―図書館→廊下―
[シーシャとユリを不安にさせてしまっただろうことを、彼は悔やんでいた。
足取りはやや、覚束無い。
申し訳ない気分で体ごと重い。
シーシャの声が甦る。その声を、様子を、痛みとともに刻みつける。>>125>>126
鱗が増えたためか、幻覚を払い除けるために頭を振る。
通り際に、様々な人と彼は邂逅する。
彼の幻覚は、残酷なまでにやさしかった。
――彼が懐いていた、奇抜な格好の男が花を渡そうとする。
――白いワンピースを着た、明朗な女性が飲み物を渡そうとする。
――目の悪くなっていった、少年が抱っこをして欲しそうにしている。
その幻をかいくぐって地下の図書館から廊下へと出た時には、彼は脂汗で滲んでいた。
鱗が突出した前後は特にひどい。
――…鼻孔をくすぐる花の匂いは、ラベンダーだろうか。その花を好んだ人もいた。]
(127) 2015/06/05(Fri) 23時半頃