[ >>224 差し出される名刺を受け取ると、黙ったままそこへ視線を落とした。――当然、流石に住所は書いていない。
名の知れた舞台俳優が、初対面の高校生に住居を知らせるのも妙な話だろうとは思う。名刺をポケットにしまい込みながら、彼の言う良い店の品数が大量でないことを祈った。]
――……、
[ “幾千にも”、と彼が上品な仕草で裾を持ち上げれば、無駄のないそれに視線を取られる。
傾げた視界には、綺麗な形に縁取られた笑みが色濃く残った。こちらの動きを待たずに彼が踵を返せば、ひらりと振られる手の動きを景色の端に映す。
――確か相手役は、答えて幾千にも不機嫌になっていた気がするけど、とその背を眺めつつ。これが一度目だとして、確約を貰ったようなものじゃないのか、と緩い思考を回した。一度別れてそれっきりより、ずっと良い。
こちらも地図を確認すれば、方向に見当を付けて歩みだした。
――合ってればいい、と通りの名前を確認しながら、商店街の来た道を戻って行く。*]
(250) 2014/10/02(Thu) 03時頃