「なんで」も何も。
こうすれば落ち着くと思ったのですが……矢張り刺さりますねえ。
しかしこれだと―――まるで私が泣かしているみたいだ。
[ じくじくと刺された痛みに悲鳴を上げるてのひらを衣服に拭って、男はちょいちょいと彼女に手招きした。
……手招きして、その姿も寄って来なければ。ムリにでもその手首に触れて、食堂へと歩き出したことだろう。
彼女のそれは、「触れられた」ことへの動揺か、なにか。
勿論、傷付くことは知っていた。其処まで男は愚かでは無かった。――ただどうせ、あのままでも、誰かしらの怪我人は出ていたのだろう。 プラマイゼロ、良い落とし所だと、思ったのみ。]
……どう致しまして。
では彼女は暫く、私が。
[ ――そうしているうちに出された許可に、男はにんまりと笑みを深め返した。 その差中、頭を下げられたのには軽く此方も会釈を返し。
ハリネズミの彼女は、未だ涙をこぼしているだろうか? 随分と真直ぐに、素直に。素直過ぎるまでに動く彼女の手を引きながら。
…しかしこの仕草に抵抗があるなら、彼女に着いて来るよう申し付けつつ。 ]
(141) 2015/07/11(Sat) 02時頃