……、ハ。上出来。
[名前を呼ばれる。さやさやと鼓膜を揺らす、その音。
発した言葉よりもずっと満足げに、笑い声を漏らして。固定した顔を解放してやる、ついでにわし、と一回、その癖のある髪を撫でた。
実際それは、そう珍しい遣り取りでもない。名前、言ってみな。サミュエルと行き会えば、数日に一度はそう声を掛ける(半ば強要とも言えるが)。
他の患者がどう考えているかは知らないが。忘れたなら、思い出せないなら、覚えればいい話だ。覚えられないなら、何度でも教えればいい。
疑う事を忘れたペラジーに、何度でもおかしな悪戯を仕掛けるのも。その辺りが、彼なりの理由であって。]
鬱陶しいなら剪定しちまえ、そんな花(モン)。
なんならオレが毟ってやるよ。
[それでも、いずれ忘れられる事に、何も思うところが無いわけでは無く。
心情が表情に出ぬよう、押し殺すように、忌々しげに。人差し指で、ぴ、と目の前で揺れるその花を弾いた。]
(109) 2014/09/04(Thu) 01時半頃