[仮に通信が届いていたら、イアンは気がついていただろうか。
混乱ゆえの早計だったかもしれないが、あの時、呼んだ彼の名前>>109に。
狼は、名前を呼び合うことで、個体の識別を行ったりはしない。
狼に近いヴェラもまた、相手を名前で呼ぶことはない。
名前を口にするのは、狼では認識できない『魂』、死した相手へ向けるとき。
だから、波打つ心の中で、『そうであれば』彼を死へ送るとの意思を、無意識に口走っていたのかもしれない。
イアンが、ヴェラのそんな習性を、知っていたかどうかは分からないが。
「私のところに来い」と言いつつ、自ら駆けていく矛盾。
ヴェラには窺い知れないことではあるが、それは奇しくも、廃屋を出たイアンの心情>>47と、似通ったものであったのかもしれない。
もっとも。雨により妨げられるこの廃村の中で、本当に彼と出会えるかどうかは、まだ分らないことではあるが]
(143) 2013/06/16(Sun) 17時頃