――第2棟・廊下→――
[ 吸収缶をこんこんと叩いて、息を吸った。
途端流れ込む、甘ったるいにおいに面体の下で顔を歪めては、排気口へとなぞり触れる。塵どころか、外気の匂いすら通さない筈の。
――……そう、“ハズ”の。外界から硬く覆われている、“ハズ”のそこを指先で弄り、もう一度と息を、吸う。]
ゴホッ、……
[ 鼻腔をのぼるなじんだにおいはやはり、変わらない。過敏な器官に染み入るそれに大きく咳き込んでは、マスクごと体を揺らした。
いきおいズレた面体を整えつつ。平均台の上でブレた軸を正すよう、薄暗い廊下の先をふらりと進む。
2重に覆われた濁った視界、硝子の向こう。いくつかの人影(獣影かもしれない)と、同じくなじんだ景色を過らせ、
――におうハズの花を模した、におわない「ぞうか」から、面体の下視線をそらす。]
(129) 2015/07/09(Thu) 23時頃