――……ッ、
[息を飲む。椅子から立ち上がる。後退る。
剥き出しの犬歯には>>144怯える視線を。そうして与えられた恐怖には、引き攣った吐息を。
ジャニスが"Belle"ならば、目の前の青年は何だというのだろう。まさか、"Beast"ではないだろう。……ジャニスには到底、彼に"真実の愛"を教える事など、出来やしない。
演技を求められるのならば、答えねばならない。そうは分かっている。
けれど震える唇は、まともに動いてはくれない。観客は目の前に、確かに居るのに]
[好奇心は猫をも殺す。
人を殺すのは、退屈と無関心だ。
……ならば。ジャニスを殺すのは、果たして何だろうか。
――そうしてジャニスは走りだす。
目の前の青年から逃れる為に。自らを襲う恐怖から逃れる為に。
"刺激を与える事が一番危険"だとは、分かっていた。逃げるのはきっと得策ではないのだろう。だけれど、ジャニスは一縷の望みに縋ってみせる。
獣の耳と、立派な犬歯を持った青年が、自分を追いかけて来ない事に賭けて。ただ、ひたすら。走る、走る……、]
(164) 2014/10/03(Fri) 21時頃