[――それから。
グロリア・チェンバレン・ワイズの姿は一度だけ本宅に現れた。
世話になっていた使用人へそれぞれ手紙を託して。
長い旅行に言ってくるわ、と言い残して全ての荷物はそのままに、以来その本宅へ戻ることはなかった。
その表情が以前とは少し違っていた事に、気づくものがいただろうか。
それから半年経っても、帰ってくるように言われた実家へ戻ることもなく。
また、一度は本宅に戻り仕事をしていた彼女の付き人も、息子により暇を言い渡されその後姿を消した。
漸く突き止められた彼女の別荘にも、彼女の姿はなかった。
ただ生活した跡は残っていて、けれどそれもずいぶんと時間が経ったような。
息子は付き人との関係を疑ったが、後に見つかったその姿は性別が変わっていて、そこで調べる糸は途絶えた。
その「彼女」の手に握られた小さな編み物。
編んでいたらしいそれは、小さな指の形をしていた*]
(243) waterfall 2010/04/18(Sun) 22時半頃