口元に手を当て、まるで不思議を守る彼の姿>>237にムッとする感情を通り越し、彼女の御伽の言葉>>253も合間って、ただぽかんと僕は口を開けていました。
遠くなる二つの影。名乗られることの無かった本名。然しチェシャ猫とは、否定の気持ちも薄れる程に、似合う渾名ではあると片隅にて思っていました。
「……、あ、忘れてた。」
ふと僕は思い出しました。元来僕はここに、花を買いに来たのです。
先の彼から投げられた質問>>236には、言い淀み軽い笑いを返すことしか出来なかったけれど。
先の自己紹介>>206を聞いても、店員で合っている安堵と共に僕は彼に話しかけます。
「…――碧に合う花を探しているのですが」
先の戯けたような、阿呆らしい表情は打ち消しました。にこにこへらりと取り繕う意味も、無く。僕の脳裏に張り付き決して剥がれることのない、寧ろ僕を侵食してくる碧を思い浮かべ、瞳は色を無くして行きます。ああ見えない、まるで水の中のように、ボヤける視界は店員の姿をぐにゃぐにゃと朧なものにしてしまう。僕は目を擦りました。
(275) 2014/10/02(Thu) 09時頃