーにしっかり埋め直しては、やわやわと唇だけを動かす。敬語の方が、少しだけ頬に優しい事を知った。]
…それじゃ、買出し行かないといけないんで、
["もしかして吉サンも獣ですか"。そう尋ねる事は、とうとう無かった。言葉を終えれば、向き直って会釈を一つし、最後に相手の瞳へ視線を当てる。]
―― また。
[特に気を引き留められるような事がなければ、そのまま踵を返して、商店街へと足を向けた。*]
(276) 2014/10/04(Sat) 12時頃