[朝はよく見えた松の木も、日が沈めば木肌を見ることは難しい。視線を庭からずらし、何かを探すように賀東荘前の道を眺めた。
いつも決まった時間に賀東荘の前を通る男>>13がいる。
締め切りを乗り越えた朝、デスクの前に座るのを躊躇う夕方、それから今日みたいに寝起きの夜。日の出と日の入りの使者でもあるかのように、いつも変わらぬタイミングで見かける姿だ。
当然己は毎日眺めている訳ではないから、いつもである保証はない。しかしいつ見てもタイミングが同じなら、見ていない時もきっとそうなのだろう。
今日はどうだっただろうか。もし見かけたならまだ日が沈んで間もないということだ。時計代わりの姿をぼんやりと探しながら、蜜柑を一房ずつ口の中へ放り込んでいく。
知らない誰かの蜜柑は、脳が蕩けるように甘かった。]*
(144) 2021/02/13(Sat) 20時半頃